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誤報(1)のエントリーは11月26日付けです。最初から読む方はカレンダーで11月までたどって26日をクリックすると誤報(1),(2)のエントリーに入れます。あとは順々に日にちをクリックしていってください。

(モデルにさせていただいた誤報事件に関しての2chの過去ログ保存していたものアップしました
医者板の過去ログ→こちら
ニュース速報+板の過去ログ→→こちら
この事件の理解の参考となれば幸いです。当時の記事などが引用されている部位もありますのでm3掲示板も閉鎖された今、資料として貴重なものとして保存してあります。)
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雪中花(70)
 診察室から出てレントゲンと採血をしに向かう廊下で
彼は妻に言った。「一体どうしたんだ。あんなこといって。
先生も困ってたじゃないか。」彼女は少し黙ってから言った。
「あなた。いずれにしてももう私にはあまり時間がないこと
はわかっているの。できるなら病院に入院してしまうより
家でできるだけ長くすごしたいのよ。検査をすれば入院する
理由をつくられるだけのような気がしたの。入院すれば
良くなるのならいくらだって入院するわ。でも多分、今回
入院しても決してよくなることはないと思うの…..。きっと
家には帰れなくなるわ……。」「それはお前の考えすぎだよ。
今だって家にいるのも大変そうじゃないか…..。入院して
すこし治療してもらえばちょっとはよくなるんじゃないか。
前の手術の時だって先生よりお前のほうが治療を求めて
いたじゃないか。今回に関してはずいぶん弱気だな…….。」
「あの時とはちがうのよ。今回も先生はできることはして
くれると思う。でもきっとこの状態がよくなることはないわ。」
「おいおい。ずいぶんな言い様だな。どちらにしたって俺も
こんな状態でお前に家にいられるのは心配だよ。なにかあって
も誰もいないんだからな…..。」彼女は夫の言葉をきいて少し
はっとした表情を見せた。(そうね。私がこの状態で家にいて
は夫の迷惑になるわね……。家にいたいというのは私の我侭
かしらね……..。)そんな考えが頭の中に浮かんできた。でも
自分の気持ちを一番わかってもらいたいと思っていた夫に
自分の家にいたいという気持ちが伝わっていないことに少し
彼女は失望していた。わかっていてくれていると思ってい
たのに….。一瞬彼女は「そうね家に私がいるのは迷惑よね。」
といやみの1つも言おうかと思ったがそのことで夫を傷つけ
ても…..。と言葉を飲み込んだ。しばらく黙り込んでいる妻
に夫は再度話かけた。「どうした、大丈夫か?」彼女の顔を覗
き込んだ夫は妻の眼に涙が浮かんでいるのに気付いた。彼は
少し驚いて言った。「なんだ。どうしたんだよ?」彼女は無理
に笑顔をつくりながら言った。「なんでもないのよ。ちょっと
疲れてるの。気にしないで………。」彼女はそう言いながら、
今日は入院することにしないとだめかしらねとぼんやり考え
ていた。

(次回につづく)
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【2006/01/31 23:50】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
雪中花(69)
 彼女が福井に夫と旅行から帰ってきて3日後、彼女は
私の外来に這うようにしてやってきた。車椅子で夫に付
き添われて診察室に入ってきた彼女をみて私は少し驚いた。
黄疸で皮膚は黄染し呼吸もあらい状態であった。車椅子
に座っているのもしんどそうであった。私は彼女に言っ
た。「どうもお疲れ様です。見た感じ非常に苦しそうですけ
ど…..。食事は食べられていますか。」彼女は言った。「先生
、どうもここのところ非常に調子が悪くて食事も食べられ
なくなってきています。横になると息も苦しくて眠るのも
つらくなっています。痛みはあまりないですけど……。」
「そうですか….。それでは診察させてもらいますね。そち
らのベットに横になってください。」彼女のお腹は腹水で
パンパンに張ってきており、下肢の浮腫も相当であった。
 横になると呼吸が苦しくなる状況で胸にも水が貯留して
いそうであった。「どうやら、お腹にも水がたまってきて
いるようですね。このままでは苦しいでしょう。入院で
様子をみましょうか?」彼女は言った。「できれば入院は
したくないんですが……。」「でもこの状況だと家にいる
のは大変ではないですか?」「先生。私入院したらもう
帰れないのと違いますか?」診察室に一瞬の沈黙が覆った。
少し間を置いて私は言った。「病状が病状ですからその
ようなことが絶対ないとはいえませんが、水の治療をする
だけでも少しは楽になるかもしれませんよ。いずれにして
も採血の検査をレントゲン検査をして現状の評価をしま
しょう。」彼女は言った。「先生。検査をして何の意味が
あるんですか?病気がすすんでいる状況を評価したって
もう何もできることはないんでしょう…….。」彼女の夫は
言った。「おいおい、あまり先生を困らせるなよ。俺も心配
だしさ、まず検査は受けておこうよ。」彼女は少し黙って
から言った。「ごめんなさい、先生。余計な事言ってしま
って…..。」私は言った。「大丈夫ですよ。でも今の状況は
評価させてください。病気自体は奥様のいうとおり治療の
余地はあまりないことは事実ですが、今苦しい状況は何とか
軽減できる方法があるかもしれませんから。」彼女はつぶやく
ように「わかりました。お願いします。」と言って診察室を
夫に付き添われて退出した。
(次回につづく)

