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開設2年目になりました。これを機会に今の産科の危機に関してのフラッシュ作成しました。 →こちら

誤報(1)のエントリーは11月26日付けです。最初から読む方はカレンダーで11月までたどって26日をクリックすると誤報(1),(2)のエントリーに入れます。あとは順々に日にちをクリックしていってください。

(モデルにさせていただいた誤報事件に関しての2chの過去ログ保存していたものアップしました
医者板の過去ログ→こちら
ニュース速報+板の過去ログ→→こちら
この事件の理解の参考となれば幸いです。当時の記事などが引用されている部位もありますのでm3掲示板も閉鎖された今、資料として貴重なものとして保存してあります。)
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春風(5)
 その後もつわりによる軽い吐き気はあったが彼女は
仕事にも出て普通に生活していた。会社の同僚や、上司
からもおめでとうと祝いの言葉をかけられ、親戚や友人
達からも祝いの電話をもらい、彼女は幸せを感じていた。
 役所に母子手帳をもらいにいき、渡された手帳と諸処
の書類を見て自分も母親になるのだなということを改めて
自覚させられる。それと同時に自分の体に宿った命に対す
る慈しみが強く感じられるようになった。つわりのだるさ
はあったが、いままでのなかなか妊娠しない中で感じてい
た無言のプレッシャーからも開放され、毎日が充実してい
た。だがこの幸せが突然暗転する。それは彼女が気がつか
ない間に起こっていた。

 次の月の検診のとき、彼女は仕事場に休みをもらって独り
で病院にやってきていた。いつものように外来はかなり混雑
していた。「仕方ないわね。今日はゆっくり1日がかりかし
ら。」彼女はそう思いながら、受付をすまし産婦人科の外来
に向かい診察券を外来受付に提出して待合で待つことにした。
 看護師に声をかけられ、型どおりに体重測定、血液、尿検
査を行い時間つぶしに本屋で買ってきた妊娠関連の本を読ん
でいると彼女の名前が呼ばれた。「篠崎詩織さん。中待合でお
待ちください。」彼女は中待合に入って順番を待った。診察室
からお腹の大きな妊婦が出てきて彼女に会釈して外に出て行
った。彼女もかるく会釈でかえした。しばらくまつと彼女の
名前が呼ばれた。「篠崎さん。篠崎詩織さん。診察室にお入り
下さい。」「はい。」彼女は返事をして診察室に入った。
「どうぞお座りください。」彼女が座ると医師は言った。「この
間どうですか変わったことはありませんか?」「特に変わりは
ないですね。つわりで少し気持ち悪いのはありますけど。」「体重
や尿検査は大丈夫のようですね。それでは超音波でみてみま
しょうか。」超音波室に移され腹部から超音波をあててみて医師
は言った。「ちょっとまだお腹の超音波では小さいかな。経膣
エコーでみてみましょうか。」彼女は「はい。」と答えて身支度を
して内診台に上がった。「じゃあ機械いれますので。」医師は
そういって操作を始めた。画像をみながら医師の表情がやや
硬くなった。何枚か写真の撮影をする音が部屋に響いた。
 検査を終えて医師は言った。「篠崎さん。どうもあまりよく
ないようです。診察室でお話いたしますので身支度していた
だいてよろしいですか?」彼女は医師の硬い表情をみて急に不安
になった。「わかりました。」彼女はそういって診察台を降りた。

