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Hit数10000超えました。皆様に感謝の気持ちをこめて記念にフラッシュ作成してみました。 →こちら
開設2年目になりました。これを機会に今の産科の危機に関してのフラッシュ作成しました。 →こちら

誤報(1)のエントリーは11月26日付けです。最初から読む方はカレンダーで11月までたどって26日をクリックすると誤報(1),(2)のエントリーに入れます。あとは順々に日にちをクリックしていってください。

(モデルにさせていただいた誤報事件に関しての2chの過去ログ保存していたものアップしました
医者板の過去ログ→こちら
ニュース速報+板の過去ログ→→こちら
この事件の理解の参考となれば幸いです。当時の記事などが引用されている部位もありますのでm3掲示板も閉鎖された今、資料として貴重なものとして保存してあります。)
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約束(31)
 その日はたまたま自分の当直の日であった。夜の1時
ごろに看護師から連絡が入った。救急隊から当院かかり
つけの患者さんで胃癌の術後の50代の女性で食思不振
と高熱で搬送したいと連絡ありましたと伝えられた。
 救急車の到着予定前に救急外来におりて搬送予定の
患者さんのカルテを確認した。カルテにはSの母親の
名前がかかれていた。「彼女か。」と私は一瞬思った。
 救急車で彼女が搬送されてくる。酸素マスクをつけ
られ呼吸は苦しそうだった。救急隊が報告する。「患者
さんはSさん。貴院にて胃がんの術後の方です。昼ごろ
から38度の発熱が出現し呼吸苦が出現してきたため
救急要請されました。体温は39.4度、血圧90/40
呼吸数20回/min 酸素飽和度80%で酸素マスク
4lで90%台前半になっています。」「わかりました。」
 彼女は言った。「先生。呼吸が苦しくてね….。」胸
の聴診を終えて私は言った。「わかりました。すぐ
楽にしますからね。」私は点滴と酸素投与、吸入の
指示を出し、採血検査と胸のレントゲン写真を
オーダーした。採血検査では白血球数とC反応蛋白
の値が著名に上昇しておりなんらかの炎症がおき
ていることが示されていた。胸部レントゲンでは
右の上葉を主座とする大葉性の肺炎が起きている
像がみとめられた。肺炎としては重症である。痰の
培養と提出したのち、抗生剤であるユナシンSの
投与を開始した。いずれにしても入院は必要であ
る病状であった。私は彼女にいった。「どうやら
右肺に肺炎をおこしたようです。入院してもらわ
ないといけないですね……。」彼女はいった。「や
はりそうか…..。まあこの状態じゃ家にいられない
からね…….。」彼女は残念そうにつぶやいた。一通り
の処置を終えた時点で家族であるSに病状の説明を
しなくてはならなかった。一段落したところで、私
は付き添って病院にきて待合室でまっているSに
話をしようとを呼び入れた。

(次回につづく)
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【2005/09/29 23:00】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(30)
 病巣の評価を行うためにとったCTでは縮小傾向に
あった肺と肝臓の転移巣が前回のCTと比べて増大傾
向にあることが確認された。薬の効果が無くなってき
つつあることははっきりしてきていた。だがこれ以上
残された手段もあるわけではなかった。現実はあくま
でも非情である。病気は確実に時と共に進んでいった。
皮肉なことに薬の効果がなくなってきてからの症状
の悪化は予想以上に急激であった。6クール目の薬の
最後のときには肺の転移巣の増大と腹水の貯留にとも
なう腹部の膨満が出現し、呼吸苦がでてきていた。
単純のレントゲンでも肺の転移巣の拡大がはっ
きりしていた。私は彼女に言った。「病気がここのと
ころ急激に進んできています。前に撮影したCT所見
では病巣の増大が確認されています。呼吸苦の出現も
そのためでしょう。これでは日常生活もままならない
でしょう。一回入院しますか?」 彼女は言った。「先生、
入院すれば少しはよくなるのかね……..。まず入院し
たらもう帰れなくなってしまうのではないかね…….。」
際どい質問であった。彼女の考えは間違っていない。
 彼女の最後の入院になる。その可能性は高かった。
 私は彼女の眼を見て言った。「ともかくSの結婚式も
控えていますしこれでは家でも大変でしょう。結婚式の
時は外出されてもいいですし少し入院されたらいかが
ですか?」彼女の質問の答えにはなっていなかった。
 だが彼女は私に気を遣ったのだろう。あえて聞き返す
ことは無かった。少し考えて彼女は言った。「もう少し
家でがんばってみるよ、先生。どうしようもなくなった
らまた世話になるから…….。」彼女の思いを鑑みて私は
言った。「わかりました…….。でも無理はしないでくだ
さいね。」彼女は静かに頷いた。すでに使える治療はやり
つくしていた。彼女は目の前の医師がすでに自分の病気
に対して無力であることを理解していた。そして自分の
時間が限られていることも…….。だが不満1つもらす
ことはなかった。出きればSの結婚式まではなんとか
もってもらいたいと私は心から願っていた。

 だが3日後に彼女は高熱を出して病院に運び込まれる
ことになる。

(次回につづく)

 いつも皆さん有難うございます。明日は当直なのでブログ
お休みします。明後日の更新を楽しみにしていてくださいね。
【2005/09/27 22:14】 約束 | トラックバック(0) | コメント(4) |
約束(29)
 私は答えた。「まだ上昇傾向になったのは初めてだし
本当に病気がまた進行していると確実にはいえないけれ
ど、いままで下降傾向だったマーカーが上昇してきた
ということはやはり治療効果が落ちてきているというの
は間違いないと思う。当然病気が進んできている可能性
も否定はできないと思うけど…..。」Sは言った。「それで
これからどうするんだ。」「とりあえず、CTはとってみ
て病変の状態は確認しておきたいと思っている。治療は
今の治療を継続するのがとりあえずいまのところは一番
いいと思う。」多分、今後続けていても腫瘍の進行は抑え
きれないであろうが…….。その言葉を言いかけて止めた。
 Sは言った。「そうか…….。」少しの沈黙が2人の間
に流れた。私は言った。「いずれにしても厳しいことに
はかわりがないんだ。2年前に手術をして、一回は肺に
多発転移して癌性胸膜炎まで起こしていたんだから….。
ここまで本当によく頑張っていると思う。化学療法だって
楽な治療ではないしね。お母さんは充分頑張っているんだ。
 もちろんこちらもできる限りの治療はしようと思って
いるけど……。君ももっとしっかりしないと……。これから
結婚だってするんだし……。」私の言葉がどれほど彼の
心に響いたかは知れなかった。彼は黙ったまま立ち上がり
言った。「nakano。わかった。とりあえずお袋のこと
宜しく頼むよ。今日は本当にありがとう。迷惑ばかりかけ
てすまないが感謝している。」私は外に出ようとする彼
の背中に向かって言った。「S。お母さんが元気でいら
れる時間は限られている。貴重な時間を大切にして欲し
い。」Sは立ち止まり背中を向けたまま答えた。「わかった。」
 心なしか彼の背中はむせび泣くように震えていた。