 なんとか無事に当直を終えてきました。ここ3日は金曜日の
夜からほとんど家にいられない状態でした。少し体が重いです
ね。今日はさすがにつらかったので早く仕事を切り上げて帰って
きました。さっさと寝て、明日以降のために体力を快復させたいと
思います。
【2006/01/30 21:03】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(68)
 彼女は少し浮腫んだ足を引きずるように歩きながら夫と
公園内を歩いていた。冬の寒々しい日本海を背景に園内に
は水仙が咲いていた。彼女はふと立ち止まると呟くように
夫に言った。「多分、ここの水仙を見られるのはこれが最後
になるわね。なんとか来れて良かったわ……。」夫は「ああ。」
と答えた。「お前が喜んでくれるのなら連れてきた甲斐がある
というものさ…….。」「本当にあなたには感謝しているわ。
会社も忙しくなってきているのに。」彼は言った。「馬鹿いう
な。会社よりもお前の方が大事だ。俺は…..。今だって信じた
くないよ。何かの間違いならいいと思っているくらいだ…..。」
「ねえ、あなた。この花はとてもきれいでしょう。厳しい状況
の中でこんなきれいな花を咲かせるのよ。でもその花もいずれ
は散って、枯れてしまうのよ。命というのはそういうもの。
 いつかは終わりがあるの。でもね、この花もその姿で人の
心を動かして心に残るの。私が死んでも、あなたといた40年
間は決してなくなるわけじゃない。一緒に会社を頑張ってきた
こと。私があなたや息子にやってあげられたこと。あなたが
私にしてくれたこと。それはすべて無くなるわけじゃない。
 私の体は滅んでしまうけど、永遠に私の心の中に残るの。
 私はあなたといっしょに過ごせて幸せだった。今でも後悔
なんてなにもない。最後の我侭をかなえてくれて本当に感謝
しているわ。」「俺は、お前がいなくちゃ生きていけないよ..。
なんで死に損なった俺でなくお前が…..。なんでお前が先に
いかなくちゃいけないんだ…….。大体、この病気にしたって
俺がしっかりしていれば無理させずにこんなことにさせなかった
のに……..。」「大丈夫よ。あなたなら。これが私の寿命なのよ。
めぐりあわせってあるの。与えられた時間の中でたいしたこと
はできなかったけど、精一杯生きてこれたと思う。それは
あなたがいたおかげ。本当に感謝してる。人はその命を一人
で終えるの。すべての出会いは別れを迎えるためにあるの。
親も、友人も兄弟もいずれは別れなくてはならない運命に
あるのよ。私はこの世に生をうけてあなたと、息子に会えて
本当に良かったと思ってる。本当よ……。」「お前…..。」彼
は呻くように呟くのが精一杯だった。とめどもなくあふれ
かえる涙をとめることが出来なかった。

(次回につづく)

 昨日は緊急手術で帰宅してすぐによばれて泊り込みにな
りました。更新できずにすいませんでした。
 そして明日は日当直です….。少しとほほですが…….。
 明日ブログ休みます。月曜日頑張って更新するつもりで
います。
【2006/01/28 23:55】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(67)
 次の日、仕事の合間に彼はO常務に声をかけた。
 「申し訳ない。O君、いいかな…..。」「ええ、社長なんで
しょうか。」「実はこの週末に3日ほど休みをもらいたい
んだが…..。」「ええ、それはどうしてもということならなん
とかできると思いますけど。なにかあったんですか?」彼は
少し考えてから言った。「じつは妻が旅行にいきたいと言い
出しているんだ…..。」「えっ。専務は大丈夫なんですか?」
「病気の状態は君も知ってのとおりであまりいい状態とは
いえないんだ。本人はもうすぐ自分は遠出ができなくなる
だろうから最後になるだろうけど一緒に旅行がしたいって
いうんだよ…..。もう抗癌剤もあまり効いていない状態だし
どうせこのまま状態が悪くなるんだったら思い切って最後
になるかもしれないからっていうんだ……..。」「社長……。
専務がそんなことを…….。」「この年末の忙しいときに
申し訳ないんだが……。妻の多分最後のこの私への頼みな
んだ。なんとかかなえたいと思ってる。お願いできないか
な…..。」「わかりました。そういうことなら…….。会社の
ことは私に任せてもらって一緒にいってあげてください。」
「悪いな。恩にきるよ……。」「それでどこに行かれるんで
すか?」「福井の方へ行こうと思っている…..。」Oは彼の
目を見て言った。「福井ですか?またどうして福井なんで
すか?こういっては失礼かもしれませんが、ずいぶん渋い
感じがしますけど…..。」「いや、毎年あれが好きでね。
越前の水仙の里公園というのがあってね、年明けに水仙祭り
があるんだ。それにいくのが家の恒例でね。水仙祭りなん
て伊豆や千葉でもいいところが結構あるんだがあれはわざ
わざ雪のちらつく越前の水仙を見にいきたいといってね。
多分来年の年明けの水仙祭りにはいけないだろうから…..。
あそこはドームもあって時期がずれても水仙を見ることも
できるし….。近くに玉川温泉っていい温泉があるからそこで
宿を取って行こうと考えているんだ…..。彼女の思い入れの
あるところだしそうしたいと思っているんだ……。」「そうで
すか……。」「あれには苦労ばかりかけてしまって、何にも
いい思いをさせてやれなかった。今度の病気の件だって俺
がもっとしっかりしていればこんなことには……。本当に
俺も情けなくてな……。」「社長。あまりご自身を責めら
れても……。ともかく専務といっしょに行ってあげてくだ
さい。会社の方は社長が数日いなくともなんとでもなります
から、奥様との時間はもう限られているかもしれませんし、
大事にしてあげてください。」「有難う。O常務。恩にきる
よ……。」彼は少し震えた声でO常務に言った。

(次回につづく)
【2006/01/26 23:45】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(66)
 その日、彼女は夫が仕事からもどって来たときに今日の
事を話すことにした。彼女はソファーに座ってテレビをみ
ている夫に向かって話しかけた。「ねえ、あなた。話がある
んだけど……。」夫は振り返った。「なんだい、一体?」
「今日、外来にいったんだけどね、やっぱり薬での治療は
だんだん限界になってきてるみたいなの。」彼は「ああ。」と
答えてから続けた。「少しずつむくみもでてきているし
お前の調子もあまりよくないみたいだものな…….。」「それ
で多分、ここまでくれば治療してもしなくてもあまりかわ
らないんじゃないかって思うのよ。」夫ははっとして妻の
目を見つめた。「それで先生に今度の抗癌剤の治療はやめ
にしてもらうように頼んだの…..。」「やめるって、お前…。」
 彼は妻の言葉がにわかには信じられないという顔をした。
「できればあなたと旅行でもできればと思って…..。多分
もう遠出できる時間はあまりないような気がするの……。
なんとか休みがとれないかしら……。」「お前、何いって
るんだ?先生はなんて言ったんだ?」「お願い、少しおちつ
いて。先生は本人が望まれるのならそれも悪くないと言って
くれたの。よくあなたと話し合ってくれって。」2人の間に
沈黙が流れた。彼は言った。「お前はそれでいいんだな。」
「ええ、多分治療つづけてもここまでくると駄目かなって
気がするのよ。体が動くうちに行きたいの。」彼は少し考えて
言った。「あまり時間はないよな。わかった、Oにも相談
してみるから。なんとか3,4日くらいなら週末も加えれば
休みがとれるだろう……。」彼は彼女の表情から彼女の願い
をかなえるように努力すべきだと考えていた。