(次回につづく)
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【2006/02/28 23:19】 春風 | トラックバック(0) | コメント(2) |
春風(4)
 その日の夕方、彼は実家の母親に電話をかけた。
 「もしもし、篠崎ですが。」「ああ、母さん。悟だけど。」
 「ああ、悟かい。今日はどうかしたのかい?」「うん。
実は詩織が妊娠したんだ。今日、いっしょに産婦人科に
いってきてね。妊娠3ヶ月だってさ。」「あらそう。それは
よかったわね~。おめでとう。」「有難う。」「いま3ヶ月
ってことは予定日は….。」「9月○日っていってたよ。」
「そう。でもよかったわね。」「うん。お袋も、いよいよおば
あちゃんだよ。」「それもなんだか不思議ね。」「でもおめでたい
ことだから。それじゃ詩織に代わるから……。」「わかった
わ。」彼は彼女に受話器を渡した。「もしもし。お母様です
か?」「あら、詩織さん。よかったわね~。妊娠3ヶ月です
って。体調は大丈夫?」「おかげさまでなんとか大丈夫で
す。ちょっと胸焼けがする感じでつわりがありますけど
我慢できないほどじゃないし…..。」「そう。でもあまり
無理しないでね。」「有難うございます。」「でも本当に
よかったわ。おめでとう。向こうのご両親にはもう伝え
たの?」「これからです。とりあえず、悟さんのお父さま
とお母様に伝えるのが先だとおもいまして、一番に連絡
させてもらいました。」「あらそう。でもあちらも喜ばれる
と思うわよ。早く伝えてあげてね。」「ええ、そうですね。
それじゃまた悟さんと代わりますから。」受話器を置くと
彼女は彼に言った。「お母さんも喜んでくれているみたい
で良かったわ。電話かわってあげて。」彼は受話器を取る
と言った。「それじゃ、母さん。また連絡するから。親父
はいるのかい?」「まだ今日は帰っていないのよ。」「お袋
から伝えてもらっていいかな?」「もちろんよ。お父さん
だって大喜びよ。」「それならいいけどね。それじゃ突然の
電話で悪かったけど。」「こんな電話なら大歓迎よ。また
連絡頂戴ね。」「もちろんさ。それじゃ。」彼は受話器を置
いて椅子に座って彼女に話しかけた。「なあ詩織。本当
によかったな。」「ええ。」「これで孫はまだかっていう
プレッシャーからは少し開放されるんじゃないか?」
「そうね。でもこれからが大変じゃない?あなたにも
色々負担かけることになると思うわよ。」「まあいいさ。
いずれにしてもおめでとう。」「有難う、あなた。」彼女は
彼に微笑んでそう答えた。

(次回につづく)
【2006/02/27 23:43】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(3)
呼び出しで緊急手術を今終えたところです。
帰宅後更新予定です。(帰宅中の携帯からです。)
更新は12時半を超えるかもしれません。

→更新しました。(2006.2.27.0:38)
 問診票を窓口に渡すと外来の看護師に尿をとってくる
ように言われて容器を渡された。尿をとって提出して引
き続き外来の待合でまっていると彼女の名前が呼ばれた。
 彼女は診察室に入ると医師は言った。「篠崎詩織さんで
すね。どうぞお座り下さい。生理が止まって2ヶ月くらい
たっているということですね。それまでは大体28日周期
で定期的であったと。市販の妊娠検査薬でも陽性だったと
いうことですね。」「ええ、結婚してなかなか妊娠しなかった
もので基礎体温も計っていたのですが高温期が続いていま
したし、少しつわりのような気持ちわるい感じもつづいて
いましたものですから…..。」「なるほど、いままで特に
大きな病気をされたとか、お薬を常用しなくてはならない
ご病気などはありませんね。」「ええ。」「尿検査の結果は
ご想像の通り陽性でした。内診と経膣エコーをさせていた
だいてよろしいですか。」「はあ、わかりました。」看護師に
誘導されて内診室にはいる。「それでは下を全部脱いでいた
だいて台の上に乗ってください。」何分、初めてのことで
彼女はとまどったが検査しないことには仕方がないだろう。
そう思って彼女は診察台に乗った。内診のあと、経膣エコー
が行われる。正直、やっぱり痛いわ…..。彼女はそう思いな
がら黙って検査をうけていた。「いいですよ。」そういわれて
彼女は少しほっとして診察台から降りた。診察室にもどり
医師に椅子をすすめられると医師は言った。「おめでとう
ございます。妊娠されていますね。経膣エコーでも赤ちゃ
んの心臓が動いているのが確認されています。大きさから
すると大体9週に入っていますね。妊娠3ヶ月です。」
「そうですか……..。」「今後、定期的に健診にきていただく
ことになります。母親学級や様々な勉強会もありますので
勉強していただいて……。また詳しいことは看護師から
説明させますが…..。今日は一通り採血検査もさせてください。」
「わかりました。」診察室からでて、待合で待っている夫に
彼女は言った。「やっぱり妊娠しているって。3ヶ月っていって
たわ。」「本当か?本当によかったな。」彼はうれしそうに彼女
に微笑んだ。

