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誤報(1)のエントリーは11月26日付けです。最初から読む方はカレンダーで11月までたどって26日をクリックすると誤報(1),(2)のエントリーに入れます。あとは順々に日にちをクリックしていってください。

(モデルにさせていただいた誤報事件に関しての2chの過去ログ保存していたものアップしました
医者板の過去ログ→こちら
ニュース速報+板の過去ログ→→こちら
この事件の理解の参考となれば幸いです。当時の記事などが引用されている部位もありますのでm3掲示板も閉鎖された今、資料として貴重なものとして保存してあります。)
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雪中花(26)
 彼女が意識がはっきりしてきたのは次の日の午前中で
あった。気がつくと病院のベットの上に寝かされており
点滴が打たれていた。私は一体どうなってしまったのか
しら…..。Uの会社で会議中であったのは覚えている。
 その後の記憶がとぎれとぎれになっている。どうやら
病院に入院しているようだ…..。どうもお腹がすいて喉も
かわいていてちょっとつらい。起き上がれるかしら……。
 ベットに横たわりながら彼女は色々考えていた。回診に
看護師がまわってきた。「Yさん。具合はいかがですか?」
「どうも。少しはっきりしてきたみたいです。いままでの
ことがいまいち思い出せないのですが、私は今日、ここに
運ばれてきたんですか?」「いいえ、昨日の夕方ですね
運ばれてこられたのは。運ばれてきたときの事は覚えて
いらっしゃらないんですか?」「ええ、ぼんやりとしか….。」
「応答はされていたんですけど….。でも大分輸血して
しっかりしてきたみたいですね。かなり重度の貧血だった
んですよ。また先生の方から説明があると思いますけど。」
「そうですか……。」血圧や体温を測定してもらいながら
彼女は色々考えていた。商談の途中で倒れたのは覚えている。
あのあと商談は大丈夫だったのかしら…..。まあH主任もいた
し、なんとかなったのかな……。少し私も無理しすぎたのね。
主人がきたらどんな状況か聞いてみないと……。

 夕方になってT医師が彼女のところに回診にやってきた。
「どうもYさん。いかがですか…..。」「大分はっきりして
きました。実は昨日のことはあまり良く覚えていないんです。」
「そうですか。かなり重度の貧血で入院になったんです。
普通の人の半分くらいの濃さしか血液の濃さがない状態だった
んです。輸血をして貧血が改善してきたのではっきりしてきた
のだと思いますよ。」「そうですか……。」「それで下血されてい
たってことですけど….。」「ええ、2ヶ月くらい前から時々
赤黒い下血があって…..。」「話からすると大腸の病変からの
出血が継続的にあったのではないかと思います。いずれにしても
消化管からの慢性的な出血が貧血の原因でしょう。胃カメラと
大腸カメラを行う必要があると思います。」「そうですか……。」
「またあとで胃カメラと大腸カメラの同意書をもらいにきます
ので…..。」「わかりました。」T医師は彼女の病室を会釈して
退出した。T医師は看護詰め所にいくと彼女のレントゲン袋
からその日の朝一番でとった彼女のCTを取り出しシャーカ
ステンに並べた。下行結腸にあたる部位に腫瘍らしき大腸の
壁の肥厚らしき像が認められた。それ以上に悪いことに肝臓に
複数の陰影が認められた。「肝転移か……。」Tはそう呟くと
溜息をつきフィルムを袋に戻した。

(次回につづく)

 明日は当直なので今日は早く帰ってきて早く寝ておくつもりです。
 ということで明日はブログの更新お休みします。引き続きよろしく
お願いいたします。
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【2005/11/30 22:03】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(25)
 彼は病院につくと救急外来に向かった。受付の看護師に
声をかける。「すいません。Yの夫ですが….。妻が病院に
搬送されたということで呼ばれたのですが……。」看護師
は彼を見ていった。「Yさんですね。いま先生に連絡します
ので少しお待ちください。」待合いで座ってまっていると
Hが声をかけてきた。「社長。どうもお疲れさまです。」
「ああ、主任か。妻が突然倒れて迷惑かけてすまなかった
ね。」「いえいえ。そんなことは無いですけど。」「それで
どんな感じだったのかな。」「会議中に机につっぷしてしま
う感じで動けなくなってしまって…..。意識も失っている
状態でした。ちょっと普通ではなかったです。」「そうか…。」
 H主任と話していると看護師が声をかけてきた。「Yさん
の家族の方、どうぞお入りください。」彼は呼ばれてT医師の
前の椅子に座った。T医師は話始めた。「どうも救急担当の
Tといいます。奥様の状態なのですが、意識は少し戻って
きました。採血でみるとひどい貧血ですね。血液の濃さを
評価するのに血色素量、ヘモグロビンという値があるので
すが正常が11~14g/dl位なのですが5.6g/dlまで低下
しています。つまり正常の方の半分の血液の濃さしかない
状態です。ご本人に聞くと2ヶ月くらい前から下血して
いたということです。消化管のどこかから出血して貧血
になっていることが最も考えられます。旦那さんは何か
気づかれていたことはありますか?」彼は一瞬戸惑った。
普通の半分の血液の濃さ?下血?側にいたけど全然気が
つかなかった….。「いえ。全く気がつきませんでした。
全く寝耳に水で…..。」「奥さん、隠されていたんですね。
実際ひどい貧血でよくここまで我慢されていたな
と思いますよ。私や旦那さんが急にこれくらいの
貧血になったら動けなくなってしまうくらいの貧血です。
いずれにしても入院して輸血が必要です。それから貧血
の原因を調べないといけません。今一番疑っているのは
なんらかの消化管出血です。胃カメラと大腸のカメラの
検査、腹部のCT検査が必要と考えられます………..。」
 彼は愕然としていた。どうやら妻はそれなりの入院治療
が必要な状態らしい。会社の事に追われ、俺は一体何を
していたんだ……。これから妻が担当していた仕事も
なんとかしなければならないし…..。いや会社はとりあえ
ずいいが妻は大丈夫なのか?彼は聞いた。「先生、それで
妻は大丈夫なんですか?命には差しさわりは無いんです
よね。」Tは言った。「Yさん。とりあえず輸血をすれば
状態は落ち着くと思います。あとは貧血になった原因を
きちっとしらべないとなんとも言えません。ともかく
しばらく食事を止めて点滴して検査をしないといけま
せん。数週間単位の入院は必要になると考えていただい
た方がいいと思います………..。」彼は思った。ともかく
今は医者にまかせるしかないだろう…..。彼は言った。
「わかりました。ともかくよろしくお願いします。」

(次回につづく)
【2005/11/29 23:15】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(24)
 彼のところに病院から電話で連絡があったのは彼は他の
取引先と商談をしているときであった。携帯電話の着信の
バイブレーションを感じると彼は相手に「失礼します。
電話がかかってきましたのでちょっと失敬します。」といって
同席していたOに続きをまかせて部屋の外に出て電話を
とった。「もしもし、Yですが。」「突然の電話で申し訳あり
ません。こちらS総合病院の救急の看護師のKといいますが
実は奥様が出先で倒れられて救急車で当院に搬送されました。
 今、出先でいっしょでらっしゃった会社の方が付き添って
いますが、旦那さんにもいらしていただきたいのですが。」
 突然のことで彼はにわかには信じられなかった。「もしもし。
妻が病院に運ばれているんですね。」「ええ、それで今、点滴
をして休んでもらって検査をしているんですけど、先生も
ご家族の方にお話させてもらわないといけないだろうという
ことなんです。こちらには来ることできますでしょうか?」
 できるかもなにも行かないわけにはいかないであろう。
 彼は少し考えた。とりあえずここはO取締役にまかせて
私は病院に向かうってものだろう。「わかりました。S総合
病院ですね。1時間位でいけると思います。妻は大丈夫なん
ですか?」「まだ少しボーっとされています。詳しいことは
またこちらにいらしてから先生が説明してくれると思います
ので……。」「わかりました。」かれは電話を切ると会議室に
もどりOに耳打ちした。「妻が出先で倒れて病院にはこばれた
らしい。病院に向かいたいのでここは頼めるかな。」Oは黙って
頷いた。彼は取引先の相手に向かって言った。「すいません。
他の会社の製造ラインが故障して他業者も入っているところ
なのですがうちの助けが欲しいということで連絡があって
今、現場の人間も行っているんですがどうしても私でないと
わからないことがあるということで申し訳ないですがあとは
O取締役にお願いして一旦退席させていただいてよろしいで
しょうか?」相手方は「わかりました。細かいところをあと
2、3点つめておきたいのですが、Oさんとでも大丈夫で
しょう。大変ですね。Yさんも営業兼技術者だから。」「いえ
いえそんなことないですよ。Oさん。申し訳ないが、車乗っ
ていっていいかな?打ち合わせが終わったら誰か迎えによこ
すから。なにか問題があったら僕の携帯に電話してください。」
「わかりました。社長気をつけていってください。」彼は
会釈すると会議室をでて会社の車に乗り込み病院に向かった。
 突然倒れたってどういうことだろう。今朝はそんな変な感じ
なかったが…..。ずっと働きづめで過労だったのかな…..。
 車を運転しながら彼はそう考えていた。