(次回につづく)

 昨日は緊急手術があって更新できませんでした。
 年明けから忙しい日がつづいています。
【2006/01/25 23:56】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
雪中花(65)
 年末に入って、次第に彼女の体に異変が起こってきた。
 少しずつむくみが出てきて、腹水が溜まるようになって
きたのである。利尿剤を投与し水のコントロールをなんと
かつけてきたが、少しずつ必要とする利尿剤の量が増えて
きていた。治療にもかかわらず血液検査での腫瘍マーカー
の値も急激に上昇してきつつあった。外来を訪れた彼女に
私は言った。「治療自体が限界に近づいてきているよう
です。病気の進行に伴いこれからもいろいろな症状が出
現してくるでしょう。黄疸や疼痛などが出現してくる
かもしれません。これ以上腎機能や肝臓の機能が低下
してきてしまうと抗癌剤の治療自体ができなくなる可能
性もあります。」彼女は少し黙ってから言った。「抗癌剤
の治療ができなくなったらあとは経過にまかせるしか
ないわけですね。」聡明な人である。私は少し返答にとま
どったが「ええ。」とだけ答えた。「あとどれ位の時間が
ありますかね……。」つぶやくように彼女は聞いた。「は
っきりしたことはわかりませんが、いつ何時、急に状態
が悪くなってもおかしくない状態ではあります……..。」
彼女は少し考えて言った。「先生。もし許されるなら、次
の抗癌剤投与はやめにしてもいいですか?」土曜の今日
の採血の結果が問題なければ月曜日に薬の投与を行う
ための入院となる予定だった彼女は言った。「まだ体が
動くうちにできれば旅行でもしておきたいので……。」
 私は少し驚いたがはっとして答えた。「ええ、それは
もちろんかまいません……..。旦那さんともよく話して
もらえれば…….。」彼女は「よかった。」と少し微笑んで
言った。

(次回につづく)
【2006/01/23 23:11】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(64)
 退院前に一回、FOLFIRIを行い、彼女は退院となった。
 だが腹膜播種は存在し、肝転移もある状態である。そん
なに長い間状態が落ち着いているとは思えなかった。多分
次に何か起こったときはもう家には帰れなくなる可能性が
高いことは彼女も彼女の夫も口にはしないが覚悟している
ことではあった。手術で得られたこの小康状態ができるだ
け長くつづいてくれることを祈らずにはいられなかった。

 その後も彼女は外来で治療を続けた。2週間に1回、入院
してもらいながら治療をつづけた。幸いにも大きな副作用を
起こすことなく治療はつづけられた。腸閉塞を起こすことも
なく1ヶ月がすぎ2ヶ月が経っていった。腫瘍マーカーは
少しずつ気持ち上昇していたが高止まりで急激な上昇も
ない状態で推移した。3ヶ月後にとったCTでもそんなに
肝転移が増大している状態ではなかった。さすがに腫瘍自体
は縮小していなかったが、化学療法で少なからず病気の
進行を抑えているのは確かなようであった。CTの結果を
外来聞きにきた彼女に私は言った。「腫瘍マーカーも微妙
ながら上昇してきていますし、腹部のCT所見でも肝臓の
転移は少し大きくなっています。やはり治療で病気の進行
を完全に抑えることはできないようです。しかしながら
今の時点でこれ以上の治療はないですし(エルプラット
が出る前の話)、副作用もそんなに認められていません。
 腫瘍が大きくなる速度は抑えてくれているとは思うの
で今の治療を継続したいと考えています。」彼女は言った。
「そうですよね。まあ予想したとおりですね。でも手術
して3ヶ月なんとか元気でいますし、先生がいっていた
年越しもなんとかできそうですからまあ上出来でないで
すか…….。まあ、あの手術を無事に乗り越えただけで
も正直私はホッとしましたから、ここはおまけみたいな
ものですよ。今は食事もおいしいし、痛みもないし言う
ことないですから……。」「そうですか……..。」
 彼女は現状についての覚悟はできているようであった。
 特に取り乱すこともなかったし落ち着いて現状を理解
していた。彼女の落ち着きに私はすがすがしさを感じて
いた。
(次回につづく)
【2006/01/22 20:20】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(63)
「それはなんとも言えません。今までの経過からは病気
の改善を望めないであろうことは予想できますが、病気
の進行をある程度遅らせてくれるかもしれないことを期待
して、今までのように2週間に1回、抗がん剤の注射をし
にきていただくのがよいかとは思います。幸い、この治療
での副作用は奥様の場合あまりない状況できていましたし
…….。」少し黙ってから彼は言った。「なにも治療しないと
いうのはさ、なんかこちらとしては見捨てられた気がする
んだよ、先生。だからなんとかやれる治療をしてもらいた
いんだ…..。だから、どれ位効果があるかわからないかもし
れないけど、今まで通りの治療を続けてもらいたいとは思
っている。」私は答えた。「そうですか……。奥様はそれで
よろしいのですね。」彼女は少しかんがえてから言った。「そ
うですね…..。手術も幸運にも無事終わったし、私としては
治療お休みして少し様子みたいところですけど、でも夫も
こういってますし、今までも治療自体は注射して2,3日、体
がだるくて食欲落ちるくらいですんでましたし、続けて
みましょうかね……。」「わかりました。それでは退院前に
一回治療を行なって問題なさそうなのを確認しておきまし
ょう。あとは今まで通り、2週間に1回3日間入院して治療
させてもらいましょう。それでいいですね。」彼女と夫は言
った。「じゃあ、先生、それでお願いいたします。」彼女達を
面談室から送りだそうとしたとき、彼女が言った。「先生、そ
れでこんなこと聞くのはなんだとおもうんだけど、私はどれ
くらい生きられるものなんですか?」夫は言った。「おい、
そんなこと聞くもんじゃないよ。」彼女は夫にかまわずに
私の方を見つめて再度聞いた。「一応の目安を教えてもらい
たいんですけど……。」私は言った。「個人差はあるので
はっきりしたことは言えません。しかし年単位はないでし
ょう。申し訳ありませんが、来年の正月が迎えられれれば
かなり治療としてはうまくいったといえるのかもしれません。
抗がん剤もうまく効いてくれる可能性も全くないとはいえ
ませんし…….。」彼女の夫は呟いた。「先生……。」彼女は
私の方を向いて言った。「ごめんなさいね先生。でも言って
くれて有難う。」彼女は夫に声をかけた。「あなたもごめんな
さい。それじゃ行きましょうか…..。」憮然とした夫の顔を
一瞥してから彼女は面談室を後にした。

