FC2ブログ
ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

澄んだ青空(5)
「毎日の忙しさにまみれていて何のために仕事をしている
か考えたこともなかった。実績をあげて昇進していくこと
がすべてだと思っていたんです。でも冷静に考えれば、仕事
って食べていくための手段ですよね。別にその仕事で無く
たって自分が納得できればいいわけだし、家内がいうように
自分がいなくなっても代わりはいるんだってことにも気づき
ました。総理大臣を社長も変わりはいくらでもいるけど
夫である自分、子供たちの父親である自分の代わりはいない
ってことにきづいたんです。よく考えれば自分独りの体じゃ
ない。自分を必要としている人間がいることに改めて気がつ
いたんです。仕事はまたあるかもしれないけど、今を逃したら
もっと大切なものを失うかもしれないって考えたら、一刻も
早く問題を解決してしまおうって考えて..。手術を受けるって
外来に来た日は今日と同じような澄んだ青空でした。仕事の
忙しさにかまけて青空がこんなに美しいと感じたことがなか
ったのにも自分であきれました。今日は本当に澄んだ青空
ですよ、先生。今日みたいな青空を見るとまた頑張ってやろ
うかなって気になるんですよ。」
 彼の保険証の事業主はある都銀から見知らぬ企業に変わって
いた。この一年きっと辛い思いも悔しい思いもあったろう。収入
だって間違いなく減っているだろうし、50代で仕事を見つける
のは大変であったろう。年下の上司の元で働かなくてはならない
であろうし、しかも病気で手術をした後である。エリートとして
の銀行員からの転職では周りの目もあっただろう。だが彼はそ
んなことより何よりも自分が守るべきものを再認識したのだろ
う思う。仕事の肩書きよりもプライドよりも、自分にとって本
当に大切なものが存在するのだということを..。病気はひとの
人生設計を大きく狂わすことがある。だが彼はきっと苦難をも
のともせず愛する家族を守れるのだろうと思った。
スポンサーサイト

澄んだ青空(4)
 病気がもとで転職を余儀なくされたのだろう。しかしながら
彼は何も言わなかった。私は気づかぬふりをして定期的に彼
の外来診療を行っていた。何事もなく一年がすぎた。幸いに
も彼に癌の再発の兆候はなく術後1年が経過した。採血検査、
CT、内視鏡検査を行い病気の再発のないことを確認する。
 結果を聞きに外来に奥さんと一緒にいらした。
「幸いにも手術時に病気がすすんでいなかったので○○さん
の場合は再発の可能性は低いと考えています。もう早いもので
手術から1年が経ちました。術後1年後の今回の一連の検査では
再発の所見は認められません。」彼は胸をなでおろしていった。
「よかったです。」「あとは半年ごとに外来にきていただいて
再発の所見がないか検査をうけていただき5年間お付き合いして
いただく形となります。」「わかりました。」「この1年大変
だったでしょう。」「いろいろ環境が変わりましたから。手術
を受けるときも迷ったんですよ。丁度昇進がかかった大仕事に
とりかかったところで手術を待ってもらおうかとも思って
いたんです。それでこいつに相談したんです。こいつ何て
いったと思います?」「さあ..。」「仕事はまた別にいくら
でもあるし、別に会社はあなたがいなくてもなんとか回って
いくしいくらでも代わりはいるわよ。でも私にはあなたしか
いないの。一刻も早く手術を受けないなんて信じられないわ!
って怒りやがるんですよ。人が一生をかけてやってきたと
誇りをもってた仕事なのに、俺の代わりなんかいないと思って
いた仕事なのにですよ。」外来はこの時そんなに混雑してお
らず彼の話を聞く余裕はあった。私は話の腰を折らずに彼の
話に少し聞き入ることにした。「怒りましたね。思わず男の
仕事を何だと思ってるんだ!って。でもね冷静になって考え
てみたんです。」
(次回に続く)

澄んだ青空(3)
彼は数日後に再び外来に訪れた。「先生、なるべく早めに
手術にしてください。」迷いは無いようだった。
 外来での術前検査を行い。外来にてご家族を呼び手術の
説明を行う。幸いにも遠隔転移は認められなかった。
「お腹を開けてみないと分からない場合もありますが、他
の臓器への転移は幸いのところないようです。手術で充分
に根治が望めると思います。」一通り手術で起こりうる合
併症などをお話した後、私は言った。「かなり仕事の件で
悩んでいたようですけど大丈夫なんですか?」「大丈夫
です結局、体が一番大切ですから..。」
 彼は手術目的で入院になった。
 手術は予定どおり行われ、経過も概ね順調であった。
 退院間際に経過についてお話する。「病理の結果も
癌は限定的なものでこれで完治に近いと思われます。
 今後5年間は外来で経過をみさせていただきたいと思い
ます。ご苦労様でした。」「どうも有難うございました。」
 万事がうまくいったように思われた。定期通院日のある日
私は彼の保険証の保険者名の会社の名が変わっていること
に気づく。
(次回につづく)
Copyright © 藪医者の独り言. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。