(次回につづく)
【2005/09/26 23:26】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(28)
これは殴られるかもなと内心思いながらも非常識な
彼の行為に対しての怒りも沸いてきた。感情を押し殺し
私は言った。 「こんなことして、公衆の面前で恥ずか
しくないのか?いい大人が…..。S。冷静になれ、話す
時間はまた取ることはできるだろう。僕を殴ってお前
になんの得がある?」Sは私を睨みつけたまま左手の
力を抜いた。「分かった。お前の都合のいいところで
時間を取ってくれ……。」「じゃ、あとで連絡よこす
から、今日は帰ってくれ。」Sは黙ってうなずくと
踵をかえして外来から去っていった。私はふっと息を
ついた後、患者さんの待つ診察室に戻った。看護師
が言った。「何なんですか?あの人は…….。」

 数日後、私はSと比較的時間のとれるところで話す
機会を持つことにした。少しは頭が冷えていればいい
のだがと思いつつ私は彼を面談室に招きいれた。
彼は少し憮然とした口調ではあったが、開口一番に
言った。「nakano。先日はすまなかった。」彼の意外
な発言に少し戸惑ったが私は言った。「いいさ、済んだ
ことだし……。だが今後はあんな真似はしないで欲しい
けどね。」Sは言った。「ああ……。」「それで聞きたい
のはお母さんの病状の事だと思うけど、お母さんにも
お話したけれど治療で今まで下がってきていた腫瘍
マーカーがまた上昇に転じてきているんだ……..。」
「ああ、それをお袋から聞いたんだ。せっかく落ち
着いてきたからって結婚式の日取りまで決めたの
になんでこのタイミングでってな。nakanoに
慌てて聞いたってなにも変わらないのにな……..。
で、それはお袋の病状が悪くなってきているって
ことなんだよな……。」

(次回につづく)
【2005/09/25 20:26】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(27)
 それから数日後、外来の担当であった私が午後から
の手術時間を気にしながら外来を終わらせようとして
いる時だった。その日は思ったより外来が混んでいて
手術の時間にぎりぎりで間に合うかどうかの状態で
あった。次々と積み重なるカルテに焦りながら、今日は
昼食は無理だなと思いながらも外来患者さんをこなして
いた。それでもなんとか受付終了時間を越えてあと2,3
人の外来患者さんが残るだけとなりなんとか目途がついた
なと思っていたときであった。外来の看護師が声をかけて
きた。「nakano先生。今、Sさんの息子さんという人が
先生の話を聞きたいと外来にこられているんですけど..。」
「えっ。でも今は時間がとれないよ。まだ残っている患者
さんもいるし、それを済ませたらすぐ手術になってしま
うし..。」「ええ。でも結構感情的になっていて、nakano
を出せって今にも外来で騒ぎだしそうなんですよ……。」
「困ったな…..。とりあえず外来の患者さんが終わったら
少しお話できるけど今日はとてもゆっくり話をする時間
がとれないと伝えてくれないかな……。」「それで納得して
くれればいいんですけど…….。」看護師はしぶしぶ引き下
がった。診察中の患者さんに診察が中断されたことを詫び
て診察を続けているときだった。外来受付で怒鳴り声が
聞こえた。「ともかくnakanoを出せ。話を聞きたいんだ!」
 診察中の患者さんが言った。「先生も大変ですね…。私
はいいですからとりあえず行かれた方がいいのではないです
か?」遠くから聞いていても状況は尋常ではなさそうで
あったことから私は患者さんの言葉に甘えてすいませんと
言って外来受付に向かった。そこには非常な剣幕で看護師
に食ってかかるSの姿が認められた。外来で待っている患者
さん達はおびえたまなざしでSを見ていた。私を見つけた
Sは私を睨み付けると言った。「nakano、お袋のことについて
話がしたいんだ。」 私は言った。「今日は無理だ時間がとれ
ない。」Sは怒りの形相で突然私の襟首を左手でつかみか
かった。体格のいい腕っ節のあるSに私は上半身を引き上
げられる。「なんだと……。」右手の拳を振り上げ、いまに
も殴りかかりそうな形相でSは言った。