(次回につづく)
【2006/01/21 22:52】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(62)
「いずれにしても治療としては抗がん剤の治療しか
ありません。一番効果があると考えられる治療を今ま
で行ってきたわけですが、それにもかかわらず病気が
すすんでいる状態です。今後もこの治療を続けていく
のがいいとは思いますが、病気の進行を遅らせること
はできても、抑えたり、治癒させられる見込みはない
と考えられます……….。」彼女は言った。
「先生。それはもうわかっていることですから…..。」
 彼女は少しおいてから続けた。「病気の状態は手術
前から聞いています。手術でだめになってしまう可能性
もあることも聞いていました。幸いにも手術はうまく
いきました。これだけでも充分ですよ。鼻の管が抜けて
食事が食べられるようになった。この状態がどれ位つづ
くかはわからないですけど本当に有難いと思っているん
です。手術前はもう何も食べられなくなってしまったと
思ってましたから……….。これ以上何を望むというんで
すか。」私は言った。「Yさん。でも、多分、食事が取れ
る状態がつづくのもそんなに長い時間ではないと思い
ます。播種はお腹全体に広がっていますし、また別の
ところの腸管が食われてしまって腸閉塞を起こすかも
しれないし、腹水が溜まってくるかもしれない。肝臓
の転移した腫瘍が増大すれば肝不全や黄疸が出現する
可能性もあります。この病気の進行を遅らせるために
抗癌剤の治療を行いたいと思っていますが、先ほども
お話したように今行おうとしている治療も思うほどの
効果は望めないかもしれないのです。ですから、場合に
よっては抗癌剤治療を行わないでそのまま様子をみる
という方法もありますし、今の治療よりは効果が落ちる
かもしれませんが経口の薬を飲んでもらう形で治療を
続けるかということになると思います。」彼女は言った。
「治療効果は望めないかもしれないから何もしないで
様子をみるのもひとつの方法かもしれないってことで
すね。」少しおいて私は頷いた。「お父さん。先生はこう
おっしゃっているけどどうします?」彼女の夫は下を
むきながら言った。「先生。先生が一番いいと思う方法
はどうなんだい?」
(次回につづく)

 どうも今日も帰りがおそくなり、更新が遅くなりました。
 今週の当直の疲れもなかなか取れません…..。
【2006/01/20 23:57】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(61)
 幸いにも彼女は再度の腸閉塞をおこすことなく経過した。
 ドレーンからの排液は多かったが特に汚いものも出ること
はなく状態としては落ち着いていた。術後4日目には排ガス
があり、痛みも次第に落ち着いてきていた。術後1週間で
食事を重湯から開始し、様子をみながら食事量を上げていった。
 食事の摂取量もまずまずであり、彼女としてはイレウス
管から開放され、食事が食べられるようになったことで
手術に関しての彼女の満足度は高かった。彼女は言った。
「ねえ先生。散々脅かされたけど、手術やってもらってよ
かったじゃないですか。」私は答えた。「Yさん。それは
たまたま術後の経過がよかったからであって結果論ですよ。
当然最悪の事態がおこる可能性もあったわけですから……。
でもとりあえず、無事に食事が食べられるようになって
よかったです……。」「そうですよ。本当に助かりました。」
 彼女の喜びとうらはらに術後の腫瘍マーカーの値は上昇
をつづけていた。それは確実に彼女の体の中で病気がすす
んでいることを示していた。FOLFIRIを継続してどれ位
この進行を抑えられるかは疑問であった。だが他に使える
治療があるわけでもなかった。術後の症状が落ち着いてき
たことから私は彼女とご家族に今後についての相談をする
ことにした。幸いにも手術後の経過はまずまずであったと
いうことができたが今後の治療としては行き詰ってきてい
ることはまぎれもない事実であった。そのことを伝えなく
てはならない。手術をして2週間ほど経過したある日、
私はご家族を呼び寄せ面談室にて彼女の病状説明を行った。
「どうも今回はご苦労様でした。奥様の術後の経過は概ね
良好でした。これは良かったと思います。食事も食べら
れるようになりましたし手術して結果的には良かったと
いえると思います。」彼女の夫は言った。「ええ、おかげ
さまで…..。」「しかしながら問題は、病気自体はほとんど
そのままの状態ということです。実際、手術後の腫瘍マー
カーは術前より上昇してきています。」
 私は病状説明をつづけた。

(次回につづく)
【2006/01/19 21:28】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(60)
 手術の次の日に私は彼女のところに回診に向かった。
 私は彼女のところに行き、彼女に声をかけた。「おはよう
ございます。Yさん。調子はどうですか?」彼女は目を覚ま
して答えた。「大丈夫ですよ。体動かすといたいですけど
そのほかはなんということはありません。」「それじゃ、
お腹の傷をみますので….。」私はそう言って彼女の手術創
の包交を行った。腹部はやわらかく、ドレーンからの浸出
も大きな問題はなさそうであった。胃のチューブの排液も
少ないことから胃のチューブも抜去した。「問題なさそう
なので今日、また外科病棟に戻ってもらいますから。」
「そうですか…..。」「手術は腸管が狭くなっている部位
を腫瘍といっしょにとってきました。問題の部位に関し
ては目的は達したと思います。病気自体はお腹全体に
広がっていましたが……。」彼女は少し黙ってから言
った。「でも、詰まっていた場所はとれたんですね。
それならばよかった。」「また手術後の状態が落ち着けば
そこでお話したいと思っています。予期しないことが
あればまたお話いたしますが…..。」「わかりました。
はやくこの痛いのがとれるといいんですけどね……。」
 彼女は少し苦笑いをしながら答えた。