(次回につづく)
【2005/11/28 23:45】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
雪中花(23)
 その日の午後、その病院の救急当番であったTは病棟業務
をこなしているときに救急外来の看護師から連絡をうけた。
 「救急隊から連絡で60代の女性で意識を消失して倒れた
ということで運ばれてきます。特に既往はなく当院は初診の
ようです。救急車の中では応答しているとのことです。10分
位でこちらに到着するようです。」「わかりました。到着したら
また連絡ください。」Tが病棟業務を切り上げる算段をしてい
ると到着の連絡が入った。救急外来に向かう。救急外来に入る
と救急隊員がTに報告してきた。「患者さんはYさん。64歳女性。
会議中に意識を失って倒れたということで救急要請をうけました。
 現場到着時は応答はしますが自分では動けない状態でした。
 車内での血圧は84/32 脈拍112 血中酸素飽和度は80%後半で
したので4リットルの酸素を流して98%でした。」「わかりま
した。」Tは救急隊員に応答すると彼女に話しかけた。「Yさん
わかりますか?」彼女は少しボーッとしていたが誰かに話しか
けられていることはわかった。「わかります。」「倒れたときの
状況をわかる範囲で教えてくれませんか?」「…………。」Tは
本人から病歴を聞ける状況ではなさそうなのをみて救急隊員に
言った。「倒れたときに居合わせた方は?家族の方は連絡とれて
いるのかしら?」「会議に居合わせた会社の人は付き添ってきて
います。旦那さんにも連絡をとりました。こちらにくるには1時
間くらいかかるということです。」「わかりました。」Tは胸腹部
の診察を行い、大きな異常がないのを確認した。四肢麻痺はない
ので脳梗塞ではなさそうだ。眼瞼結膜は真っ白で貧血はありそう
だった。Tは言った。「点滴をソリタT1で始めて、採血と血液
ガスをとります。採血の項目は血算と生化学の救急のセットで
あと心電図と胸のレントゲンをとってください。点滴のラインを
入れたら血糖チェックしといて。」Tは看護師にとりあえずの指示
をだすと社員として付き添ってきたHを呼び入れた。Tは言った。
「どうもご苦労さまです。Yさんが倒れた状況について説明を
していただきたいんですがよろしいですか?」Hは答えた。「はい。
会議中だったんですが、椅子にすわっている状態で前に倒れこむ
形で机につっぷしてしまって….。そのまま動けなくなってしまった
ようです。ソファーに皆で移して休ませたんですが応答もしっかり
しない状態だったので救急車をお願いしました。」「以前からなにか
病気をしていたとか、普段、内服されている薬とかあるかわかり
ますか?」「それはちょっとわからないです。多分ないと思いますが。」
「ここのところ調子が悪そうな感じはありましたか?」「ここ数日は
少しだるくって調子がわるそうなことは言ってました。たしかにここ
のところ多忙ではあったと思いますので………。でも会議前は
普通でしたけど……。」「わかりました。検査させていただいて今回
のことの原因を検索したいと思います。でも今の状態だと入院して
もらわないといけないかもしれませんよ。」「そうですか…..。」「とり
あえずご家族の方がつくまでは付き添っていただいてよろしいです
か?」「それは大丈夫です。」Hは答えた。

(次回につづく)
【2005/11/27 21:41】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(22)
 夫も復帰し、Uの会社からもらった仕事を無事に完了させ
残金の振込みがあってようやく財務的な余裕が生まれた。
 仕事量はY工業倒産前にくらべれば若干少なかったが、結果
的に退職者がでて人件費は減ったのでなんとか利益がでる
状況にはなりつつあった。そのあともUの会社からの新製品
開発に関しての技術提携の話もあり、決して楽な状況では
なかったが営業の継続の展望が見えてきていた。業務提携の
話は彼女とUの間で進められていた。前回の仕事内容に対し
ての相手方の満足度も高く、技術提携に関しての話は比較的
スムーズに進んだ。だが彼女は周りには隠していたが断続的に
下血があり、日を追うごとにふらつきがひどくなるのを感じ
ていた。病院にいかなければならないことはわかっていたが、
成り行き上、今後の会社の一番の取引先となろう相手との
数ヶ月にわたる大事なプロジェクトを任された状態であった
ためなかなかその時間をとることができない状態であった。
せっかく再建の目途がついてきて会社の雰囲気もよくなっ
てきたのに私が休むわけにもいかないわ……。不安もあったが
彼女は無理やりその不安を打ち消して目の前の仕事をこなして
いった。1ヶ月がすぎ、2ヶ月が経過したある日の午後、定期
の打ち合わせのため彼女はH主任とUの会社での会議に出席
していた。H主任が製品の部品に関してのプレゼンテーション
を終え、それに対しての質疑が行われているときに彼女は
ふっわとした眩暈に襲われた。Uが彼女に質問してきた。
「Y専務。この改良を行うにあたってどれくらいのコストが
かかりそうですか。」彼女は意識が遠のいていくのを感じて
いた。Uの顔がぼやけて見える。まずいわ…..どうしよう…..。
「専務!」「奥さん、どうしました?」まわりから驚くよう
な声が上がったのが聞こえた。彼女は自分の体がゆっくりと
椅子から倒れてこんでいく感覚を感じていた。目の前が真っ暗
になり、そして何も聞こえなくなった。

(次回につづく)
【2005/11/26 21:34】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(21)
 週明けの月曜日の午後電話がかかってきた。Uからだった。
「奥さん。おたくのところに発注が正式にきまりました。明日
所定の金額が前金として御社の口座に振り込まれます。」彼女は
ほっとして答えた。「本当ですか。ありがとうございます。それ
で、納期の期限はいつになりますか。」「今月末まで2週間あり
ます。それまでに納品の方よろしくおねがいします。」「わかり
ました。」彼女は受話器をおくとふーっと息をついた。H主任
に連絡する。「H主任。例の仕事、正式に決定したわ。納期は
今月末ということなの。大丈夫?」Hは答えた。「2週間あり
ますね。多分大丈夫だと思います。期限は1週間くらいと思って
ましたから少し余裕がありますね。」「じゃあこの件はお任せ
しますのでよろしくお願いします。」「わかりました。」
 とりあえずこれで首の皮一枚でなんとかしのげそうだ。夫は
来週に退院してくる。コルセットは必要ではあるが自由に動ける
ようになったし、社長がもどってくればまた社員の士気もあがる
だろう。少しずつ新規の仕事も小さいものながら入ってきていた。
 この仕事を無事におえて、残金も振り込まれれば半手半金や
手形決済での取引でもなんとか回していけるキャッシュは確保
できそうだった。道は険しいが会社はなんとか生き残る目途が
ついてきたのである。

