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ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。

雪中花(10)
 事件当日、彼女は社員をあつめて事情の説明を行い、社長
が失踪しどうやら運転資金を穴埋めするために自殺をはかっ
たらしいことを説明し、とりあえず状況がはっきりするまで
は会社をなんとか運営することを確認し、運転資金を役員と
社員が少しずつ出し合って今回は穴埋めすることを確認した。
 しかし、彼の自殺が失敗して彼が生きていることが確認さ
れた今、今後の会社の運営をどうするか決めなくてはならな
かった。彼女は役員であるNとOと共に今後の事を話し合っ
ていた。「とりあえず、今回が潮時と思うわ。私は会社をた
たもうと思うの。このままでも売り上げが改善するとは思え
ないし、うちの最大の取引先のY工業が倒産してしまって
すぐ新しい大きな取引先がみつかるとも思えないし、今たた
めば債務は工場とうちの自宅を担保にさしだして相殺すれば、
今度入ってくる売掛金で小額ながらも社員達に退職金もだせ
るし、それで解散でいいと思うの。」Nは言った。「でも社長
が命をかけてまもろうとした会社ですよ、専務。今回の手形
決済の件も社員達が会社を守るために身銭を切ってくれたん
です。そうそう手をあげるわけにはいかないんではないで
すか?」Oもいう。「私もそう思います。給与カットや一時
自宅待機にするなど人件費を削減して、営業規模を縮小して
なんとか事業を継続する方向で考えるべきだと思います。
 営業の方も努力して新規顧客を獲得していきますので….。」
 彼女は言った。「そんな希望的な事ばかり言って、傷を
大きくするだけの可能性もあるのよ。」「でも社員を路頭に
迷わせることになるんですよ。債務超過の状態であるわけで
ないし、事業を解散しなくても。」「こちらは自宅も借金の形
にとられて定期預金も担保に取られてやってるのよ。
 こちらは経営者だから仕方ないと思っているけど、あなた
たちに自宅や預金を会社に差し出すだけの覚悟があるの?
 私達は出来る限りの事を社員達にしてきたつもり。今解散
したら社員達にはわずかながら退職金はでるけど私たちに
は何も残らないのよ。それでもこれが一番、よそ様や社員に
迷惑をかけない方法だと思っているのよ私は……。」
「専務。それはわかりますが……。」議論は平行線だった。
 臨時取締役会は3人で行われ、結局2対1で彼女は押し
切られる。正直いえば、彼女は会社のこともすべてを精算
してすっきりして彼と再出発することを望んでいた。だが
会社の解散が承認されなかった以上、納得いかないままに
会社の継続のために身を粉にしてかけずりまわらなくては
ならないことになったのである。

(次回につづく)

 金曜日は夕方の緊急手術で午前様でした。昨日も帰りが遅く
なって更新できませんでした。今週はちょっと多忙で疲れが
たまってきているのかもしれません。更新2日途絶えてしま
ったので読者の方も気にしているのではないかと思います。
 少し風邪気味ですがなんとか元気にやっています。
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