(次回につづく)
 今日は呼び出しでおそくなり、帰りは日付が変わっていました。
 明日は日当直なのでブログ更新はお休みです。
【2006/02/25 23:42】 春風 | トラックバック(0) | コメント(5) |
春風(2)
 彼女は夕食の準備をしながら夫の帰りを待っていた。
 待望の妊娠である。結婚して3年経ち、そろそろ周り
からのプレッシャーも感じはじめていた彼女にとっては
本当にうれしい出来事であった。ドアのチャイムが鳴った。
夫が帰ってきた。「ただいま。」彼は言った。「おめでとう。
よかったね。」「お帰りなさい。ありがとう。でもまだ
病院にも行ってないし….。」「でもまず間違いなさそうな
んだろう。」「生理も止まっているしまず間違いないと思
うの。」「どうする。お袋たちにも連絡しようか?」彼は
荷物を置いてネクタイをゆるめながら言った。「うん。
でも病院いってはっきりしていからの方がいいと思うの。
もし違ってたらぬか喜びさせてしもうかもしれないし…。」
「そうだね。じゃあ今週末に病院にいってからにしようか。」
「ええ。そのほうがいいわ。あなたも来てくれるわよね。」
「ああ。もちろんさ。でもよかったな。」「ええ。本当に。」
彼女は食事の準備をしながらそういって夫に微笑んだ。

 その週の土曜日、彼らは近くの総合病院の産婦人科を
受診した。どこの病院にいくか迷ったが、最初の妊娠は
なにがあるかわからないこともあり結局総合病院の
産婦人科を受診することにした。最終的には自分の実家
で産むことになるかしらと彼女は考えていた。
 ともかく混むことは友人達から聞いていたので早め
に番号をとるために早く出かけた。それでもかなり混雑
していた。「あそこの病院の産婦人科は土曜はかなり混む
わよ。下手をすると土曜日でも午後2時から3時ごろ
までかかるわよ。」友人に言われた言葉が頭をよぎった。
 産婦人科外来も診察開始1時間前からかなりの人が
待っていた。その数に彼女は少しあきれた。看護師から
渡された問診票に記載をしながら彼女は彼に言った。「待
たされる方も大変だけど先生も大変よね…..。昼も休まない
でずっと患者さん見続けるのかしら…..。」「そうだね。
まあこちらは待たされるの覚悟できているから…..。」
彼は彼女に微笑みながらそう答えた。

(次回につづく)
【2006/02/24 23:58】 春風 | トラックバック(0) | コメント(1) |
春風(1)
 彼女は少しうれしいような、気恥ずかしいような気持ち
で夫の携帯に電話をかけた。昼のこの時間なら大きな問題
はないだろう。ほどなく夫が出た。「どうしたんだ。詩織。
突然こんな時間に電話をかけてきて。」「あなた。忙しいと
ころごめんなさい。おどろかないでね。ここ2ヶ月生理が
こなかったの。なんとなくここのところむかむかと気持ち
悪い感じがあったので今日薬局に行って妊娠検査薬をか
って検査してみたの。そしたら……。」「うん。」「陽性だっ
たのよ。」「それって。」「そう。妊娠したみたいなの。もちろ
んまだ産婦人科にいったわけでもないしはっきりしたことは
いえないけど。」「そうか。よかったな。詩織。」「有難う。
ともかく一時も早く、あなたに伝えたくて。」「ああ。」「どう
感想は….。」「ちょっとうれしいような不思議な感覚だな。
ともかくおめでとう。」「有難う。今週の土曜日にいっしょに
産婦人科に行ってもらえるかしら。」「もちろんさ。いっしょ
に行くよ。」「よかった。じゃあまた家に帰ったら詳しく話す
から。」「わかったまたな。」彼女はふーっと息をつくと携帯
のスイッチを切った。結婚して3年、待望の妊娠である。
 共働きでお互いそれなりに忙しかった。夫婦の仲は悪く
なかったしそれなりに結婚生活は充実していたがなかなか
子宝には恵まれなかった。彼女も子供は欲しかったので
結婚してしばらく妊娠しなかったことから基礎体温をつけ
たり少し気にして努力していた。ここのところ基礎体温も
少し高くなっていて生理もしばらく来なかったことから
ちょっと期待して検査してみたのである。少し不思議な
感覚だった。「自分も母親になるのね。」彼女は心の中で
そう呟いた。自然に笑みがこぼれる。彼女は時計をみる
とそろそろ昼休みの時間も終わりに近づいていることに
気付いた。少しあわてて自分の職場に向かった。