 彼女は受注がきまった日の夜、夫の入院する病院に向かった。
 彼の病室につくと彼女は夫に声をかけた。「あなた。いま着いた
わよ。」彼は「おお。」と答えた。「どう調子は。」「大分よくなった
感じだよ。リハビリも順調にすすんでるし、そろそろ退屈してきた
かんじだけどね。今週の木曜日に退院がきまったよ。」「そう。」
「まあ、家に帰って今週はゆっくりして、来週くらいから仕事に
復帰したいと思っている。お前もご苦労だったね。」「そんなことは
ないけど。それで、前も話したUさんからの仕事、正式に受注した
んで報告するわ。半額を前金で明日振り込んでくれることになって
いるの。これでなんとか当面の資金繰りはつきそうな感じになって
きているわ。もちろんここ2ヶ月くらいは私達の給料は会社に借り
上げって形で出ないけどね…..。」「それでもなんとか資金繰りの
目途をつけたんだからたいしたものだね。僕はあきらめていたから
な……。」「まあ。今回はたまたま元々の取引先の知ってる相手に
出会えたという幸運にめぐまれたからだけど。それがなければ
破産か民事再生しかなかったとは思うわ。私は正直、会社を清算
してしまいたかったんだけど。これからだって薄氷を踏む思いよ。
自転車操業なのは何も変わらないんだから…..。」「まあそういうな
よ。僕ももどったら少しはお前も楽にできると思うから……。」
 大分元気もでてきたし夫も精神的には大丈夫そうね。これで
とりあえずはなんとかなりそうだわ。夫が会社の継続を望むの
なら私もできるかぎりはがんばらないとと彼女は考えていた。

(次回につづく)

 どうも今日と昨日は帰りが遅くなってしまいました。昨日は更新
できませんでした。今日は日付が変わってようやく全文アップでき
ました。
【2005/11/25 23:58】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(20)
 彼女は約束の時間にUの会社を訪れた。部屋に通されて
少し待つとUがやってきた。「どうも奥さんご苦労様です。」
「こちらこそ忙しい中、時間を割いてくれて有難うござい
ます。」「それで今日は見積もりをだしてきてくれたんです
よね。」「ええ。こちらのとおりです。」彼女はUに見積書を
渡した。Uはそれに目をざっと通して言った。「奥さん。
ずいぶん頑張りましたね。」「どうしても欲しい仕事なので
できるかぎり勉強しましたけど。」「わかりました。この値段
なら他からも文句はでないでしょう。来週、週明けに業者の
選定の決定を行いますので決定したら連絡します。」「大丈夫
ですかね。」「多分大丈夫だと思います。いい知らせをまって
いてください。」「有難うございます。」彼女は頭を下げて部屋
から出た。Uは渡された書類をまとめて袋にもどすとそれを
持って事務所の自分の机に向かった。見積書を机の上におくと
部下が声をかけてきた。「U部長。例の会社の見積もりですか。」
「ああ。結構厳しい値段を提示したらもっと値段を下げてきた
よ。」「部長は他業者の見積もりの当て馬にするつもりだったん
ですよね。」「昨日、奥さんが飛び込みできたときはな。他の
業者の値段引き下げ交渉につかうために見積もりをたてさせ
たんだがね。発注するつもりはなかったんだが…..。昨日
奥さんきたあとY製作所の周りに探りをいれたんだが社長
は自殺未遂したらしい。財務は火の車なんだろう。幹部の
一部もやめたようだしこの仕事が多分あそこの命綱なんだ
と思うよ。」「そんな会社に仕事まかせられないでしょう。」
「いや、あの会社の技術は無くすにはちと惜しいんだ。
個人的にはY工業にいるとき、あの社長にもお世話になって
いるし助けられたこともあったのでね。この仕事はあそこ
にやらせてみようと思ってる。この値段でどれほどの仕事が
できるか見定めさせてその後も商売をつづけるか検討した
いと思っている。もちろんあげられるチャンスは1回だけ
だけどね。」「なにかあってこちらに損害がでたら
どうするんですか。」「そのときはそのときさ。僕がなんらか
の形で責任をとればいいんじゃないかな……。多分、きっちり
仕事、仕上げてくると思うよ。根拠はないけどね。あの奥さん
の目をみていたらそう思ったんだ。」Uはそういうと自分の椅
子に座った。

(次回につづく)

 おかげさまで80000Hit突破です。今後ともよろしくお願い
します。キリ番踏んだ方はコメントくださいね。
【2005/11/23 19:18】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(5) |
雪中花(19)
 次の日の朝、彼女は目覚めてはっと気がついた。昨日家に
帰ってきて、ふらふらになってとりあえず無意識に着替えて
ベットに倒れこんだらしい。昨日の夜はあまりにもボーっと
していて少し意識が朦朧としていたのでよく覚えていなか
った。彼女はベットから起き上がるとホッと一息ついた。
 なんとか今日は大丈夫そうね。でも会社が一段落したら病院に
いかないとまずいわよね……。彼女は慌しく身支度を整えると
会社に向かった。いやね。まだ少しふらふらするわ….。疲れ
もたまっているのね……。

 会社につくとO取締役とH主任が見積もりを作成して
待っていた。「お早うございます。専務。体調はどうですか。」
「まだ少しふらふらするけど大丈夫よ。例の件は大丈夫そう
かしら?」「かなり厳しいですけど言われた金額よりは値段を
下げた見積もりにしました。」「それで大丈夫なの?」「人件費
位の利益はなんとか出せると思います。新規の仕事ですから
失敗は許されないので材料費を大幅に削るわけにもいきません
し気は遣いますけどね。」「有難う、ご苦労さま。二人とも
休めたら今日は代休とってもらってもいいわよ。」H主任は
言った。「専務。今までの仕事をこなすのにも人が減って
休んでられませんよ。この仕事が受注できたらそれこそ
どうやって仕事を納期に間に合わせるか…..。ともかく現場
の方は私が責任もってみてますので心配なく。」Oも言った。
「専務。どんな仕事でもあったほうがいいですから、私は
今日の分の営業回りは予定通りやるつもりでいますから。」
 彼女は言った。「二人とも気持ちはうれしいけど無理しない
でね。事故でもあったらそれこそ大変だから。」「わかって
ます。そういう専務が一番無理されているんじゃないん
ですか?」Hが冗談交じりに答えた。「そんなことないわよ。
こう見えてもうまく休みはとってるんだから……。」
彼女が見積書をもって会社をでようとしたときO取締役
が彼女に声をかけた。「専務。差し出がましいようですが
私、自分の自宅を担保にいくら借りられるが信金や銀行に
あたってみました。中古ですけど一応土地つきなんで1200
万は借りられそうです。どうしても困ったときは言って
ください。」彼女は少し黙ってからいった。「O取締役。
奥さんはいいって言ってくれているの?」「妻にも相談し
ました。今の私があるのは先代からお世話になっている
会社のおかげだと私は思っていますし、妻もわかってい
ます。会社と社長、専務がこんな大変なときにこんなこ
としかできずに申し訳ありませんが…….。」「申し訳ない
のはこちらのほうよ。主人があんなことするからこんな
ごたごたになってしまって….。O取締役。気持ちだけは
もらっておくわ。本当に有難う。でもともかくこの仕事
はもらってくるから。それでとりあえず前金が入れば一息
つくわ。そのあとは主人も退院してきて復帰してくれる
と思うしなんとかなると思うの。」「でも専務、運転資金
は少しでもあったほうが….。」「あなたにそんな真似させる
位なら私は会社をたたみます。そんなことより会社のため
に1つでもいいからいい仕事とってきてください。」Oは
少し黙ってから言った。「わかりました。」その場を立ち去
ろうとしたOに彼女は言った。「O取締役。本当に有難う。
あなたがいなかったら多分会社は駄目だったと思うわ。
会社を思うあなたのためにもできるかぎりのことはやって
みますから。」Oは言った。「専務。たとえ沈む船であった
としても社長と専務の下で働けて私は幸せだと思ってい
ますから…….。もう少し長く、専務の下で働かせてもら
いたいと思っています…..。」

(次回につづく)