 午前中に彼女は外科病棟に移った。あとで午後に面
談にきた夫と息子は彼女が落ち着いているのをみて安
心した様であったと看護師が報告してきた。このまま
術後の経過がよければいいがと私は願っていた。

(次回につづく)

 明日は当直なのでブログの更新はお休みになります。
 明後日なんとか更新できればと思っています。
 そろそろインフルエンザが流行してきて当直も忙
しくなってきています。今日は早く横になりたいので
コメントなどのお返事は後日にさせていただきますね。
申し訳ありません。
【2006/01/17 23:46】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(59)
「ただなんとか今回の症状の原因となっていた部位は切除
できましたので、順調に快復してくれれば食事も食べられ
るようになってくれるかもしれません。」「しれない……。
ですね。やはり手術をしても厳しいですか….。」「なにしろ
お腹中に播種が広がっていましたし、今回以外のところで
今回と同様のことがおこらないともかぎりません。肝臓の
転移巣も大きいですし、これで肝不全を起こす可能性も
あります。元気になってくれれば早めに抗がん剤の治療
を再開したいところです……。」厳しいことは前からわか
っていた。手術前にも充分承知していた。手術をしても
食事がまた食べられるようになる保障がないことも覚悟
しての手術であった。彼は言った。「先生。でも腸の狭く
なったところと腫瘍とってくれたんだから。これだけ
やってもらってだめなら仕方ないと思う……。」彼は口
をへの字にして搾り出すように言った。Nakanoは静か
に彼に言った。「Yさん。厳しいことは厳しいですが、
なんとか良くなってもらうように頑張っていきますの
で、よろしくお願いします。」「こちらこそよろしくお願い
します。今日はありがとうございました。」彼と息子は
頭を下げたあと看護師に連れられて面談室を出た。

 麻酔から醒めて彼女は集中治療室に運ばれた。部屋に
移された彼女のもろもろの処置が終了したあと、彼と
息子が部屋に通された。麻酔からまだ醒めて間もない
彼女は酸素をつけられて少しボーっとした感じであ
った。「なあ、手術無事に終わったって。うまくいった
みたいだから心配ないからな……。」彼が彼女に話かけ
ると彼女は少し目を開いて頷いた。

(次回につづく)

 ここのところ少し手術が立て込んできていて少し忙
しさが増してきています。なんとか更新をとぎらせない
ように頑張っています….。
【2006/01/16 23:59】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(58)
 時計は5時を回っていた。妻が1時半に手術室に入って
3時間半が経っていた。彼は外科病棟の食堂で息子と一緒に
妻の手術が終わるのを待っていた。医者はお腹を開けても
何もできないで閉じてくる可能性もあるといっていた。手術
時間がかかっているということはそれなりの手術ができて
いるのだろうと彼は考えていた。息子が声をかける。「親父。
大丈夫か?」「ああ、心配じゃないといったら嘘になるがな。
母さんのことだ。多分大丈夫だと思うし、いい結果になると
信じたいがな…..。」彼が息子に答えていると外科病棟の看護
師が彼らに声をかけた。「Yさん。奥様の手術が終了しました。
今、主治医の先生からお話があります。手術室まできてい
ただけますか?」「わかりました。」彼は振り返って答えた。
 手術室へ向かう間、彼らも看護師も無言であった。看護師
に促され、彼らは面談室に入った。そこには妻の主治医であ
るnakano医師が手術着を来てまっていた。nakanoは言った。
「どうも今日はご苦労様でした。」彼は答えた。「こちらこそ。
先生お疲れ様でした。」nakanoは説明を始めた。「それで
手術の状況なのですが、おなかを開けますとやはり前の手術
の癒着と、腹膜播種もあって病変の部位の視野を確保するの
に苦労しました。内臓や腸管が入っているおなかの空間を
腹腔といいまして、その内側を腹膜という薄い膜が裏打ち
しているのですが、その背中側の腹膜、所謂、後腹膜にがっ
ちりと食い込んだ播種から大きくなった腫瘤が小腸の一部
を巻き込んでおり、これが腸閉塞の原因となっていると考え
られました。巻き込まれていた小腸と、狭くなっている部位
の下流で癒着で一塊になっている小腸をいっしょに腫瘍ごと
後腹膜を削り取る形で切除しました。」nakanoは面談室の
白板に水性マジックで図を描きながら説明した。「切除した
腸管の上流と下流の断端をつないでいます。とってきたも
のがこちらです。」nakanoは切除したものを彼らにみせた。
血にまみれ、小腸と一緒に切除された腫瘤は火山の噴火口
を思い起こさせた。「狭窄をおこしていた部位は切除しま
した。一応、手術の目的は達することができた手術とな
ったと思います。ですが、おなかの中にはやはり播種が
全体に広がっていて、肝臓の転移も相当です。今回の
腸閉塞という問題は解決しましたが、病状が厳しいこと
には変わりがないと思われます……。」

(次回につづく)
【2006/01/15 22:29】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(1) |
雪中花(57)
 手術がはじまった。開腹すると腹壁に腸管と大網が
癒着でくっついておりこれを丁寧に剥離し、視野を
確保していった。肝臓の転移はCTの所見どおり両葉
にまたがり存在していたが、こちらは今回はもういじ
らない方針であった。今回の手術の目的は腸閉塞状態
の改善である。まずは通過障害の原因となっている
部位を確認しなくてはならない。拡張した小腸をお腹
の外に引き出し通過障害をおこしている原因の病巣を
検索した。骨盤内に3cm大の小腸を巻き込む形での
腫瘤を認めた。
 狭窄部の下流には数10cmの小腸が一塊となり癒着
していた。またお腹のところどころには腹膜播種と
思われる米粒をばら撒いたような小さな腫瘤が散発
していた。腫瘤は後腹膜にも食いついていたが尿管
や大きな血管は巻き込まれていないようであった。
 子宮の壁に一部くっついていたがここは壁を削って
来る形ではずした。後腹膜を削る形で腫瘤を小腸ごと
はがしてくると幸いにも腫瘤はつりあがってきた。
 なんとかこの部分は切除できそうであった。
 下流の癒着で一塊となった小腸といっしょに腫瘤
を切除することができた。切った小腸をつなぎ、出血
がないかどうか確認した。腸管をひととおり癒着剥離
での損傷がないかどうか確認してから腹腔内を洗浄し
た。狭窄の原因の部位を一番おおきな播種に伴う腫瘤
といっしょに切除でき、下手をすれば何もできないか
もしれないと予想していたこともあり手術としては
予定よりいい手術ができたとは思えた。だが多発して
いる腹膜播種と肝転移をみるに彼女の予後が厳しい事
に変わりはなかった。術後に病気が一気にすすめば
この手術でも食事が食べられるようになるかはまだ
分からなかったし、このお腹の所見だとこのまま抗
癌剤をつかっていても数ヶ月であろうと思われた。
 閉腹しながら私は彼女の夫にどう話をしようか
ぼんやりと考えていた。