(次回につづく)

 昨日は帰りが遅くなり更新を断念しました。今日もぎりぎり
の更新となりました。どうもここのところ更新が不定期になり
すいません。
【2006/02/23 23:56】 春風 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(84)
 彼は半ば呆然としていた。妻の死亡宣告を聞いて、葬儀屋
に連絡して、妻の遺品となった荷物を整理した。ストレッチ
ャーに乗せられた彼女に付き添い彼女を業者の迎えの車に
乗せた。まるで何か夢をみているようであった。病院の出口
で見送りに来た医師と看護師に「どうもお世話になりました。」
と礼を述べた。医師は「どうもお疲れ様でした。気をつけて
お帰り下さい。」と一礼した。業者が彼に声をかけた。「車の
同乗は2人できますけど。」「じゃあ、私が乗っていきます。
あと一人はいいか……。」彼の息子が声をかけた。「親父、
俺もおふくろと一緒に乗っていくから……。」「でも車は
どうする。」「家内に運転していってもらうから大丈夫だよ。」
「そうか……。」彼は呟くように言うと車に乗り込んだ。
 彼女と二人を乗せて車は病院を出た。医師と看護師がそれ
を見送っていた。彼は彼女の顔を見つめていた。浮腫と黄疸
で元気なころの顔貌からは変わってしまったが安らかな表情
だった。「よく頑張ったよ。本当に。つらかったよな。苦し
かったよな。俺が馬鹿やったばっかりに無理させてしまって。
俺の身代わりになったようなもんだよ…….。本当にお前も
大馬鹿なんだから…….。」彼は呟くように彼女に話しかけた。
「親父。」長男が彼に話しかけた。「なんだ。」彼は答えた。
「お袋がまだ元気だったときに預かっている手紙があるんだ。
自分が死んだら親父に渡してくれって。」彼はあっけに取ら
れていた。「どうしてお前に?」「多分、事前に親父に渡した
ら親父が動揺すると思ったんじゃないかな……。とりあえず
渡しとくよ。お袋との約束だったから。」彼は息子から手紙を
受け取った。封をあけて手紙をみるとそこには見慣れた彼女
の筆跡があった。「この手紙を見ている時にはあなたとの永遠
の別れになっていることだと思います。残念ながら先生方の
治療にもかかわらず病気が日、一日進行していくのが自分で
も自覚していかざろうえない状態です。多分、もうすぐ私の
人生は幕をおろすのでしょう。でも決して今までの人生に
後悔はありません。貴方の側に40年付き添えて本当に幸せ
だったと思います。年末の福井への旅行は無理を行ってつれ
ていってもらって本当に有難うございました。あの水仙は見事
でした。あなたと最後にいっしょにいけて本当に良かったで
す。いつも貴方は私の病気の事を自分の責任のように自分を
責めていたけど、決してそんなことはありません。これは
私の寿命なんですから。人はいつか何らかの病気で亡くなる
ものです。たまたま私はそれが癌だっただけ。自分の人生の
大変な時期にたまたまぶち当たってしまっただけなのです
から…..。あなたといっしょに仕事も子育てもできた。息子
も独立したし、会社の方も危機を脱してこれからも発展し
ていくことでしょう。心残りはなにもありません。あなたと
いっしょにいたからこそ出来た事なのですから。私はあなた
と出会えて本当に幸せだった。今でも感謝しています。あなた
より先に先立たなくてはいけないこと、本当にごめんなさい。
でもあなたなら会社の事も含めて、きっとこれからも大丈夫
だと信じています……。」手紙を読むうちに彼の目からは
涙が溢れ、止めることが出来なかった。「本当に大馬鹿だよ。
お前は。」彼は震える声で彼女の顔に手をやり呟くように彼
女に話しかけた。