(次回につづく)
【2005/09/24 21:48】 約束 | トラックバック(0) | コメント(2) |
約束(26)
 6クール目の最初の薬の投与を行う日に彼女は
いつもどおり外来にやってきた。治療の評価を
行うための採血の結果で腫瘍マーカーが上昇して
いることをお話するのは少し気が重たかったが
お話しなくてはならない。彼女はいつもどおり
元気そうに診察室に入ってきた。
「どうも今日は。調子はいかがですか?」私の問い
に彼女は答えた。「ええ調子は悪くないですよ。
咳も殆ど出なくなりましたし、食欲もあります。
大分体力もついてきた感じですね。あとは息子
の式の準備も忙しくて少しつかれ気味ですけど
充実してるし楽しいですよ。」「そうですか…..。
それでは診察しますのでそちらのベッドに横に
なってください….。」診察を終え、彼女に椅子に
座ってもらってから私は言った。「実は、前回の
採血の結果なんですが…..。ここまで順調に
低下してきた腫瘍マーカーが上昇してきています。」
彼女の顔色が変わった。「それはどういうことで
しょうか?」 私は一息ついてから言った。「治療
が効かなくなってきている可能性があります。
いままで薬で縮小してきた癌がまた広がりはじ
めているのかもしれません。」「そうですか…..。」
「CTは6クール目が終了したところで評価する
つもりでしたが早めに転移巣の評価を行うために
一回とってみましょう。とりあえずトポテシンの
6クール目は予定どおり行おうと考えています。」
 病状がよくなってきて、希望をもちはじめた矢先
である。息子の結婚式も間近に控えていた。彼女に
とってはかなりショックな報告であろうことは推測
できた。だが彼女は私の目を見据えて言った。
「先生。状況はかなり厳しいんだね。」「まだマーカー
の上昇は今回が初めてですからなんともいえませんが
次回の採血でもこの値より上昇しているようなら
病気の再燃を強く疑わなくてはならないと思います。」
「気をつかってくれて有り難うございます。でもよく
ここまで生かしてもらったと思ってますから……..。
 やることやってだめなら仕方がないですしね…..。
 幸い今のところ調子いいですしまだまだ頑張れる気が
します。くよくよしたって仕方ないですしね…….。」
 彼女は弱音を吐くこともなく、取り乱すこともなか
った。何度も駄目だと思った時を乗り越えてきて
ある程度の覚悟は決まっているようであった。
 彼女は丁寧にお辞儀をして診察室から退出した。

(次回につづく)

昨日は緊急手術があって帰りが遅くなり、それでもなんと
かアップしようとワードで文章を作成していたのですが
(一回直接アップしようとして文章が消失してしまった
ことがあり、punipunipyonpyonさんのアドバイスをうけて
ワードで作成してコピーアンドペーストするようにしてい
た。)その途中で原因不明のパソコンのフリーズが起こり
ました。唖然として一瞬かたまりましたが、意気消沈して
そのまま床に入りました。そんなことで昨日は更新できずに
申し訳ありませんでした。今日はパソコンの調子も戻って
無事に更新できそうです。いやはや参りました.....。
【2005/09/23 22:36】 約束 | トラックバック(0) | コメント(5) |
約束(25)
 彼女の化学療法は引き続き続けられていた。
 そんな中、彼女が言っていた手術後2回目の誕生日
に彼女はSに驚きの報告を受けていた。それを知った
のはその後の外来でのことであった。その時はSが外来
に付き添っていた。
「今日で5クール目の最後の投与の日ですね。血球の
数も安定していますし、予定どおり今日も薬の投与
を行いましょう。」「わかりました。薬を投与してもら
ってからしばらくは調子はよくないですけど大分それ
もなれてきました。それで、先生、実は報告が……。」
「なんですか?」「息子から聞いているかもしれないけど
私の誕生日に息子がねこの人と結婚しますって相手を
紹介してくれたのよ。」「えっ。おいS。聞いてないぞ。
Sの奴、自分にはそんなこと全然話してくれなかった
ですよ。」「そうなんですか?結構水臭いのね…..。」「だっ
て母さん、しょっちゅう治療でnakanoとは会ってるし
下手に話して母さんに知れるのも困るかなと思ってさ。」
「ひどいな。S。一言いってくれりゃいいのに…..。」「ま
あまあそういうなって。」「そうそれでこれが嫁さんになる人
だって。結構しっかりした感じの人で息子にはもったい
ないよっていってやったんだけど……。」「でも良かった
じゃないですか。これでまた少しお母さんも安心できる
んじゃないですか?」「結構、前から交際はあったらしい
んだけど、私の病状も落ち着かなかったこともあって
だまってたらしいんですよ。でもここのところ少しいい
みたいなので元気でいてもらえる時期に式を挙げて安心
させてやろうって思ったんですって。結婚式が2ヶ月後
だっていうんですよ。驚いたやら嬉しいやらで…..。」
「そうか…。よかったなS。」「まあ、今は大分病状落ち
着いているみたいだし、できれば調子のいいときに
安心してもらいたいと思ってさ……。ちょっと半年
前の状況だととても式なんていってられない状況だった
しな…….。」息子の気遣いも嬉しかったのだろう。彼女
の自然な笑みがこぼれた。
 彼女にとってはトポテシンは奇跡の薬であった。この
時までは……。だがここまでであった。6クール目に
入る前の採血でいままで下降しつづけていた腫瘍マーカー
は上昇に転じていた。それは薬の効果が充分でなくなり
病気が再度彼女の体を蝕もうとしはじめていることを
示唆していた。

(次回につづく)
【2005/09/21 23:08】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(24)
 彼女は無事に退院した。その後も引き続き外来
に週に1回きてもらい採血を行って血球の減少が
ないことを確認してトポテシンの点滴の注射を行
うということを4週つづけて行い、2週間の休薬
をするということを繰り返した。
 4クールを行ったときには肺の影も殆ど消失し
咳もほぼ消失した。彼女は薬の投与後の数日後に
くる吐き気と食欲不振に悩まされていたが、実際
に症状が抗癌剤の投与によって改善しており、
CTなどの画像所見でも転移巣の縮小が認められ
てきたこと、腫瘍マーカーも確実に低下してきて
いることから治療に対しても積極的となっていた。
 「先生、たしかに薬うつと数日は少しつらいけ
ど咳もほとんどなくなったし大分楽になったよ。
 もうあきらめかけていたけど今回ばかりは息子
のいうこと聞いてよかったかね……。」体調も大分
よくなったのか少しずつパートで働きにも出れる
ようになったと喜んでいた。「どうやら手術して
から2回目の誕生日を迎えられそうだよ。先生が
去年、次の誕生日までもたせるように努力する
っていったけど本当にうまいこと迎えられたね
……。先生の努力でここまで生かしてもらって
感謝しているよ。」「そんなことないですよ。S
さんが治療がんばっているからですよ……….。
ここまで大変だったでしょう。」「幼子を残して
夫に逝かれて本当に死ぬ思いでがんばってきた
頃を思い出せばなんてことないですよ。今はあの
子もあの子なりにしっかりしてきて私のこといた
わってくれるからね……。」彼女は幸せそうに微笑
んだ。この時が苦労の末にたどりついた彼女に
とって最も幸せな時期だったのかもしれない。
 このままこの幸せな期間が続いてくれればいい。
 そう願わずにはいられなかった。