(次回につづく)

 どうも、週末ばたばたして2日更新できずじま
いでした。今日もこんな時間に更新という形になり
ました。年明け早々、なかなか多忙ですがなんとか
元気にやっています。
【2006/01/14 23:52】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(56)
 手術日の朝、私は彼女の病室をたずねた。私は彼女に
声をかけた。「お早うございます。昨日は眠れましたか?」
彼女は答えた。「ええ、大丈夫です。」「特に、心配な事は
ないですか?」「もう、まな板の鯉ですよ。あとは先生に
任せますから….。」私の目に病室の壁に貼られた、彼女に
送られた寄せ書きが目に入った。彼女は私が寄せ書きに
気がいったことに気づいた。「あれですか。うちの会社の
子達が心配してわざわざ書いてくれたんですよ。」彼女は
少し微笑んで言った。「なかなかこの状態で良くなるの
は難しいとは思うんだけど……。皆のためにも、もう少し
頑張ってみたいとは思っています。今はなるようにしか
ならないって感じで少し開きなおっていますけど…….。」
「そうですか….。それでは今日、よろしくお願いします。」
「ええ、よろしくね。先生…..。多分、いい結果になると
思うの。これは私のカンで根拠はないけどそんな気がする
んです。もし悪い結果でも先生を恨むことはないですから。
それも運命だと思ってます。」「いえいえ、一応状況は厳しい
ながらも元気になってもらって食事が食べれるようになっ
てもらうつもりですから……。」「そうでしたね。そうなると
思いますよ…….。」彼女は微笑んで答えた。私は一礼をして
彼女の病室をでた。

 慌しく午前中の外来を終え、彼女の入室時間に合わせて
手術室に向かった。手術室へむかう廊下で私は看護師と
家族に連添われて手術室に搬送される彼女と出くわした。
 彼女の夫と息子さんがこちらに気づいて一礼した。
 私もそれに応じて頭を下げた。彼女の抱えている
会社やご家族などの背景の重さを感じながら私は手術室
の更衣室に入った。

(次回につづく)
【2006/01/11 22:42】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(55)
 手術の前日、彼女は手術患者として個室に移さ
れた。彼女が病室でぼんやりとテレビを見ている
とドアをノックする音が聞こえた。彼女は振り返
るとOとHの姿が目に入った。「専務。失礼しま
す。」OとHはそう言って一礼した。彼女は少し
慌てて起き上がると言った。「ごめんなさい。
私、化粧もしてないし、こんなに痩せてしまった
し見せられる姿ではないんだけど……。」点滴と
イレウス管につながれた彼女の姿は痛々しかった。
彼女は社員達に心配をかけたくないこともあって
社員達のお見舞いは避けてもらうように夫に言って
いたのである。Oは言った。「社長から社員に見
苦しい姿を見せたくないということで社員には
見舞いにこないでくれと専務がおっしゃっていた
ことは社長から聞いています。こちらこそ勝手に
こさせていただいて本当に申し訳ないです。しか
しながら明日、また手術を受けられるということ
を聞きまして、社員一同でこれも古臭いと思われる
かもしれませんが手術前に寄せ書きを専務に贈ろう
という話になりまして、社員を代表して我々が来
させていただきました。」「寄せ書き?」「ええ、
1日もはやく専務に良くなっていただき会社に
戻ってきてもらいたいと皆が思っています。我々
皆、専務を待っていますので…….。」彼女はOの
顔を見つめた後、受け取った寄せ書きを見つめた。
一人一人の社員達の顔が思い浮かぶ。ここ数年、
厳しい時期がつづきそれほどいい給料は払ってあげ
られなかった。それでも夫の自殺未遂で苦境に立た
された会社を一緒になんとか生き延びさせた仲間達
である。つらい思いもさせた。手形の決済の不足金
にカンパしあい、給料の遅配にも文句をいわずサー
ビス残業してくれた。営業で屈辱的な対応を受けても
頭を下げて仕事を取ってきてくれた。
様々な出来事が頭の中に思い描かれた。彼女の頬に
一筋の涙がこぼれた。「あなたたちにはつらい思いしか
させてこなかったこの私のためにわざわざ…….。」
Hは言った。「専務が頑張ってくれたからこその我々
だと思っています。こんなことしかできなくて申し訳
ないですが……。」彼女は言った。「そんなことはないわ。
本当に忙しい中わざわざ有難う。私も1日も早く会社
にもどるから……。」社員達の気遣いに彼女はそう答え
た。多分、自分が職場復帰できる可能性はほとんど無
いだろう。それは分かっていた。多分Oも社員達も
薄々は自分が厳しい状態であることはわかっているは
ずであった。だがその事にはお互い触れることはなか
った。この子達、どんな思いでこれを書いたのかしら
.....。彼女はふとそう思った。

色々な人々の思いの中で彼女は手術日をむかえた。
(次回につづく)
 