 Hit数が80000になりそうですね。キリ番踏んだ方は
コメント残してくださいね…..。
【2005/11/22 23:09】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(18)
 彼女は夫の入院している病院にむかった。ふらふらした
感じはまだ残っていたがさっきよりは落ち着いてきた感じ
だ。夫の病室に向かう。夫はベットの脇に座って雑誌を
読んでいた。夫は妻を見つけると「よう。」と声をかけた。
 彼女は言った。「どう、調子は。」「まだうごくと腰が
痛くてね。コルセットしてれば少し動けるかな。でも
安静解除されて大分動けるようになって助かったよ。
 そろそろ退院考えてもらってかまわないとさ。」
「そう。それは良かった。」「それでその後会社の事は
どうだい。お前も気を遣っているのわかっていたから
あえて今まで聞かなかったけど。結構厳しいんだろう。
俺もそろそろ退院になるし今の状況だけでも教えてく
れないかな。」「会社の方はかなり人はやめてしまった
けどなんとかなりそう。本当に一杯一杯だけど…….。
 でもなにかあれば本当にすぐバンザイね。貴方に復
帰してもらうまではなんとか会社を生き延びさせたい
と思ってる。嫌でも病み上がりを押して働いてもらわ
なくてはならなくなりそうよ。」
「そうか…..。俺もできるだけ早く仕事に復帰するつも
りだし、今の状況についてもうそろそろ詳しく教えて
くれてもいいんじゃないか?」彼女は少しまたふらつ
いてきそうな感覚に襲われた。まずい。このままだと
倒れてしまいそうだ。彼に気づかれては困る。彼女は
慌てて言った。「そうね。そうしたいんだけど、今日は
会社で仕事の件で徹夜で打ち合わせをする予定になっ
ていてO取締役を待たせているからすぐ戻らないと。
その後だとこちらにこれそうにないから営業の会社
回りを終わらせてこちらに寄ったの。今日は顔出し
だけで勘弁してね。また退院前に会社のことは嫌でも
聞いてもらうから。」「しょうがないな。わかった。
大変だと思うけどよろしくな。」「大丈夫よ。それじゃ
またね。」彼女はやっとの思いで部屋をでると、彼は彼女
をエレベーターまで見送りにきた。彼女は彼に気づか
れないように意識的に姿勢を正し、エレベーターに乗り
込む。ドアが閉まるとき、彼女はできる限りの気力を
ふりしぼって彼に微笑んだ。やっとの思いで1階に
つくと外来の待合室の椅子に座り込んだ。10分くらい
休んでいると外来を通りかかった看護師が彼女に声を
かけた。「どうされました。大丈夫ですか?」彼女は
答えた。「大丈夫です。見舞いにきたんですが、ちょっと
ここのところ忙しくでつかれていて….。少し休めば
大丈夫ですから……。」「そうですか。なにかあったら
受付に声をかけてくださいね。」「わかりました。有難う。」
 彼女は思った。このまま家に帰れるかしら…….。
 家で休んでいて大丈夫かしら。そのまま動けなく
なってしまったらどうしよう……。色々なことが頭に
浮かびどうしようもない不安に襲われた。皮肉なもん
ね….。病院の中なのに診察を受けられないなんて….。
彼女は苦笑いをするとなんとか立ち上がって玄関に
向かい、タクシーをつかまえて自宅に向かった。

(次回につづく)
【2005/11/21 23:27】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(17)
 「一体、何なのこれは?」彼女は動揺していた。紙で
お尻を拭いたあと慌てて水を流した。ただごとではない
だろうことは想像できた。できれば見なかったことにした
かった。「どうしようか……。病院にかかってる場合じゃ
ないのに……。」彼女の額にいやな汗が流れた。すこし
便器に座り込んで休んだ。少しふらふらするが動けそう
だ。もしも私が入院なんてことになったら今までの努力
は水の泡だ。明日にはUの会社に見積もりをもっていく
予定だし….。夫婦ともに入院なんてことになったら社員
達だって動揺するわ。大丈夫、今日休めば少しは体調も
よくなるだろう。会社回りは今日はこれで切り上げて
夫の見舞いを早めにすまして今日は早めに休みましょう。
 ともかくO取締役に連絡しないと……。
 彼女は元の席にもどり、少し休んでから店の外に出た。
 携帯電話から他社に営業をかけにいっているO取締役
に連絡をした。「もしもし、Oさん。今いいかしら。」
「専務。ご苦労様です。こちらは大丈夫です。用件は
なんですか?」「そちらはその後、営業の方はどうで
すか?」「さっぱりに近い状態ですね。1件、当方の
実績もみてなにかあれば仕事回しますといってもら
えたところはありましたけどすぐの仕事はなさそう
ですし。」「そう….。私の方は幸運にも前のY工業の
Uさんと会えてなんとか仕事回してもらえそうなの。
現場のH主任に仕事の概要についての書類を渡して
おいたので今日の営業回りの予定が終わったら、会社
にいって目を通しておいて欲しいの。見積もりを明日
までにもっていかなくてはならないので…..。」「わかり
ました。会社には6時過ぎにもどれると思いますけど
専務はどうされますか。」「本当は会社にもどってその
仕事の件で話し合いたいところなのよ。でも夕方にな
って急に体調が悪くなってしまって…..。できれば今日
はこのまま主人を見舞って家で休みたいのよ。いいか
しら。わからないことや相談したいことがあれば連絡
してもらってかまわないから…..。」「そうですか…..。
大丈夫ですか?専務もここのところずっとお忙しかった
ですし心が休まる暇もなかったでしょうから…..。
わかりました。ここで専務に倒れられるわけにもいかないですし
今日は私に任せてゆっくり休んでください。」「有難う。
恩にきるわ。」彼女は携帯電話を切ったあと、ふっと一息
溜息をついた。今は下血のことは周りには隠しておかな
いと…….。大丈夫よきっと。彼女は心の中でつぶやいた。

(次回につづく)
【2005/11/20 16:26】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(16)
 彼女は会社に一回帰った後、金型の製作の責任者である
H主任を呼び寄せた。「H主任。1つ仕事が入りそうなの。
この部品の作製の見積もりを至急立てて欲しいの。それで
申し訳ないんだけどこの値段でおさめられるかしら….。
 できれば明日見積もりをもっていきたいの…..。」
 Hは図面を見つめて少し考えた。これはかなり厳しいが
専務が多分やっとの思いでとってきた仕事だろう。選択
の余地はないに決まっている。「おさめるもなにもこれで
やるしかないんでしょう。専務。見積もりは明日までに
たててみますよ。なんとか利益がだせるか計算してみ
ます。納品の期限はどれ位になりそうなんですか?」
「向こうはできるだけ早くということだけど。1週間
位が限度だと思うわ。」「人も減っているし、今こなし
ている仕事も平行してですから、受注したらしばらく
は不眠不休になりそうですね…..。しかもほとんどただ
働きになりそうだ。」「新規の仕事だから失敗は許されな
いの。うまくいけばまたそこから新規に仕事もらえそう
だから。」「わかりました。なんとかやってみます。」
「わるいけど宜しくね。」彼女は書類をHに預けると残り
の時間を他の会社の訪問に当てるために再び会社を
出た。

 その後1社を回ったがそこもほとんど相手にされずに
追い返された。仕方ないわ。今日はともかく1つ仕事
とれそうだし、これでよしとしないと…..。彼女は自分
に言い聞かせた。どうもふらふらする。少しつかれた
のかしら…..。彼女は少し休みをとるために喫茶店に
入ってやすむことにした。コーヒーを一杯飲んだあと
もよおしてトイレにむかった。用を足して便器をみた
彼女の表情が一瞬固まった。彼女が見たのは赤黒い
下血だった。