(次回につづく)
【2005/09/20 22:53】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(23)
 彼女の化学療法が開始された。週1回点滴を行い、これを
4週間つづけ、2週休薬で1クールとした。薬投与して2~3
日後に吐き気と食欲不振があり辛そうであったが、血球の減少
も認められず、予定どおりに薬の投与は続けられた。
 胸水の量は1クール行ったところではあまり変化がなかった
が、腫瘍マーカーの値は低下してきていた。CT所見でも
転移巣は微妙に縮小してきているように思われた。
 私はSに言った。「どうやら、今回の薬はいまのところ
効果がありそうだ。何回か繰り返して経過を見たいと思う。」
「大分いいのか?」「すくなくとも改善の傾向が認められる。
これで今の胸水の量が減ってくれれば胸の管も抜ける。そう
すれば一旦退院にできるかもしれない。」「そうか….。」
 2週間の休薬の後、2クール目が行われた。次第に左の
胸水の量は減少していき、2クール目の4回目の薬の投与
の後についに左のトロッカードレーンを抜去することが
できた。3ヶ月近く胸の管につながれていた彼女は喜んだ。
「管の入っていたところが、ずっと痛かったのですっきり
しました。それにこれでようやくお風呂には入れますね。
本当に良かった…….。」 

 胸の管が抜けたことで彼女の退院の目途がついた。
 私は彼女とSを呼び面談室にて説明を行った。
「うまく今回の抗癌剤が効いて、左胸の水は消失しま
した。長い間いれておかなくてはならなかった左の
胸の管も抜けました。肝臓と肺の多発していた転移
巣も縮小傾向が認められ、腫瘍マーカーも低下して
きていることから今の治療がお母さんの癌に効果的
であるようです。一旦退院して、引き続き外来にて
抗癌剤の治療を継続していこうと思います。」
 彼女は言った。「本当にありがとうございました。
正直、入院したときはもう駄目だろうと思っていま
したから…..。帰れるようになって本当にうれしい
です。」Sも言った。「nakano。本当に有難う。」

(次回につづく)
【2005/09/19 17:13】 約束 | トラックバック(0) | コメント(2) |
約束(22)
私は彼女とSに新たな抗癌剤の治療を行うことを
提案した。「もちろん、今までの散々治療してきた
わけですし、これで病気が抑えられるかどうかは
わかりませんが、今回の薬はいままでの薬とまた違
う系統の薬なので、ある程度の治療効果が望めるか
もしれません。」 彼女は言った。「先生。つまり
この薬をつかっても望みは薄いけど、今の時点で
あまり効果が得られていないいままでの治療をつづ
けるよりはましかもしれないってことですよね…..。」
 彼女の言っていることは間違ってはいなかった。
「あけすけな言い方をすればそうです。新たに治療
を行っても完全に病気を押さえ込むことはまず無理
でしょう。しかし、今までの治療を続けていても
病気は進行してきていますから病状が改善すると
は考えにくいと思うのです。全く違った系統の薬
をつかうことで少しでも治療効果があれば、もし
かして胸水のコントロールがつけられるかもしれ
ません。そうすれば左の胸の管は抜けるのではない
かと思うんです。」「でも、全く効果がない可能性
もあるんですよね…….。」私は答えた。「その通り
です………。」
 少しの間考えて彼女はSにいった。「そういう
ことのようなんだけど、貴方はどうして欲しい?」
Sは言った。「母さん……。」彼女は続けた。
「母さんはもうこれで治療やめてもいいかなって
少し思っているんだけど。お前がまだ治療続けて
欲しいんなら治療を受けるわ……。」
 Sは少し考えて言った。「少しでの望みがあるの
なら俺は母さんに治療をうけて欲しい………..。」
 彼女は軽く頷くと言った。「まあ、先生。そういう
事なんでひとつ宜しくお願いします。」私は言った。
「それでいいんですね。」彼女は少し間を置いて言っ
た。「息子のためにももうひと頑張りしないとね..
....。」彼女は静かにそうつぶやいた。

私は1週間に1回の投与を4回繰り返し2週間休薬する
方法でトポテシンの投与を開始することにした。

(次回につづく)
【2005/09/18 22:23】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(21)
 少しの間沈黙がおとずれた。私は言った。「確かに厳しい
とは思うけどなんとかできるだけの事はしてみるから。
 状態がおちつけばまた化学療法を考えられると思うし。
 まずは君がしっかりしないと…..。お母さんだって安心
できないだろう。正直いって、お母さんといられる時間
はあまり残されてはいないと思うけど、なんとかその時間
を伸ばすようにやれるだけはやってみるから….。大切な
時間をあたふたして無駄に費やしてしまったら後でもっと
後悔すると思うよ…..。」自分の大切な母親をなくすかも
しれない彼の悲しみの前では私の言葉は空しく聞こえる
だけだったかもしれない。だが彼は自分に言い聞かせる
ようにつぶやいた。「そうだよな。俺がしっかりしないと
いけないよな……..。わかってはいるんだ。わかっては..。」

 トロッカードレーンを左胸に挿入してから彼女の呼吸
状態は安定し、咳も落ち着いてきた。次第に食事もとれる
ようになり元気もでてきた。だがドレーンからは毎日
400~600mlの胸水が常に排出されておりドレーンを
抜けばまた胸水が溜まるであろうことは予想できた。
 だがこのままでは彼女を病院のベットに縛りつけた
ままになってしまう。彼女がまだ元気でいられる間に
なんとか一回家に帰してあげたいと思っていた私は
次の化学療法を検討しなくてはならないと考えていた。
 TS1、シスプラチン、タキソールもあまり効果
がなくなっていた。薬を変えなくてはならない。
 私はトポテシンという薬を使用することにした。

(次回につづく)