明日は当直でブログはお休みです。明後日元気が残
っていたら頑張って更新しますね。
【2006/01/09 22:30】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(54)
 彼は答えた。「ああ、どうも病気で腸が狭くなって
いる部位があるらしくてそれを迂回するルートをつ
くる手術が必要らしい。病気そのものを治すわけで
はないし、それで症状がよくなるとは限らないん
だがそれ以外今の症状を改善させる方法がないら
しいんだ。手術がうまくいっても病気自体はなおる
わけではないので今後はかなり厳しいことにはか
わりはないようだ……。」Oはいった。「そうです
か…..。それでは今後、会社に戻られる見込みは
……。」「まあ難しいだろうな…..。息子と二人で
手術には連れ添う形になるんだ。この日の業務は
君に一任するから….。」「わかりました…….。」
「妻の事は他言無用だから。今、結構やつれてし
まったし今の姿を社員たちにも見せたくないだろ
うから……..。」沈黙が2人の間に流れた。彼は言
った。「すまない。妻のことで余計な心配をかけ
て。」「いえ、専務があって我々もここまでやって
これたのですから。かえって我々も何もできない
で申し訳ないです。」「そんなことないさ。君ら
が頑張ってくれたから会社もうまくいくように
なった。妻の病気は私に一番の責任があると思
っている。私だって断腸の思いだよ………。
 ともかく来週の火曜日はよろしくたのむよ。」
「わかりました。」Oは答えた。

(次回につづく)

 なんとか無事に帰ってきました。
 子供達を風呂に入れて寝かしつけてからの更新
になりました。
【2006/01/08 22:52】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(53)
 彼は社長室で新規に開拓した取引先とのT工業社
との契約文書に目を通していた。満足できる契約内容
であった。Uの会社との提携も順調に行っていたし、
徐々に業務成績は上がってきており会社自体の経営は
上向きになってきていた。この契約の仕事がうまくい
けば今年の年末は頑張ってくれた社員達に少しボーナス
を出す余裕ができるかもしれないなと考えていた。
 トントンとドアをたたく音がした。彼はドアの方に
目をやると「どうぞ」と答えた。O常務が入ってきた。
「社長、よろしいでしょうか。今度新たに購入予定の
製作機械についてご相談したいのですが…..。」「わかった。
いいよ、資料をみせてもらおうか…..。」彼は答えて
O常務を部屋に招きいれた。妻の事は心配であったし、
いつも彼のこころの片隅に引っかかっていたが仕事は
彼が休むことを許さなかった。いや正確には彼が休む
のを避けていたというほうが正確かもしれない。病院
には毎日行っていたし、彼女に会っていた。だが独り
でボーッとしていると妻の病気の事で頭が一杯になり
どうしようもない後悔と不安に襲われることがわかって
いた。仕事に専念していることで少しは気が晴れた
のだ。わざと忙しく自分でしていることは自分でも
わかっていた。幸いな事に会社はいい方向に動いており
忙しいなりの成果も上がっていた。ついこの間は会社
の事で命を投げ捨てようとしていたのに、今は会社が
心の支えになっているなんて皮肉だよな….。彼は自嘲
気味にそんなことを考えたりしていた。O常務との
話が一段落したところで彼はO常務に言った。「ところ
で来週の火曜日なんだが、この日は私は会社にこれない
事になったんだ。M製作所の担当との約束だけどうして
もキャンセルできないので君に代理で対応してもらいた
いんだが……。」「それはかまいませんが….。」「頼んだ
よ。資料は前日までにそろえて渡しておくから。」「ええ
わかりました。社長。これはお聞きしていいのかわから
ないのですが、専務の件でお休みになられるのですか?」
 彼は溜息をついて言った。「ああ、妻がその日手術な
んだ。」 Oは言った。「また…..手術なんですか?」
(次回につづく)

 昨日は帰りが遅くなって更新する気力がなくなって
更新できませんでした。すいません。
 明日は奥さんと子供達を実家に迎えにいきます。
 事故なく気をつけて帰ってきますね。一応頑張って
明日も更新するつもりではいます…..。あ、そうそう
一応今回O取締役は常務に昇進している設定です。
【2006/01/07 22:53】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(52)
 彼女の意思もあり手術に症状の改善を期待すること
になった。正直なところ私もこれが自信をもっていい
治療であると言い切れない部分もあった。(結局、
かえって症状が悪化してしまう可能性もある。)
 少し手術しないでこのまま様子を見ることにします
といってもらった方が診させてもらう方としてもいく
らか気が楽であるのも事実であった。手術で状況を
悪化させ彼女を苦しめてしまうかもしれないというこ
とを想像すると手術させてもらうのも気が重かったの
である。だが彼女が今のまま鼻にチューブを入れられ
たままでこのままおかれているのは耐えられないとい
う思いが強いのは毎日回診で診察してわかっていた。
 なにもしないで様子をみましょうというのはまるで
自分がさじを投げられたのではないかと思われるので
はないかと考えられてしまう可能性もあった。私は
病状説明の時に起こりうるかなり厳しい状況も詳しく
話し、もしかするとお腹を開けたはいいが手がつけ
られなくてそのまま閉じてくるだけで終わる可能性
もある事、もしかするとこのまま経過をみるのが一
番いい方法かもしれないと繰り返し話した。しかし
彼女の意思が変わることはなかった。彼女は言った。
「先生。私の手術、正直いやでしょう?でももう一度家
に帰れる可能性があるなら賭けてみたいんです。どん
な結果になるかはやってみないとわからないことは
わかっています。最悪の結果になる可能性もあること
もわかりました。先生に迷惑をかけることはありま
せん。なんとかもう一回、手を煩わせていただけま
せんか?」 彼女の強い意志に押され私は彼女の手術
を行うことを決心した。再度の手術の前に必要な検査
を行い手術日の設定を行った。なんとかいい結果をだ
せることを祈って...。