(次回につづく)
【2005/11/19 23:50】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(15)
 Uは言った。「まあ奥さん。立ち話もなんですから。
丁度、今私も取引先から帰ってきたばかりで。今時間
少しあるので部屋でお話しましょうか…..。」
 彼女は面談室に通された。これだけでもいままでの
回った会社とは対応が違った。彼女は椅子に座って
お茶を出されてすぐに向かいに座ったUにむかって
話始めた。「どうかしらUさん。あなたならうちの工場
の技術はわかっていらっしゃると思うの。お宅の会社
の役にたてるんじゃないかと思うのよ。なにか出来る仕
事はないかしら….。」Uはいった。「まあ、Y製作所
さんの金型はものがいいので使えるところはあると
思いますけど、こちらにも取引があるのでね、そう
そうすべて乗り換えるわけにもいかないですよ。それ
なりに価格を勉強してもらえれば話は別ですけど….。」
「今は少しでも仕事をもらえればありがたいの。だか
ら価格はなんとか努力するわ。でも前金でいくらか
もらえないと…….。本当に今厳しいので……。」Uは
彼女の顔を見て思った。今度新たに開発しようとして
いる製品の部品製造の開発に信頼できる部品製造の
製造元との提携を考えていたところだった。Y製作所
はそれなりに技術も実績もある。今後有利な提携と
安価な仕入れを確保するのに恩をうっておいても損は
ないかもしれない。丁度、別のモーター製造の部品で
2社に見積もりを取らせたところだ。どうやら今かなり
苦しいらしいし足元みれるだろう。値段をこちらが言え
ば言い値に近い感じで承諾するしかなくなるだろう。
 少し考えてUはいった。「いいですよ奥さん。他ならぬ
奥さんの頼みならしかたないですね。丁度、今、別の製品
の部品の仕入先を検討しているところなんです。奥さんの
ところでも見積もりだしてもらえませんか?」彼女は
言った。「有難う、Uさん。恩にきるわ。」「今、設計図を
もってこさせます。ちなみに他の二社の見積もりの値段は
これくらいです。」Uは他の二社が出した見積もりより
1割低い金額を紙に書いて提示した。「これより安くとい
うのはかなり無理があると思いますけど、うちも新規の
ところから仕入れるとなれば他の連中を納得させなくては
ならないので努力してもらえるとうれしいですね。これ
より安くできるなら半額は前金でもいいですよ。僕が
決裁をとりつけますから。この仕事をうまくやってくれ
れば他の大きな仕事も回せると思いますよ。」
 設計図と提示された個数と値段をみて彼女は思った。
 この値段で利益だせるのかしら….。Uさんも結構狸ね。
 足元みてふっかけてきたのかしら….。だが前金で半額
でももらえるというのは破格である。製品つくって売掛金
で手形決済して回している会社がほとんどだというのに…。
Uの会社は結構、キャッシュに余裕があるのだろう。交渉
の力関係ははっきりしていた。今の彼女に選択肢はなかった。
夫の自殺未遂の話や、N常務がやめたことをUは知らない。
Uが知っているのは1年前のY製作所である。現状をもし
知っていればこのような仕事の話を出さなかっただろう。
 私も悪ね。でも仕事ができて会社がまわれば文句の出様は
ないわ………。彼女は言った。「わかりました。明日までに
見積もりだしてもってきます。お忙しい中、時間を割いてい
ただいて有難うごさいました。」彼女は机の上の書類を集めて
かかえると席を立った。

(次回につづく)
【2005/11/18 23:18】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(14)
 彼女は数社をまわったが、みな殆ど門前払いの状態で
あった。予想されたこととはいえ、精神的につらいもの
がないといったら嘘であった。今日だめなら夫にも会社
のこと一応話しておかないといけないかな…….。彼女
はふと思った。昼食をとってから午後も会社回りをつづ
けた。午後になって回り始めて3社目の会社の受付に
いき「すいません。こちらのモーター製造過程の責任者
の方とお話したいのですが……。」と声をかけたときで
あった。背中から「あれ、Y製作所の奥さんじゃないで
すか?」と声をかけられた。振り向くとそこには見覚え
のある顔があった。にわかには思い出せなかった。彼女
がすこしぽかんとしているのを見て、彼はいった。「奥さ
ん。覚えてませんか。Y工業のUですよ。おひさしぶり
です。」彼女もしばらくして合点がいった。「ああ、U
製造部長さん。これは失礼しました。今こちらにいら
っしゃるんですね。」「ええ。奥さんのところには色々
お世話になってました。1年前に知人が会社を立ち上げ
るっていうんで誘われてこちらに移ったんです。」「そう
でした。急にやめられたってきいて驚いたんでした。」
「今日はうちの会社になにかご用事ですか?まさか専務
自ら営業ということもないでしょう?」「Uさん。その
まさかなの。実は、Y工業が倒産したのはご存知です
よね。」「ええ。私がいたときも少し危ない感じだった
んですけどね。もう少しもってくれると思っていたん
ですが…..。」「それで、うちから納品した分の支払いが
焦げ付いてしまって、いきなり資金繰りが苦しくなっ
てしまって……。Y工業の分の取引がなくなってしま
ったことも痛手なの。すこしでも新規の顧客を開拓し
ないとうちも連鎖倒産になりそうな状態なのよ…..。」
「そうなんですか……。」彼女は考えた。うまくいけば
商談が成立するかもしれない。夫の自殺未遂、N常務
の資金持ち逃げに関しては話さない方がいいだろう。
 U部長とあえたのは奇跡的な幸運だった。なんとか
この幸運を生かさなければ…..。彼女の駆け引きがはじ
まった。

(次回につづく)
【2005/11/17 23:58】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(13)
 彼女は電話を切ったあと少し呆然としていた。
 今月の給料はどうするのか、材料の仕入先への支払い
は?追加融資を申し込んでも受けてくれる金融機関は
ないだろう。息子を保証人にたてて資金を引っ張るか..
….。いやいやそれはできない。やはりバンザイするし
かないか……。色々な考えが頭の中で回転していた。
 Nに資金を持ち逃げされたことで彼女は社員の誰を
信じていいのかもわからなくなっていた。だが今いる
社員は信じるしかないだろう。彼女は取締役のOを呼び
寄せ相談することにした。彼女が今回の顛末をOに話す
とOの顔色が変わった。「本当ですか?専務。そんなこと
信じられません。」「信じられないかもしれないけどこれ
が事実なの。今、会社の口座には社員に払う給料分も
残高があるかあやしいもの。とりあえず今月の給料は
遅配にするしかないかもしれないけど、事業の継続は
殆ど不可能でしょう。資金を融資してくれるところは
まともなところではないでしょうし、破産手続きを
すすめた方がいいと思うの..。」「そうですか……。」
「ともかく今週末まであと3日は営業をかけてみて
それで見通しを立てられなければ破産手続きをしまし
ょう。」「いたしかたないですね。そうするしかないで
しょうね…….。」彼女の腹は決まった。別に会社が倒産
しても、債権者にののしられても命まではとられること
はないだろう。このご時世である。倒産話はそこかしこ
でよくある話だ。別に犯罪を起こしたわけではない。資金
を持ち逃げしたNよりもよっぽど自分の方がまともだ。
やれることは精一杯やって駄目なら仕方ないではない
か。堂々と胸をはって取るべき責任をとればいいことなの
だから…..。生きてさえいれば、夫も元気になればまた
会社を再興できることもあるかもしれない。まあ正直、
自分はコリゴリだが…..。それがないにしてもゆったりと
夫と暮らすことだってできるだろう。息子も立派に独立
してるし夫婦二人が暮らしていく分には高望みさえしな
ければ、食べていく方法はいくらでもあるだろう。あと
3日できるかぎり営業をかけてみよう。それで駄目ならす
っぱりと割り切ろう。それこそ死ぬ気でやれば道が開ける
かもしれない….。まあ無理だろうが….。やるだけやって
みよう。夫のために、そしてまだ自分を信じてついてきて
くれている残った社員達のために……..。彼女は自分にそう
言い聞かせると今日、飛び込みで営業をかける会社のリスト
を一瞥し、椅子を立った。

(次回につづく)