(雪中花 おわり)
【2006/02/21 23:16】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
雪中花(83)
 私が部屋を訪れて10分ほどしたところで彼女
の呼吸が停止し、モニタの波形が平坦となり彼女
の心拍が停止したことを示した。私は「失礼しま
す。」と静かに一言言った後、彼女の胸に聴診器を
当て、心音の停止を確認し、ペンライトで瞳孔の
散大を確認した。すすり泣くような咽び声が部屋
のあちこちで起こった。一通りの診察を終えると
私はご主人の方に顔を向けた。彼はじっと私を見
据えていた。彼の気持ちを考えると言葉を発する
ことがはばかられた。「よく頑張られましたが…
….。2月○日、午後1時××分、死亡確認
とさせていただきます。ご家族の方も本当にお疲
れ様でした。」私はそう言うと、深々と頭を下げ
た。彼はすこし黙ってから徐に、「色々本当にど
うもありがとうございました。」と震える声で言い、
首をたれた。黄疸や浮腫はあったが、長期間の闘病
と苦悩の果てにようやく安らぎの場についた彼女の
表情は安らかであった。
 「それではお別れの時間も欲しいでしょうから我
々は一旦退出しますので、よろしかったらまた看護
師に声をかけてください。ご遺体の処置を行います
ので。」「わかりました。」彼はそう答えるとポケット
から取り出したハンカチで涙を拭った。私は改めて
一礼すると病室から出た。60代の早すぎる死であ
った。だが彼女なりに精一杯やってきて周りに
愛されていたのだということは最後に囲んだ人々の
表情からはつかむことができた。部屋には彼女の会社
の社員からの寄せ書きと水仙の花が飾られていた。
ふと外をみると窓の外は彼女の死と悼むように粉
雪が舞っていた。

(次回につづく)

 次回雪中花最終回の予定です。
【2006/02/20 23:56】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(82)
 その日の昼頃、外来がもうすぐ終わりそうな時
だった。「そうですねCTの結果では大きな異常は
ありませんでした。概ねここまではいい経過だと思
います。」外来の患者さんに検査の結果を話してい
るときに病棟から私の院内PHSに電話がかかって
きた。私は患者さんに「すいません。」といって
PHSのスイッチを入れた。「もしもし、忙しいところ
すいません。外科病棟のNです。Yさんなんですけ
ど血圧が測れなくなっていて、心拍数も40台まで
下がってきています。こちらにこれますか?」私は
外来の患者さんの表情を伺いながら答えた。「わか
りました。手があいたらすぐ上に上がるから。」
「よろしくお願いします。」私はPHSのスイッチを
切った後、「すいません。それでは続きですが…。」
と説明をつづけた。この患者さんの診察を終えたの
ち、私は外来を一旦止めて病棟に向かった。病室に
つくと私は病室のドアをノックして部屋に入った。
 彼女の病室には、ご家族、親戚の方を含めて10人
前後の人々が彼女の様子をうかがっていた。
 「失礼いたします。」私はそういうと彼女のベット
の脇に向かい、診察を行った。呼吸はすでに停止し
そうな状態であり、脈拍は頚動脈でもふれなくなって
いた。モニタの波形が今にも止まりそうなかすかな
心臓の電気信号をかろうじてとらえている状態で
あった。彼女の夫が言った。「どうですか、先生。」
私は彼の目を見て静かに言った。「すでに脈拍もふれ
ない状態になってきています。呼吸もあやしい状態
ですね…….。」「そうですか…….。」彼は呟く様に
答えた。誰の目にもその時が間近に迫っていることは
明白な状態であった。

