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ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。

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桜(6)
 術後の経過も概ね良好であった。病理の結果もリンパ節への
転移も認められず、抗癌剤の治療も必要なさそうであった。
 2人目のお子さんを考えることもあるだろう。抗癌剤は生殖
機能も障害する。若い人には必要がなければ極力使いたくはな
かった。その結果にまたほっとする。彼は食事も食べられるよ
うになり点滴も序々に切ることができ退院の日が近づいてきた。
 退院前にお話する。「お疲れ様でした。経過は良好で無事に
手術もおわりました。」「有難うございます。」「とった組織
の検査の結果ではリンパ節転移は認められていません。手術
中に行った腹腔内洗浄細胞診も陰性でした。進達度も筋層に
は癌細胞は入っていませんでした。手術で充分とりきれて
いると思われます。術後の抗癌剤の治療は必要ないと考え
ます。」「そうですか.」「これで治療自体は終了ですが、この
病気の場合は再発ということを考えなくてはなりません。外来
で5年経過をみさせていただくことになります。まず再発する
可能性はないとかんがえていますが..。よく頑張られました
ね。引き続き外来にてみさせていただきますので宜しくお願い
します。」「こちらこそお願いいたします。」

 無事に彼は退院し社会復帰していった。定期的に私の外来に
通院をつづけた。特に再発所見もなく2年経ったとき私は病院
を転勤になった。今年で4年経つ。きっと元気でいてくれるだ
ろう。多分、いい父親をやっているのではないだろうか。今年
幼稚園に入園したであろう彼の息子と彼と奥様の肩に桜の花び
らは美しく舞っているのだろうか....。


 明日から学会出張で2日ほどブログお休みします。いつも見て
くださる方々には申し訳ありませんが、また日曜日にアップさせ
ていただきたいと思います。
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桜(5)
 私は言った。「もちろん実際にお腹を開けてみて、とって
きた胃を顕微鏡の検査にだしてその結果をみなければはっき
り言うことはできませんが、まず手術で取りきれるとかんが
えています。しっかりと治療をうけていただければまずご心
配いらないかと思いますが。」彼は言った。「万一、思って
いたより進んでいても正直に私に伝えてもらえますか?」
「ご本人が望んでいらっしゃる以上は嘘をつくつもりはあり
ません。きちんとお伝えします。でもその心配はほとんど
無いと思っています。」「わかりました。」

 桜が開花を始めたある春の日に手術の日を迎えた。
 開腹する。予想どおり転移と思われる病変は認められない。
 腹腔内洗浄細胞診(お腹の中を生理食塩水で洗浄し、その
洗浄液のなかに癌細胞が含まれていないかをチェックする
検査)を行い、型どおりの手術を開始する。幽門側胃切除
(胃の出口側2/3ほどを切除)(D2)(癌取り扱い規約二群
までのリンパ節を切除する)空腸間置術を施行した。
 手術後、とれた胃をもってご家族にお話する。
 「手術中に大きなトラブルはなく順調に手術は終了しまし
た。術前の検査どおり、お腹の中に病巣以外に病気が広が
っている所見は認められません。手術で癌は取りきれている
ものと考えています。まず問題ないと思いますが、術後
に予期しない合併症が生じましたらご説明いたしますので。」
 「わかりました。有難うございました。」
 麻酔からさめた彼を集中治療室に運び、術後の処置を行い
とったものを標本整理する。(病理検査に出すために胃から
リンパ節をはずし、リンパ節ごとにわけてホルマリン固定
する。)とったリンパ節にもはっきりした転移はなさそうで
あった。これなら大丈夫だろうと私はほっと胸をなでおろ
した。
(次回につづく)

桜(4)
 「先生、難しいことは解らないが要は手術をすれば治す
ことができるっていうことですね。」「そうです。幸いに
も手術可能な時期に発見できたということですから。
 実際には、病気の進行度は手術をしてお腹の中をみて、
また手術でとったものを顕微鏡の検査にだしてどれだけ進行
しているかを確認しないと確定はしないのです。
 その結果によっては術後に抗癌剤の治療を行う必要があ
る場合もありますが、○○さんの場合はその可能性はかなり
低いと考えています。」
 「解りました。手術をしなければ病気は進むだけですもの
ね。先生、実は家内が妊娠しておりまして。」私は一瞬、息
を飲んだ。「それは..。おめでとうございます。」「実は
私は父親がいないんです。所謂私生児で、よく小さい頃、
てて無し子、妾の子といじめられていました。なんで俺は
生まれてきたんだって子供ながらに悩んでね、一回お袋に
どうして俺なんか生んだんだってなじったことがあるんで
すよ。そしたらお袋だまってボロボロ涙こぼしてね。あの頃
は「しまったっ」て思うだけだったんですけど..。お袋、結局
経済的に支援もなくて必死に俺のこと育ててたんですよね。
 どんな経緯かわからないけど、俺の父親を愛してその子を
生みたいと思ってくれた。そして一生懸命育ててきたのに
愛して育てたその子になじられる。辛かったと思います。
 高校までいかせてくれて、就職してようやくお袋に楽させて
あげられると思っていたら脳出血で親孝行する間もなく
死んでしまって..。
 今、家内が自分の事を愛してくれて、その子を産んでくれ
ようとしているんです。自分は家内にお袋みたいな思いをさ
せたくないんです。そして生まれてくる子に自分と同じ思い
をさせたくないんです。」そばで説明を聞きにきていた奥さん
はそれを聞いて涙ぐんでいた。
(次回につづく)
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