 昨日は緊急手術が夕方からあって帰りが遅くなって
しまい更新をあきらめてしまいました。楽しみにして
いた方は申し訳ありませんでした。
 どうやらHit数も60000を超えそうです。
 これも皆様のご支援のおかげと思っております。
 引き続き皆様に愛されるブログにしていこうと考えて
おりますのでよろしくお願いいたします。
【2005/09/17 21:24】 約束 | トラックバック(0) | コメント(4) |
約束(20)
 私は続けていった。「とりあえず胸水を抜いて左肺がひろ
がったことで呼吸苦はとれたけど、癌性胸膜炎だとすると
胸の管を抜けばまた胸水が溜まって繰る可能性がある….。」
 「つまり、あの管はもう抜くことができないということ
か?」 Sは私を見つめながら言った。
 私は少し間おいて言った。「その可能性もないとはいえ
ないがなんともいえないよ。」「それで今後の見通しはどう
なんだ。」「抗癌剤を変えたけど治療効果はいまいちなんだ。
何もしないよりは進行を遅くしているのは確かだと思うん
だが……。」「いずれにしてももう一杯一杯って感じでは
あるんだな。」「そうだ.」二人の間に沈黙が流れた。
 Sは言った。「なあnakano。お袋、もう覚悟は決まって
いるようなんだよ。もう私は駄目なんでしょう。解って
いるのよ。って言いやがるんだよ。俺は言ったんだ。
なにを馬鹿なことを言っているんだ。もう少し生きていて
もらわなくちゃ困る。まだ親孝行の一つもできていないの
に。ってさ。そしたらお袋が言うんだ。おまえがまともに
なってしっかりやっていけるようになったって母さん
わかったから。もうそれだけで思い残すことはないよ。
って言いやがって……..。俺はどうしていいのか
全然解らなくなっちまった….。どうしようもない
親父をみとって、女手一つでこんな俺を育ててくれた。
 馬鹿ばっかりやって散々迷惑かけて、でも決して見捨て
ないでくれて…..。ようやく少し楽にさせてやろうと思った
のに….。まだなんの親孝行もしてないのに…..。これから
のはずだったんだぜ…。何でなんだよ……。なんだか
悔しいやら、悲しいやらでどうしていいのか分からな
いよ……..。畜生!一体なんでなんだよ!」
 Sは眼に涙を浮かべ、拳を握り締めながら呻くように
言った。彼の思いはよくわかる気がした。反発もした
がいつも側にいて見ていてくれた母親。色々な馬鹿な
ことをして後ろ指を周りにさされるような自分を最後
まで信じてくれた母親。苦しい中、女手一つで育てて
くれた母親。その有り難味がようやくわかってなんとか
更正し、感謝の念が生まれてきたその間際に大切な人
がこの世からいなくなってしまうというのであるのだ
から….。彼の思いを慮るに私はしばし彼にかけるべき
言葉を失っていた。

(次回につづく)
【2005/09/15 23:59】 約束 | トラックバック(0) | コメント(3) |
約束(19)
 彼女は私を見て言った。「先生、また迷惑かけます。
呼吸が苦しくなって仕方がないんですよ….。」私は言
った。「わかりました。胸の音を聞かせていただけま
すか?」 私は彼女の呼吸音の聴診を行った。左肺の
呼吸音は左胸水により減弱していた。
 「胸の水が増えてきているようですね。それで肺が
つぶれてきてしまって呼吸がうまくできなくなってい
るんだと思います。
 胸のレントゲンで胸の水の量を確認して左の胸に
管を入れて胸の水を排出しましょう。それで呼吸苦
が改善すると思います。」
 彼女は言った。「そうですか、わかりました。よろ
しくお願いします。」 傍らのSは不安げな眼で私を
見つめて言った。「なあnakano。ともかくお袋のこと
頼むな……。」

 胸のレントゲンをみると左の肺は胸水で押しつぶ
されている状態であった。(肺は胸腔という空間に
収納されており、胸腔内に水が溜まってくると肺が
押しつぶされてきてしまう。)胸腔の水を管で外に
だしてやる必要があった。トロッカードレーンと
いう胸腔専用のドレーンを彼女の左胸に挿入して
胸水の排出をはかった。胸水の排出にともない、
彼女の呼吸苦は消失した。
 このときの胸水はやや血性の胸水であった。胸水
のなかに癌細胞があるかもしれないため細胞診の
検査に検体を提出した。
 ドレーンを挿入してから彼女は大分楽になり、
「先生おかげで大分呼吸楽になったよ。有難う。」と
感謝の念をこめて言った。「よかったですね。まず
これで数日様子をみてみますので。今後の事を息子
さんとお話させていただきますね。」私はそう
言ってSを面談室に呼び寄せた。

 Sを椅子に座らせ私は言った。「一応、胸の水を
抜いて呼吸状態はこれでよくなると思う。だが胸
の水の性状をみると血液混じりで多分癌細胞が
胸腔内に入り込んでいるんだと思う。いわゆる
癌性の胸膜炎という状態なんだ..。」
 Sはじっと私の顔をにらみつけるように凝視し
固く口を結んで黙っていた。

(次回につづく)
【2005/09/14 21:16】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(18)
 タキソール併用の治療が始まった。食思不振と全身
の倦怠感はあるものの、その他の大きな合併症などなく
経過した。「外来での点滴はわずらわしいわね。血管も
入りづらいし大変ですよ。」などといいながら8日目と
15日目のタキソールの点滴の治療をきっちりと彼女は
こなしていった。血球の減少もなく2クールが無事に
終了した。しかし治療効果ははかばかしいものではな
かった。次第に左胸に胸水が貯留してきた。呼吸苦が
でるようになり、外来でみるのも限界に近づいてきて
いるように思われた。
 そんなある日、内視鏡検査を行っているときに私の
院内のPHSが鳴った。外来看護師からであった。
「nakano先生。Sさんが外来にこられています。
今、外来のG先生が診てくれいてますが呼吸苦が
あって、入院が必要だとのことです。とりあえずの
入院の指示はG先生が書いてくれるということですけ
ど入院後は先生が担当でよろしいですよね?」「わかり
ました。担当医は私にしておいてください。」
「ご家族の方とお話しますか?」「多分、ご家族は
ご長男さんだけだとおもうけど….。今日待てそうな
ら昼になれば検査全部終わるから昼まで待ってもら
えばお話できるかな。11時半には検査終わると思う
から、別の手術の入室が1時だからその間にお話で
きると思うんだ。11時半まで待ってもらえればお話
できますと伝えてもらえますか?」「わかりました。
そうお伝えしますね。」
 私は慌しく、残りの内視鏡患者さんをこなしたあ
と病棟に向かった。看護師に声をかける。
「Sさんの病室は….。」「ooo号室です。」彼女の病室にいくと
ベットに横たわった母親のかたわらにSが座っていた。