(次回につづく)
【2006/02/19 18:33】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(81)
 ある日の朝の回診のとき、彼女の病室に向かい、彼女の病室
のドアのノックした。「お早うございます。」私は彼女の部屋の
ドアをあけ部屋に入った。みると彼女の夫がつきそっていた。
「お早うございます。」彼は私の姿を確認すると会釈をした。
「つきそいご苦労様です。」「いえいえそんなことないですよ。」
「診察させていただいてよろしいですか?」「ええお願いしま
す。」私は彼女の診察をしようと一見して彼女の呼吸があえぎ
様であることに気がついた。昨晩に診に来たときとは明らかに
違う努力様の呼吸であった。「Yさん診察させていただきますね。」
すでに意識の殆どない彼女に私は声をかけて診察を行った。
肺野はかるい喘鳴が聞こえた。尿量も昨晩からはほとんど
出ていない状態であった。私は診察を終えると彼女の夫を手招き
して部屋の外に連れ出した後に言った。「どうもご苦労様です。
奥様の状態ですけど…..。」「ええ。」「血圧も下がってきています
し尿量も昨晩からかなり減ってきている状態です。意識状態
は相変わらずの状態ですが、呼吸の状態がかなり不安定に
なってきています。」「はい。」「状況としてはかなり差し迫って
いる状態だと思います。今日か、もって明日くらいかもしれ
ません。」彼はじっと私の顔を見つめて少し黙っていた。
 私は言った。「Yさん。大丈夫ですか?」彼ははっとした
表情になって言った。「大丈夫です。先生。わかってます。
昨日から比べてもなんだか本人苦しそうですし、呼吸が
今にも止まりそうですものね。看護士さんも頻回に吸痰し
てくれてますけど今にも痰がつまりそうな状態ですし….。
わかっているんです。そろそろだということは…….。」
「そうですか…..。いずれにしても、いつ急変してもおかしく
ない状態ですから…….。なにかあればすぐ私もかけつけ
ますし、どうしても手が空かないときは他の先生に頼み
ますから…..。」「わかりました。お気遣い有難うございま
す…….。」彼はそう答えると軽く私に会釈をした。

(次回につづく)

 どうも当直から2日更新できなくてすいませんでした。
 当直明けに緊急手術が入り、直明けの日の帰りは午前様
になってしまい。昨日は早く帰ってきたのですが風邪気味
でもあり倒れこむように寝込んでしまいました。今日は
昨日眠れたので体力快復しました。気がつくと100000Hit
達成になってました。ここまでのご支援有難うございました。
今後ともよろしくお願いいたします。
【2006/02/18 23:48】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
雪中花(80)
 ご家族の希望もあり、出血による血圧の低下に
対してこの日輸血が行なわれることになった。輸
血のために末梢の血管をとる際に(溶血を防ぐため
に太い点滴の針で中心静脈の点滴と別に点滴のルー
トを確保する。)採血も行なうことにした。採血
の結果、血色素量(ヘモグロビン)は5.4g/dlと通常
の血液の濃さの3分の1まで低下していた。輸血に
より、ある程度貧血は改善すると思われたが、輸血
しても出血源がとまったわけではないのでまた貧血
がすすむことが予想された。とりあえずこの日は濃
厚赤血球液(MAP液)を800ml由来、4単位を使用す
ることにした。輸血を行なうことで彼女の血圧は
100台位にもどってきた。同時に止血剤と造血剤
(鉄剤)の投与も行なわれた。この日の晩はそれで
なんとかショック状態から脱して小康状態を保つ
ことができるようになっていた。だがショック状態
を脱しても彼女の意識がもどることはなかった。いつ
急変があってもおかしくない状況であることから
この日からご家族が交代で付き添うようになった。
 状態が差し迫っていることは誰の目にも明らかに
なってきていた。翌日、出血に伴うと思われる多量
の黒色便の排出が認められた。それは断続的に継続
した。また時々コーヒー残渣様の吐血があり、上部
消化管のどこかで断続的に出血が続いていることは
はっきりしていた。一回、回復した血圧は断続的な
出血の継続でじわじわ低下していき尿量も減少して
いく。状況をみながら輸血を追加してみていたが、
黄疸は日を追うごとに強くなり全身のむくみもだん
だん増悪してきていた。彼女の意識はもどることは
なく、家族と会話もできなくなっていた。時だけが
静かに流れ、彼女の衰弱は日を追うごとに進んでいた。