(次回につづく)
【2006/01/05 23:58】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(51)
 私は彼女と彼女の夫を面談室に招き入れた。イレウス管
と点滴につながれた彼女は少しげっそりとしていたが車椅
子から面談室の椅子に自力で移った。彼女と彼女の夫が
椅子に座ったのを確認して私は彼女の病状について話始め
た。「どうもお疲れ様です。それで今の奥様の病状について
なのですが…..。正直に申し上げてあまり改善していると
は言い難い感じです。イレウス管を用いて減圧をはかって
いますが症状の改善は認められていません。どうやらCT
やイレウス管からの造影の検査では小腸の中ほどで播種が
大きくなって腫瘤状となっているところに食われている
ようです。腫瘍に小腸が食われる形で狭窄を起こしている
のです。このままでは今までの経過から言っても改善の
見込みは低いと言わざるをえません。もし何らかの手を
打つとするのならば手術でこの狭くなっている部位の
上流と下流の小腸をつなぐか、狭窄の上流の小腸を横行
結腸につなげるなどの狭窄部位を迂回するルートを作成
する手術を行う形になります。」彼女の夫は言った。「また
手術ですか……。」私は続けた。「ただ手術がうまくいくか
どうかはかなり厳しいところです。結局、この手術は
今の腸閉塞を改善させることが目的で新たな食べ物が
通るルートをつくるだけですから腫瘍を取り除けるわけ
ではないのです。新しいルートを作っても別のところで
また腫瘍に食われてしまう可能性もあります。また前回
の手術の影響と、腹膜播種も進行してきていると思います
からかなりの癒着が想定されます。癒着剥離の段階で
腸管損傷を起こしてしまう可能性もあり、かえって状態
を悪くしてしまう可能性があるのです。手術をしても
食事が食べられるようになるかどうかは保障のかぎりでは
ありません。」「進むも、引くも地獄ってわけね…..。」
彼女はつぶやいた。「でもこのままでもこの管は抜けない
んですよね…..。このままではまず良くなる見込みはない
ということですよね。手術すればこの管が抜けるかもしれ
ないと…..。」「うまく行けば、食事も食べられるように
なるかもしれません。ですが、手術を行うことで免疫力
が落ちて病気が急激に進む可能性はあります。つまり
結果、手術で寿命を縮める可能性もあるということです。
つまりこのまま何もしない方が一番長生きできる
可能性もあるということです。」「でもこのまま
お腹の張りはとれないし、この管も抜けないという
ことなんですよね…..。」「ええ。その通りです。
この1週間の経過をみるかぎりはその可能性が高い
と思います。」彼女は夫の方を見て言った。「どうし
ますお父さん。私はこのままずるずるいくよりは
手術を受けたいと思うんだけど………。」彼は少し
黙ってから言った。「俺に決める資格はないよ….。
お前の命だ。お前が好きなようにしたらいい….。
何があっても俺はお前の側にいて出来る限り支える
から…..。」彼の目にはうっすらと熱いものがこみあ
げていた。

(次回につづく)
【2006/01/04 23:55】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(50)
 禁食、補液、胃チューブの減圧にて経過をみたが
あまりはかばかしい症状の改善は認められなかった。
 胃チューブからは連日1500mlほどの排液があり
その量が減少することはなかった。3日ほど経過を
みてイレウス管に入れ替えてみた。胃チューブ以上
に挿入には苦痛を伴ったが彼女は愚痴をいうでもなく
黙って治療をうけていた。イレウス管をいれても症状
の改善はみられなかった。腹膜播種をおこしている部位
が小腸に食い入って狭窄をおこして起こっている腸閉塞
であるのであるから、このまま経過をみても症状は
改善する見込みはなかった。やるとすれば手術である。
 狭窄をおこしている部位の上流と下流との腸管をつ
なげる所謂、バイパス手術が適応になるところでは
あった。だが腹膜播種があり、癌性腹膜炎の状態で病巣
は今ある腫瘤以外のところにもあるのでバイパス手術
して今回の部位はよくなったとしてもいずれまた腸閉塞
は別のところで起こすのは間違いなかったし、手術で
大きな合併症を起こせばそれが致命的になる可能性も
あった。手術をしても本当によくなるか保障できる
状態ではなかったのである。いずれにしても禁食期間
が長期になるのは間違いないことから高カロリー輸液
を行うために右肩のところから鎖骨下静脈から心臓の
近くの上大静脈に中心静脈カテーテルという細い点滴
用の管を入れて点滴の管理を行った。
 
 入院して1週間すぎても症状の軽快はなかった。
 次第に一向に改善しない自分の症状に彼女も疲労
といらつきの表情がでてきた。このまま今の治療を
していても症状が改善しないことはわかっていた。
 私は彼女の夫を呼び、今後の治療方針について話
あうことにした。

(次回につづく)

 どうも昨日は拘束番で3~4回ほどよばれて外科
の入院もあったりして結局更新できませんでした。
 明日から仕事始めです。(といっても奥さんを実家
に送った12月30日以外は毎日入院患者さん覗きに
いっていたのであんまりピンときませんが…….。)
 気持ちを引き締めていこうと思っています。
【2006/01/03 22:49】 雪中花 | トラックバック(1) | コメント(4) |
雪中花(49)
 腹部レントゲンでは小腸の拡張像と鏡面像が認められ
腸閉塞であることが確認された。採血の結果も確認して
私は点滴をうけて休んでいた彼女に言った。
「どうやら腸閉塞のようですね。腸がどこかでつまった
状態だと思います。多くの場合は手術の後にできた癒着
が原因で起こりますが、腹膜播種がありますから、もし
かすると小腸の一部が腫瘍に食われている可能性もあり
ます。もしそうだとするとなかなか治るのは難しいかも
しれません。いずれにしても食事を止めて、鼻から胃に
チューブをいれさせていただいて減圧しましょう。入院
での治療になります。」彼女は言った。「そうですか……。」
 「ご家族の方への連絡はどうしますか?看護師に連絡
させますけど。」「ええ、よろしくお願いします。」
 私は胃チューブを挿入して、排液があるのを確認して
から看護師に言った。「Yさん入院になるのでベット確認
してください。あとご主人に連絡してください。午後に
小さな手術が入っているので午後5時ごろに来てもらう
ようにいってくれないかな。」「わかりました。」
 私は入院用のカルテのセットを取り出し、入院時の
指示を記載した。一通りの指示をだして一段落をつけた
後、次の予約の患者さんを呼び入れた。

 放射線科に頼んでその日のうちに彼女の腹部と骨盤
のCTもとってもらった。午後の手術を終え、外科の
病棟に行き上がってきたCTを確認する。腹水の貯留
は認められないが骨盤内に2cmほどの腫瘤が認められ
それが小腸を巻き込んでいるように思われた。

(次回につづく)

 皆さんあけましておめでとうございます。どんな正月
を迎えてらっしゃいますか?今年が皆様にとってよき
年となりますように。今年もよろしくお願いいたします。
【2006/01/01 23:33】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
藪医者の独り言


ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。


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