(次回につづく)

明日は当直でブログお休みします。明後日頑張って更新しよう
と考えていますが...。いつも皆さんすいません。
【2005/09/12 21:46】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(17)
 次の外来の日がやってきた。診察前の採血では特に
血球数の減少はなく薬の投与は可能な状態であること
を確認できた。私は彼女を呼びいれた。
 「今日は、調子はいかがですか?」私が尋ねると彼
女は答えた。「咳がつづくのがいやですが、痛みもない
ですし、調子自体はそんなに悪くありません。」
 「それで今後の抗癌剤の治療についてはどうしましょう
か?息子さんとはお話できましたか?」彼女は言った。
「息子に相談したら、治療はとりあえず続けて欲しい
っていうんですよ…..。どうせ治療を続けても完全
に治るわけでもないし、体が動く間は治療に縛られず
にもうのんびりしたい気もするんだけどって話したん
ですけどね…..。息子も大分まともになったし、もう
私自身はほっとしているところもあるんですけど…。
 息子自体はまだ私が先そんなに長くないってこと
が受け入れられないみたいですね….。治療をつづけ
てできるだけ長く生きていてほしいんですって。
 そこまでいわれれば仕方ないですよね….。新しい
薬使ってもらおうかと思っています…..。」
 「それでいいんですね……。」「いいんですよ先生。
私だけの体でないから…..。息子が別れを納得できる
だけの時間もいるでしょうし、もしかしたら治療が
うまくいくかもしれないですしね……。」
 私は言った。「わかりました。ではTS1とタキソール
で治療をしてみましょう。副作用がなければ4クール
位やって治療効果を確認してみたいと考えています。」
 私はなんとか新しい治療が効果があるように願いな
がら彼女を診察室から送りだした。

 (次回につづく)

 今日は選挙日でしたね。どうも自民党の圧勝のようで
すが……。
【2005/09/11 21:02】 約束 | トラックバック(0) | コメント(2) |
約束(16)
 「今の治療がうまくいっていないようなので、とりあえず
薬を変えてみましょう。タキソールという薬がありますの
でTS1と併用でやってみたいと思います。TS1を3週間内服
して2週間休薬、内服の8日目と15日目にタキソールの注射
をします。5週間で1クールです。」「それで抑えきれるの
でしょうか?」「実際にやってみないとなんとも...。でも
今の治療をつづけても効果は望めないでしょうから....。」
「わかりました。仕方ないですよね.....。」少し間をおいて
彼女は言った。「先生、どうせ治らないのなら抗癌剤の治療
をやめてしまうというのは駄目でしょうか?」私は少し考えて
言った。「ご本人とご家族の方がそれで納得して希望されれ
ば駄目ということはないですが....。抗癌剤を変えてそれ
なりに効果がある可能性もありますから....。今ですから
お話しますけど、手術して半年が経過しますけど、術後
抗癌剤をつかわなければここまでお元気でいられなかった
と思います。すくなくともこの半年、元気でいられたのは
病気の進展を抑え切れなかったとはいえ、これまでの抗癌
剤が効いていたことによるものだと思います。
 別の種類の薬をつかうことによって治療効果が望めるの
であれば、大きな副作用がなければやった方がいいとは思い
ますが.....。いずれにしてもSともよく話し合ってもら
っていただかないと....。」彼女は溜息をついて言った。
 「まあそうですよね....。とりあえず治療は受けておき
ますかね....。」私は言った。「でも本人がどうしても嫌なら
無理に治療はしなくてもいいとは思います。次回のTS1の
投与開始まで少し時間もあるし、息子さんともよくお話
して充分納得して治療をうけていただいた方がいいと思い
ますので....。」彼女は言った。「わかりました。まあ今後
のことも含めて息子ともよく話あってみますよ....。」
 彼女は一礼をして診察室を出た。

(次回へつづく)

 昨日は当直明けで疲れきって帰ってきて、少し横になって
休んでから更新しようとしたら朝になってしまっていました。
 ここのところ2週連続で週末に当直や呼び出しあり疲れが
溜まっていたようです。今日は午後早めに帰ってこれたので
子供達の世話をして寝かしつけて一段落して更新しました。
 重症患者さんもいるので明日は休みですが少し病院に顔出し
しなくてはなりませんが日曜はなるべく奥さん孝行したいと
思います。でも更新しますので楽しみにしていてください。
 今後ともよろしくおねがいします。
【2005/09/10 23:14】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(15)
 TS1とシスプラチンの治療を4クール終えたところで
腫瘍マーカーの測定と胸部と腹部のCTを撮影した。
 結果は残念ながらはかばかしいものではなかった。
 腫瘍マーカーは急激に上昇してきており、CT上は
胸部に多発性の腫瘍が認められた。肺の多発転移であ
る。肝臓の転移巣も増大傾向であり、現在の治療が限
界に近づいていることを示していた。結果を説明する
予定の外来に彼女はやってきた。検査結果を確認し、
彼女を診察室に呼び入れる。正直少し気が重たかった。
 私は言った。「どうもお疲れ様です。最近、特に
変わったことはありませんか?」彼女は静かに答えた。
 「お腹の方は相変わらず調子はいいようです。食事
も食べられますし、排便もあります。でも最近、夜に
なると咳がひどくなることが多くなりました。気にな
るのはそれくらいですかね。」「そうですか....。」
 私は彼女の診察を終えて椅子に座ってもらったあと
に言った。「先日、採血させていただいた結果なのです
が、実はあまりいい結果ではなかったんです。」
彼女はハッとした表情をしていった。「それはどう
いうことでしょうか?」「腫瘍マーカーが前回にと
った値より急激に増加してきています。CTの写真
でも両方の肺に腫瘍と思われる影が多発してきてい
ます。これは肺への転移と思われます。また肝臓の
腫瘍も大きくなってきています。」「肺にですか...。
この影が全部癌なんですね....。」「その通りです。
 たぶん、咳の症状もこれらの転移のせいかもしれ
ません。そろそろ手術して半年になります。手術の
時点の状態を考えれば、今の治療も腫瘍の進展を
抑えてはいるのだと思います。でもそろそろ限界に
近いといえるかもしれません。」「そうですか....。
で、これから私はどうなるのでしょうか?今後、ど
うすればいいのですか?」彼女は不安そうな表情を
浮かべて問いかけた。