 昨日の当直はちときつかったですが、無事に終了しました。
 少し予定手術も減ってきて一時の忙しさも一段落つきそう
です。なんとか風邪も落ち着いてきました。この週末は少し
ゆっくり休めそうな感じになってきたので少しほっとして
います。
【2005/11/16 21:52】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(12)
さらに彼女を追い詰める事件が起こる。役員であった
Nが経理の事務であるSと共謀し会社に振り込まれた売
掛金を持ち逃げしたのである。退職金の名目で一通りの
書類を作成し彼女と会社の印鑑までつかって正式に書類
をつくり会社の口座から振り落とすという手段をつかって
いた。彼女がその日、出社し自分の机に出されたNとS
の辞表と彼女の決裁の印鑑が押された書類一式をみたとき
彼女はなにがおきたか俄かには理解できなかった。
 あわててNに連絡をとる。「N常務。今朝、私の机に
おいてあった書類は一体何?なんの冗談なの?」Nは
静かに答えた。「専務。冗談ではありません。私は25年
間、会社につくしてまいりました。当然もらうべき報酬
を頂いただけです。」「なに勝手なこといっているのよ。
あの事件から退職した子達にも今こんな状況だからって
退職金だしてあげられないままやめてもらっているのよ。
 大体、会社を頑張って続けていきましょうと言ったの
はあなたでしょう?あれから1ヶ月とたっていないのよ。
 あのお金がなかったら会社がどうなるかなんてわかる
でしょう。あれは今の仕事の材料の仕入れのためと、
今残って頑張ってくれている社員達の給料のためのお金
なのよ。私の印鑑まで知らない間に持ち出してあんな書類
までつくって….。これは立派な私文書偽造と横領よ。」「その
証拠はないでしょう。あれは専務が決裁している書類です
よ。それに頂いたのは公正な退職金です。労働基準局だって
私の方につくと思いますよ。」
彼女は思った。確かに私文書偽造を証明するのは難しい
だろう。相手はかなり用意周到に経理のSとつるんで計画
を立てていたのだろう。営業と資金繰りで精一杯であった
彼女は完全に不意をつかれた感じであった。大体、今、
警察沙汰や訴訟を起こす余裕は精神的にも経済的にもな
かった。相手はそれも見越しているに違いない。「勝手な
ことばかりいって。恥を知りなさい、恥を..。」彼女は
そういって電話を切るのが精一杯であった。

(次回につづく)

 明日は当直でブログはお休みです。明後日元気があったら
続きをアップしますね。
【2005/11/14 23:00】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(11)
 とりあえず役員の給料を4割カットとし、従業員の給与
を2割カットとすることとした。役員達は総出で営業をか
ける形となった。いままでの仕事はそのまま継続すると
して、Y工業との取引き分の新たな仕事が継続的に受注で
きなければ会社の維持は難しいものと思われた。取引先関
連でのつてをあたってもどこも状況が苦しい中で新たな商
談が成立するのは難しい状態であった。どこも苦しいのに
人に仕事をゆずれるわけなかった。会社の主力製品はモー
ター関連部品であったのでその関連の会社に片っ端から電話
をかけ、脈があれがアポイントをとるという方法もとって
みたが、飛び込みの営業がそうそううまくいくはずもない。
大体が門前払いされるのがおちであった。なんとか2ヶ月は
社員に給料はだせそうだが、そこから先はそれなりの大きな
仕事がないと厳しい状況であった。2週間がたち、3週間が
経過しても見通しはたたない状態であった。彼女や役員達
に憔悴の色が次第につのるようになってきた。沈み行く船
に残ろうとするものは少ない。社員達も先行きがみえない
状態であることから一人、二人と転職先を見つけ会社を去
っていった。彼と築いてきた会社が少しずつ崩壊していく
のを彼女はどうすることもできなかった。
 ある日、彼女が夫の病室に見舞いに行ったとき夫は
ベットで眠っていた。安らかな寝顔だった。彼女はベット
脇の椅子にすわり、彼の寝顔を眺めていた。理由はわから
なかったが突然涙がボロボロと眼から溢れ出した。
 彼は眼を覚まし、妻が側で泣いていることに気がついた。
「おまえ。一体、どうしたんだ。なにかあったのか?」
 彼女はふっと我にかえると言った。
「なんでもないのよ、あなた。少し疲れているだけ。あまり
にも色々なことがあってね。大丈夫だから….。大丈夫。」
 彼女は彼に現在の苦境を一言も漏らすことはなかった。

(次回につづく)
【2005/11/13 19:43】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(10)
 事件当日、彼女は社員をあつめて事情の説明を行い、社長
が失踪しどうやら運転資金を穴埋めするために自殺をはかっ
たらしいことを説明し、とりあえず状況がはっきりするまで
は会社をなんとか運営することを確認し、運転資金を役員と
社員が少しずつ出し合って今回は穴埋めすることを確認した。
 しかし、彼の自殺が失敗して彼が生きていることが確認さ
れた今、今後の会社の運営をどうするか決めなくてはならな
かった。彼女は役員であるNとOと共に今後の事を話し合っ
ていた。「とりあえず、今回が潮時と思うわ。私は会社をた
たもうと思うの。このままでも売り上げが改善するとは思え
ないし、うちの最大の取引先のY工業が倒産してしまって
すぐ新しい大きな取引先がみつかるとも思えないし、今たた
めば債務は工場とうちの自宅を担保にさしだして相殺すれば、
今度入ってくる売掛金で小額ながらも社員達に退職金もだせ
るし、それで解散でいいと思うの。」Nは言った。「でも社長
が命をかけてまもろうとした会社ですよ、専務。今回の手形
決済の件も社員達が会社を守るために身銭を切ってくれたん
です。そうそう手をあげるわけにはいかないんではないで
すか?」Oもいう。「私もそう思います。給与カットや一時
自宅待機にするなど人件費を削減して、営業規模を縮小して
なんとか事業を継続する方向で考えるべきだと思います。
 営業の方も努力して新規顧客を獲得していきますので….。」
 彼女は言った。「そんな希望的な事ばかり言って、傷を
大きくするだけの可能性もあるのよ。」「でも社員を路頭に
迷わせることになるんですよ。債務超過の状態であるわけで
ないし、事業を解散しなくても。」「こちらは自宅も借金の形
にとられて定期預金も担保に取られてやってるのよ。
 こちらは経営者だから仕方ないと思っているけど、あなた
たちに自宅や預金を会社に差し出すだけの覚悟があるの?
 私達は出来る限りの事を社員達にしてきたつもり。今解散
したら社員達にはわずかながら退職金はでるけど私たちに
は何も残らないのよ。それでもこれが一番、よそ様や社員に
迷惑をかけない方法だと思っているのよ私は……。」
「専務。それはわかりますが……。」議論は平行線だった。
 臨時取締役会は3人で行われ、結局2対1で彼女は押し
切られる。正直いえば、彼女は会社のこともすべてを精算
してすっきりして彼と再出発することを望んでいた。だが
会社の解散が承認されなかった以上、納得いかないままに
会社の継続のために身を粉にしてかけずりまわらなくては
ならないことになったのである。

(次回につづく)

 金曜日は夕方の緊急手術で午前様でした。昨日も帰りが遅く
なって更新できませんでした。今週はちょっと多忙で疲れが
たまってきているのかもしれません。更新2日途絶えてしま
ったので読者の方も気にしているのではないかと思います。
 少し風邪気味ですがなんとか元気にやっています。
【2005/11/12 22:08】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
雪中花(9)
 彼は少なくとも2~3週間のベット上安静が言い渡され
ていた。動くに動けない状態である。彼が意識がしっかり
したことから警察が事情聴取にやってきた。実際、会社の
資金繰りの件での自殺未遂であることははっきりしていた
し、彼のそのことを肯定しているのでおだやかに事実確認
を行う程度の事情聴取であった。彼はロープを購入して、
あの山の中に入り、先にロープを枝に投げてかけ、一方を
木の幹に固定した止め具に固定し、反対側を首にかけたの
であるが、どうやら金具がはずれたか、折れたかしてその
まま地面に叩きつけられ、動けなくなってしまった経緯を
警察に説明した。警察の話だと自殺未遂となった2日後
の早朝にたまたま山菜狩りにでていた地元の人が倒れて
いるのを発見して警察にとどけたのだという。
 近くにロープがあり当初は他人による殺人未遂かと考え
られ、殺人未遂事件として捜査が始まったが、周りの品か
ら彼の身元がわかり、自宅に連絡してどうやら自殺だった
とわかったのだという。「色々大変だとおもうけど、あまり
周りに迷惑かけたらいかんでしょ。まあ少し頭冷やして
またがんばらないといかんよ。」一回り年がはなれている
であろう警察官に軽々しく言われ彼はむっとしたが「わかり
ました。すいませんでした。」と静かに答えて彼らを送り
だした。色々、彼なりに悩んで行った行動である。一体、
なにがわかるっていうんだ。彼はそう心の中で思った。
 でも実際に周りに迷惑をかけたのも事実であるし、たま
たまあの山の中で見つけてもらえなければそのまま死んで
いたかもしれなかったのも事実であった。いや、いっそ
あのままだった方がよかったか…….。ぼんやりと彼は考
えた。色々な思いが交錯する。会社と家はいったいどう
なっているんだろう….。妻は忙しい中、毎日病院を訪れ
ていた。しかし、自殺のことでうつ状態を疑われていた
彼は精神科の診察も受け、ともかく休養をと妻は医者に
言われていた。彼女は会社のことは一切自分と会社幹部
に任せるように言い、現在の会社の状況を彼に話すことは
なかった。「いいこと。今の怪我がよくなって退院する
までは会社のことは何も考えちゃだめよ。治療に専念し
て、しっかり休んでね。」彼女に非常に迷惑をかけて
しまっている彼は引け目もあって、それを嫌ともいえな
かったのである。ベットで寝かされている彼のまわりは
時間がいやにゆっくり流れていた。
 その中で彼もすこしずつ自分のことを客観的に考えら
れるようになってきた。彼は思った。本当に俺は会社の
ためにと思って自殺しようとしたんだろうか?奇麗事な
らべてたけど債権者に頭をさげて生き恥さらすのが嫌
だっただけじゃないのか?言い訳しているだけで逃げた
だけなんではないだろうか?