(次回につづく)

 今日も緊急手術があって帰りが遅くなってしまい
ました。あわてて更新していたら時間がせまってきて
更新しようとしたら、なぜか書き込みが全部消えて
しまって大焦りで(ただいま更新中)でアップして
再度文章を打ち直しました。すいません。
 明日も当直で明日の更新はお休みします。
 いつも申し訳ありません。金曜日はなんとか更新
したいと思っていますので引き続きよろしくお願い
します。
【2005/09/07 23:58】 約束 | トラックバック(0) | コメント(2) |
約束(14)
外来での治療がはじまった。3週の内服薬投与と2泊3日の
入院を繰り返す形となる。退院後、彼女はかなり元気にな
ってきており仕事にもいけるようになってきていた。とり
あえず治療はTS1とシスプラチンで4クールやってその
治療効果を判断することにしていた。幸いにも彼女の場合
大きな副作用はなく経過しており治療は予定どおり行わ
れていたが、時々行う採血での腫瘍マーカーは横ばいで
治療は著効しているとはいいにくい状態であった。
 しかしながら彼女の体調は悪くはなく本人はいたって
元気ではあった。ある日の外来で彼女は言った。「先生
いまのところはいたって元気ですよ。仕事場の人たちに
も本当に胃癌なのかってきかれるくらいでね...。」「いや
実際に肝臓には腫瘍がありますし、腫瘍マーカーも上昇
していないとはいえ高値で経過していますから、油断は
できないですよ....。」「いまのところは薬での副作用も
あまりないですし食事も食べられていますのでいいと
思いますけどね。」「いやそれは非常に結構なことだと
思います。今日の採血の結果でも血球数は減少していな
いので引き続き治療を行っていきたいと思っています。」
「わかりました。今後とも宜しくお願いします。」彼女は
頭を下げて診察室を出ようとした。その間際に彼女は言
った。「ああ、先生。息子がね明後日私の誕生日だから
って食事に誘ってくれたんですよ。俺のおごりだから
好きなもの食べろって。あの息子がですよ...。」私は
言った。「それは良かったですね。彼もお母さんが元気
になったからうれしいんではないですか?」少しの沈黙
の間があった後、彼女は言った。
「先生。多分私の最後の誕生日になるかもしれないんで
すかね....。」私は少し答えに詰まった。その可能性は
非常に高い。いや多分来年はないだろう...。少し黙った後、
私は静かに答えた。「なんともいえませんが....。
できれば来年もSにお母さんの誕生日を祝えるようにして
あげたいとは思っています。」彼女は私の答えに何を感じ
たのだろうか....。「有難うございます。先生。今後とも
よろしくお願いします。」一礼して彼女は診察室を出た。

(次回につづく)
【2005/09/06 22:45】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(13)
 シスプラチンの注射の時に少々の吐き気と食欲不振はあった
がまずまず無難に1クール目は終了し、彼女は退院の方向とな
った。退院前に一回彼女とSに話しをすることにした。
 「どうもお疲れさまでした。手術もなんとか無事に終えま
したし、抗癌剤の治療もまずまず大きな副作用なく1回目の
治療を無事におわりました。今後は外来で治療を続けていく
ことになります。」彼女は言った。「本当に有難うございま
した。食事もまずまず食べられるようになりましたし、痛み
も今のところ落ち着いています。注射の治療の時はやはり
少しだるい感じがありましたけど予想したほどではなかった
ので正直ホッとしています。」私は言った。「それは良かった
です。しばらくは今の治療を繰り返していこうと思っていま
す。なかなか大変だとはおもいますが....。」「大丈夫ですよ。
なんとかやっていけると思いますから....。」「ところで
実際の問題として繰り返しお話はさせていただいていますが
抗癌剤の治療自体はいまだに完全に病気を治癒させる治療で
はありません。進行をある程度押さえ込むことはできますが
完全に癌を治癒させる薬は婦人科や一部の特殊な臓器の癌以
外ではなく、消化器の癌ではまだ存在しないのです。つまり
癌細胞が明らかに残っている今の状況では今の治療
を行っていてもいずれは治療の効果がなくなってくる可能性
が高いということです。食事が今のように食べることができ
て痛みもないいい状態が続くのは限られた時間であると思い
ます。貴重な時間をできるだけ長く過ごせるように私として
も最大限努力はしますが、状況は決して楽観できないもので
あることをご理解ください。」私はかなり踏み込んで話した
つもりであった。彼女もSもその意は汲んでくれたようで
あった。彼女は言った。「そこまで言っていただいて感謝
しております。先生方にいただいた命と時間を大切にさせて
いただきたいと思っております。」彼女は深々と頭を下げた。
 Sは口びるを真一文字にして眼に涙を浮かべグッとだまり
こんでいた...。

(次回につづく)
【2005/09/05 23:45】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(12)
 採血で問題ことを確認した後、彼女の抗癌剤での治療が
始まった。TS1の内服では特に大きな副作用はなく体調
も悪くなさそうであった。ある日の回診の時、彼女は言っ
た。「先生。今のところ体調も悪くないですし、入院では
あまりやることもなくて少し暇をもてあましていますよ。
 このいい調子がずっと続けばいいんですけどね.....。
来年の正月が迎えられればいいんですが.....。」それは
なかなか微妙なところではあった。私は言った。「先の
ことはわからないですけど、いい時期ができるかぎり
長くつづくようにやっていきたいとは思います。」彼女は
言った。「息子も一時期よりは落ち着いたし、そんなに
心配しなくてはならないことはないんですがね...。でも
まだもう少し見守ってやりたいとは思ってはいるんです
よ....。」彼女はつぶやいた。私は言った。「昔の彼しか
知らなかったんで最初中学の同級と言われた時はびっく
りしましたよ。彼もずいぶん落ち着いた感じになったな
と思いました。あのころはかなり荒れてましたからね。
 色々お母さんも苦労されたんではないですか?」「苦労
なんて....。子供をよそ様に迷惑かけないようにして
やるのが親の務めですから...。もともと自分の力が及ば
なくてあんな風になってしまったんではと思ってますし
少しずつ償っているだけですよ...。」そこには息子を
精一杯愛している母親の姿がみてとれた。Sは朝と仕事
が終わった夜に母親の見舞いにきていた。色々なごたご
たはあったかもしれない。しかし、ある意味、今が親子
が一番解りあえた幸せな時期なのかもしれなかった。
 だがそれは限られた期間であろうことは本人もSも私
も解ってはいることではあった。現実はあくまでも非情
である。病気は確実に彼女を侵していくことだろう。
 抗癌剤での治療がどれほど病気の進行を抑えてくれるか
はわからなかったができる限りいい時期が続いてくれる
ことを心から願わずにはいられなかった。

(次回につづく)

 みなさん週末はいかがお過ごしですか?台風が近づいて
きて全国的に天気は下り坂のようですが....。 
 当直明けで少しバテ気味ですがなんとか更新できました。
 来週も手術が立て込んでいますが、なんとか頑張って更新
していきたいと思いますので引き続き覗きにきてください
ね。今後とも宜しくお願いいたします。
【2005/09/04 17:51】 約束 | トラックバック(0) | コメント(2) |
約束(11)
 落ち着いたところで私は彼女と彼女の長男をよんで今後
の治療についてお話することにした。面談室に彼女と長男
であるSを呼びいれ私は話を始めた。
 「どうも手術後はご苦労さまでした。手術後の経過は大き
な合併症もなく概ね良好でした。」彼女は答えた。「おかげ
さまで有難うございました。」「ところで今後のことなの
ですが、手術して大元の腫瘍は取り除きましたがまだ肝臓
と胃の周囲のリンパ節に癌は残っている状態です。これに
対して抗癌剤の治療を行っていきたいと考えています。」
 彼女は溜息をついて言った。「やはりそうですよね...。
術前にもお話はありましたし、解ってはいます....。」
 「それで行う治療なのですが、TS1(ティーエスワン)
とシスプラチンという薬を使う治療を行おうと考えて
います。TS1は経口薬(飲み薬)で本来は4週間内服
2週間休薬で治療していくのですが、シスプラチンという
薬を併用する場合は3週間内服、2週間休薬とします。
 TS1の内服開始8日目にシスプラチンを注射で使い
ます。この薬は腎障害があり、点滴で利尿をつけながら
使用しなくてはならないので前日から点滴しておきます。
 5週間で1まとめで1クールということになります。
 1クールやって副作用がなければ退院としてあとは外来
で治療を行っていこうと考えています。シスプラチンの
注射の時だけ2泊3日の入院としてもらうことになりま
すが....。」彼女は言った。「わかりました。治療はどれ
くらいつづける必要があるのですか.....。」彼女の質問
に私は少し戸惑った。現在、消化器癌で抗癌剤だけで完全
に癌を消失させることはできない。進行を押さえ込むだけ
である。この治療で完全に治癒させることはできない。
 つまり半永久的につづけなくてはならないのだ。あけすけ
な言い方をすれが貴女が亡くなるか、副作用で投与不能に
なるかまで......。だが治療を行える期間は限られたもの
となるだろう。彼女に残されている時間はそんなに長いもの
ではないのだから....。私は言った。「抗癌剤の治療はあくま
でも癌の進展を押さえ込むにすぎません。治療効果をみな
がら検討していきますが、いずれにしても長期にわたって
の治療になると思います。」Sは言った。「母さん。nakano
もこう言ってるんだ。必要な治療はうけてよくなってもら
わないと....。」彼女はまた溜息をついて言った。「そうで
すね、とりあえずここまで良くしてもらったんだし....。
 まあ先生宜しくおねがいいたします。」

(次回につづく)

 明日は当直でブログはお休みとなります。日曜日にまた更新
するつもりでおりますので宜しくお願いいたします。
【2005/09/02 21:27】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
約束(10)
 術後、集中治療室に彼女を移した。術後も彼女の容態は落ち
着いていた。麻酔から目を覚ました彼女に私は言った。「Sさん。
無事に手術終わりましたよ。予定通りでした。腫瘍はとって
きましたからね...。」少し意識がボーッとしていたが、彼女は
目を開いて言った。「有難うございました。先生...。」一通り
の処置が終了した後、長男を呼び寄せた。彼は母親に問いかけた。
「お袋。無事に手術終わったからな...。」彼女は「大丈夫だよ。
痛みもそんなでもないしね...。」彼らを横にみながら、術後の
採血のデータに大きな異常のないのを確認し、私は切除標本の
整理にむかった。

 翌日、彼女の病室にむかった。比較的状態は安定しており
本人も元気そうであった。私は彼女に問いかけた。「大丈夫で
すか?痛みはどうです?」彼女は言った。「動いたり、咳をし
たりするとお腹がいたくなりますが、じっとしている分に
はよいです。」「わかりました。それではお腹を見せていただき
ますね...。」私は彼女の腹部の診察を行い、ドレーン部の
ガーゼ交換を行った。腹部所見もドレーンの性状も問題なさ
そうであった。朝の採血検査の結果を確認し、私は彼女に
言った。「どうやら大きな問題はなさそうですね。鼻の
チューブを抜いて今日外科病棟に上がりますので....。」
「わかりました。」と彼女は答えた。この日、外科病棟に彼
女は戻った。
 その後の経過は概ね良好であった。大きな合併症もなく
順調に彼女は回復していった。術後5日目に造影剤のんで
もらって胃と小腸をつないだ部分のもれがないことを確認し
飲水からはじめて、食事を開始していった。摂食量は多くは
なかったがまずまずの摂取はできるようになっていった。
 早期の癌であればこのまま退院で経過をみていけばよい
のであるが、彼女は肝臓と胃の周囲のリンパ節に転移があり
これはそのまま残している状態であった。
 まだ治療は始まったばかりである。私はそろそろ抗癌剤の
治療を検討しなくてはならないと考えていた。
【2005/09/01 23:02】 約束 | トラックバック(0) | コメント(0) |
藪医者の独り言


ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。


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