(次回につづく)

 なんとか無事に学会発表も終わってほっとしています。
 明日からもまた忙しいので今日は早寝しますね。
【2005/11/09 22:05】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(8)
 今日も当直明けでしたが帰りが遅くなり日付変わっての
更新です。(間に合わなかったですすいません。)

 2時半になって彼の妻と息子夫婦が病院に到着した。
 彼の病室に家族が入ってきたとき、彼は少し気まずそう
な表情を見せ、妻に言った。「すまない。色々心配かけて。」
彼女は言った。「いいのよ。それでも生きていてくれてよ
かった。8000万じゃあなたの命の値段としては安すぎる
わよ……..。生きてさえいればいくらでもやり直しはき
くわ。余計なことはなにも心配しないでゆっくり治療に
専念して。あとは私が全部始末をつけるから…….。」息子
も言った。「おやじ、あまり思い込んで自分を追い詰める
なよ。ちょっと疲れてるんだ。ゆっくり休んでくれ。」
 彼を気遣ってか多くを問い詰めることはなかった。
 彼女は言った。「とりあえずの焦げ付いて手形の決済
の不足分は会社の社員たちが数十万ずつ出し合ってくれ
て、息子も少し貯金をとりくづしてくれてなんとか資金
を廻す目途はつけたから心配しないで…..。今後のことも
社員達と話し合ってなんとかするから…..。」「すまないな
、色々苦労かけてしまって。」「大丈夫よ。今回は手形さえ
決済できれば債権者が押し寄せることもないし。ただ
今後に関しては会社をたたむことも一応考えているの。」
「でもそれは……。」「ねえあなた。今ならまだ担保の工場
と自宅は取り上げられるかもしれないし、ほとんど貯金も
なくなってしまうけど大きな借金は残らないわ。子供は
独立してるし2人で食べていくくらいはなんとかなるわ。
 それに会社をつづけてジリ貧になっていけばまた貴方
が今回と同じことをするかもしれないのよ。社員たちだ
っていざとなればみんな自分で食べていく道を見つける
わよ。あなたにとって会社は命より大切だったのかもしれ
ないけど、私にとっては会社よりなによりあなたの命の
方が大切なの。だからどんな困難な状況にあっても今回
みたいなことはもう絶対しないでちょうだい。」
 彼女は感情を押し殺した口調で彼に言った。
 彼女の瞳には熱いものがこみ上げていた。

(次回につづく)

 明日は学会参加のためブログお休みします。明後日に
また更新予定ですのでよろしくお願いします。(会場は
東京なのですが早いセッションでの発表なので近くに
宿をとり前泊です。明日はぎりぎりまで業務をこなして
から出かけます。明後日も夕方には病院に戻ってきて仕
事してから自宅に帰る予定です。まだ病態が不安定な
患者さんがいるのでなかなか思い切って休めません..。)
【2005/11/08 00:03】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(7)
 彼が気がついたとき病院のベッドに寝かされていた。
 意識がしっかりしてきた時、彼は自分がどこにいるか
よく分からなかった。「ここは一体どこだ……。」懸命に
記憶をたどってみる。そうだ、自分は自殺をしようとして
しくじって動けなくなってたんだった。次の日の昼くら
いまではなんとなく覚えている。腹は減る、喉はかわく
は動けないでもがいているうちに意識が遠のいていった
んだった。どうやら助けられたようだ。でも、あの山の
中でどうやって?体をうごかそうとすると背中に激痛が
走る。腕には点滴が入っている。「そうか、病院に運ばれ
たんだ……。」少しずつ彼は合点がいってきた。でも
俺が生きているとなると……。会社と家はどうなっている
んだろうか…..。今日が何月何日なのかもはっきりしない
状況だった。彼は近くにナースコールがあることに気が
ついた。少しためらったが今の自分の状況が知りたい。
 どうやら動けないのは確かなようだ。これでは再度の
自殺をはかるのは無理そうだった。
 彼はナースコールを押して看護師を呼ぶことにした。
 しばらくして看護師がやってくる。「Yさん。どうされ
ました?」彼の名前がよばれたことから、彼の身元を病院
はつかんでいるようだった。多分、身に着けていたものか
らわかったのだろう。すると家にも連絡がいっているし、
警察もすでに関わっているんだなと彼は察した。体は痛み
でうごけないし、何かしようとしても監視されている状態
である。彼の試みは完全に失敗に終わったことを彼は察した。
彼は彼女に尋ねた。「すいません。今、ようやく自分でも
意識がはっきりしてきたんですけど、よく今までのことを
覚えていないんです。今日は何月何日で、ここはどこの病
院なんですか?」看護師は言った。「ずいぶんはっきりして
きたんですね。よかった。今日は○月×日ですよ。
今朝方にYさんは運ばれたんですよ。」そうか、自殺図って
2日目に助けられたんだな……。彼はぼんやりと思った。
「ここはM中央病院でYさんは今、整形外科の病棟に入院
しています。腰椎を圧迫骨折していて向こう数週間はベット上で
安静にしてもらうことになっています。ご家族の方にも
連絡がとれて午後2時ごろにはこちらに着くようですけど。」
 「わかりました。どうも有り難う。」看護師は一礼して部屋
を出て行った。多分、病院側は自分が自殺を図ったことを知
っているのだろう。呼べば色々聞かれるかと思っていたが看護
師は気をつかっているのか彼に何か聞くこともなかった。看護
師が出て行ったあと、彼は家族が到着した時にどんな顔して迎
えればいいのか悩んだ。遺書までそろえて送っておいたし、
大見得切って大失敗したようなもので正直非常に恥ずかしい
状況だった。とりあえず謝るしかないよな……。それで今後
のことを話しあわないとな…….。彼はぼんやりと考えた。

(次回につづく)

 明日は日当直にてブログはお休みです。月曜日、更新の元気が
残っていたら続きを更新しますね。このお話でnakanoがでてく
るのはもう少し先になります。いつもと違った視点で綴っていく
予定ですので続きを楽しみにしてくださいね。
【2005/11/05 20:58】 雪中花 | トラックバック(1) | コメント(2) |
雪中花(6)
 0時越えて日にちが変わってしまいました.....。
 文章は書いたので更新しておきます。

 彼女は手紙をあけて文面に目を通すと自分の目を
疑った。そこにはとうとうと夫からのメッセージが
綴られていた。自分があえて保険金のために自殺を
はかったこと、今後の会社の方針、お金の配分など
の指示がなされてあったのだ。てっきり商談で外泊
しているものと思っていた彼女はにわかには信じら
れなかった。あわてて彼の携帯に電話したが通じな
い。彼女は慌てた。どうやら夫は本気で自殺をはか
ったらしいことを改めて認識せざろうえなかったの
である。彼女はどうしていいか悩んだ後、警察に
連絡することにした。彼女は電話をとると110番に
電話をかけた。事情を話すと事情聴取に警官をよこす
という。失踪届けをだして捜索してもらう形になる
だろうという話だった。警察に連絡したあと、独立
した長男の家に電話した。休日の午前中のまだ早い
時間であったが、長男の嫁が電話にでた。「もしもし
お母さん。どうかされましたか?」「あのね、家
のお父さんがどうやら自殺をはかったらしいの。
今警察にも連絡して捜索願をだそうという話に
なってるの、息子もいっしょにできればこちらに
きてもらった方がいいと思って連絡したんだけ
ど…..。」「えっ。本当ですか?全然そんなそぶり
もなかったですよね…..。」「ええ、私もにわかには
信じられないけど遺書も残しているしどうやら
本気だったようなの…..。今後どうするかも私だけ
では判断もむずかしそうだし……。」「わかりました。
夫とそちらへできるだけ早く伺います……..。」
彼女が受話器をおいてその場をはなれようとすると
また受話器がけたたましくなった。会社の幹部の
一人のNからの電話だった。「あっ。奥さん。今、
社長からの手紙が私の自宅にとどきまして、内容
を読んだら結構、とんでもない内容だったもので..。
 悪い冗談だったらと思って電話したんですけど…。」
「ああ、Nさん。私宛にも手紙がきてるの….。どう
やら主人は本気だったらしいわ。今、失踪届けと捜索
願いを警察にだそうとしているところなの….。ちょっと
大変なことになってきたようだわ…….。」「わかりました。
会社のこともあるし、社員連中も集めた方がいいです
かね。」「そうね、今集まってなにができるかって話しも
あるけど…..。状況の説明はしておかないといけないわね。」
「わかりました。とりあえず社員連中に会社にくるように
連絡してみますので。」「お願いします。誰か、今回のことで
何か知っている人もいるかもしれないしね…….。」
 彼女の周りであわただしく時間が流れ始めた。

(次回につづく)
【2005/11/05 00:07】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(5)
 それですべては済むはずだった。しかし、彼の体重がロープ
にかかった瞬間にしっかりとめた止め具が抜けたのである。
 彼の体は尻から地面に叩きつけられた。「いてっ!」と彼は
叫んだ。あまりの背中の痛みに彼は身動きとれなくなった。
 10分ほどあまりの痛みに息をするのもつらい状態であった
がじっとしていて痛みが少しおちついてきた。だが少しでも
体を動かすと背中に激痛が走る。彼は全くその場からうごけな
くなってしまったのである。周りは全くの暗闇でなにも見え
ない。恐ろしいまでの静寂が彼をつつんだ。先ほどまで、覚悟
はできていたはずだが、続く背中の痛みと闇と静寂は彼を怯え
させた。山の中で全く動けなくなってしまったことが恐怖感
を増大させた。激しい後悔の捻が沸いてきた。こんなはずで
はなかったのだ。一瞬ですべてが終わるはずだったのに…..。
 闇の中で彼はもがいたが体を動かすと激痛が走る。じたばた
しているうちに疲労から彼は深い眠りについた…….。

 次の日の朝、彼は草むらの中で目をさました。目を覚ました
とき、どうして自分がこの場にいるのか思いだせなかった。
 体を動かそうとして背中に激痛が走って、ようやく彼は
昨日のことを思い出した。「そうだった。昨日、しくじったん
だった……。」だが体を動かそうとすると痛みが襲ってきて
しまいその場から動けない状況なのはかわらなかった。
 尿意をもよおし、その場をはいずりながらなんとか用を
たした。激しい空腹感と喉の渇きが襲ってきたが彼はどうす
ることもできなかった。時間が非常に長く感じられた。
「俺、このまま飢え死にするのかな…….。」ぼんやりと彼は
考えた。痛みと喉の渇き、空腹感が絶え間なく彼を襲った。
 
 彼が山中で独りもがいているころ、妻は夫からの妻あて
への遺書が入った手紙が自宅に届いているのに気がついた。
 彼女は差出人が夫であるのを確認し、いぶかしがりながら
封をあけた。

(次回につづく)
【2005/11/03 22:36】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(4)
 彼は真っ暗な山道を懐中電灯を片手に進んでいった。
 周りは虫の声が聞こえるくらいであった。適当な場所
を選んで、道から林の中に入っていく。普通の感覚なら
暗い中、藪の中に入っていくのは非常に恐怖を伴うもの
であったが、彼は冷静であった。異常なまでに自分が冷
静なのに不思議なくらいであった。やがて少し開けた
場所を見つけると、彼はロープをとりだした。自分の体重
がかかっても大丈夫そうな木の枝を捜した。適当な枝を
見つけた彼はその木の幹に止め具となる金具をとりつけ
た。ロープを枝にかかるように投げ上げ枝の上にロープ
を通してロープの両端を引っ張り枝が充分な耐性がある
ことを確認した。枝にかけたロープの両端のうちの片方
に彼は輪をつくり、もう片方を木の幹に固定した止め具
にもう片方の端が適当な高さに調整する形でしばりつけ
た。彼はかばんにいれた組み立て式の携帯の椅子をとり
だし組み立てて吊り下げられたロープの下においた。
 準備はできていた。周りに気づく人もいない状態で
ある。後は彼の行動次第だった。彼は一息つくと組み立
てた椅子にすわり、煙草を取り出し火をつけた。色々な
思い出が駆け巡る。本当にこれでよかったのかなとも
思った。だがもう決めたことだし、仕方ないさと考えた。
 最後の一服だろう。少しほろ苦い一服であった。
 吸い終わった煙草を地面に落とし、靴でもみ消すと
彼は椅子の上に立った。ロープを引き寄せて輪の中に
首を通した。最後まで冷静な自分が不思議だった。
 「こうするしかなかった。仕方なかったんだ……。」
彼はそうつぶやくと下の椅子を蹴ったのである。

(次回につづく)
【2005/11/02 23:51】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(3)
 彼は家族や従業員にあてて家族に気づかれないよ
うに遺書を書き、彼の死後のもろもろの手続きがと
どこおりなく行われるように細かく指示をだしてお
いた。問題はこの遺書をどのような形で家族に渡る
ようにするかだった。彼が死んだあと、周りの人々
に適切な時に適切が形で彼の遺書がとどくようにしな
ければならない……。会社を生かすために速やかに
保険金がおり、それをうまく使ってもらわなくては
ならない……。彼は自殺決行の日の前日の夜にそれぞれの
遺書を普通郵便で郵送することにした。連休中には
各々の手元にとどくはずである。前日の夜、ポスト
に投函するとき彼は少し躊躇した。これを投函した
らもう後へはもどれない…..。だがもう決めたことだ
従業員を路頭に迷わすわけにはいかない。彼はふっと
溜息をつくと手紙の束をポストに投函した。
 その日の晩は彼は奥さんと外食の予定にしていた。
 彼にとっては最後の晩餐のつもりだったのだろう。
「明日は泊まりなのね。それで商談はうまくいきそう
なの?」会社の経理を任されている妻は彼にいった。
彼は答えた。「どうかな、なかなか厳しいとおもう
けど…..。でもなんとか手形決済日までにお金をつくら
ないといけないから….。うまく話をして、前金で
いくらかいれてもらえるように交渉してみるよ….。」
妻は言った。「わかったわ。でも今回のことがなんとか
なったとしても、このままやっていけるか微妙なところ
ね。今回の取引先の倒産がちょうどいい引き際かもしれ
ないわよ。このままつづけても収支があまり改善する
見込みはないし、子供達も独立してうまくやってるから
傷がふかまらないうちに看板を下ろしたほうがいいかも
しれないって思うんだけど….。」「まあそういうなよ。
従業員の生活もあるんだ。できるかぎりは頑張ってみな
いとな…….。」彼はそういいながら、妻に心の中で
「ごめんな。」とつぶやいた。

(次回につづく)
【2005/11/01 23:58】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
藪医者の独り言


ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。


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