(次回につづく)

 どうも今日も帰りが遅くなってしまい更新がギリギリ
状態でした。明日は当直でブログ更新はお休みです。
 そろそろこのブログのHit数のカウンターが100000に
なりそうです。キリ番号踏んだ方はコメント残してくだ
さいね。
【2006/02/14 23:57】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(79)
 ほどなく彼女の夫とご長男が病室に到着した。病室の
騒然とした状態に少々戸惑っているようであった。私は
ご家族を病棟の面談室についてきてもらい、病状について
お話することにした。「どうも夜分お呼びだてしてすいま
せん。奥様の病態ですが、突然吐血しました。状況からは
胃か、十二指腸炎や潰瘍からの出血と考えられます。
 黄疸もひどくなってきていますし肝臓の機能が低下して
きているところで血液を固める血小板や凝固因子が減少
しているために出血しやすい状態になっていたところで
消化管出血を起こしたものと考えられます。一応、消化管
出血の可能性も考えて、強い胃薬は点滴から使わせていた
のですけれど…….。上部消化管からの出血で出血性のショ
ック状態になっています。もともと出血はしやすい状態
ですから血がとまらない可能性もあります。」夫は言った。
「それでは妻は…..。」「このままでは朝までもつかも微妙な
ところですが……。この出血に対して輸血を行いますか?
輸血をすればこの場はなんとか乗り切れるかもしれません
が…..。出血がつづけば時間稼ぎになるだけですし、黄疸は
溶血でよりひどくなる可能性があります…..。」「出血は
止められないのですか?」「内視鏡をして、出血源が狭い
ものであれば….。出血している血管をつぶすだけでいいなら
なんとか….。それでもかなり出血しやすい状態ですから
かえって傷を広げてしまう可能性もあります。また胃や
十二指腸の壁全体からじわじわでてくるようなものであれ
ば止められない可能性もあります。Yさん。やってほしいと
いわれれば我々はやりますけど、奥様をいたずらに苦しめる
だけの結果になる可能性も高いです。そこをよく考えてくだ
さい。ここでうまく止血できたとしても、奥様の全身状態が
改善する可能性はあまり高いとはいえません。内視鏡をして
いるうちに心肺停止状態になってもぜんぜんおかしくない状態
ですから……..。」長男は言った。「親父、どうする……。」
「どうもこうもないさ……。先生、とりあえず輸血はして
もらったほうがいいのなら、して下さい。胃カメラはいいです。
あれだけ苦しそうなのに、もっと苦しい思いをさせるのは
…….。もう充分ですから…….。」彼の声は呟くような小さな
声であった。私は言った。「わかりました。とりあえず
輸血で少ししのいでみましょう。」

(次回につづく)
【2006/02/13 22:08】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(78)
 私は病院につくと更衣室で急いで白衣に着替えると病棟
に向かった。病室につくと看護師があわただしく処置を行
っていた。ベットのシーツに吐血した血液が散在して付着
していた。私は彼女に話しかけた。「Yさん。わかりますか?」
 応答はなかった。看護師に声をかける。「今血圧は?」
「触診で上が70台くらいですね。脈拍は140位です。」「出血
はどんな感じ?」「凝血塊混じりの暗赤色の出血でしたね。
ガーグルベースに二杯くらいでした。」「ご家族は?」
「連絡はつきました。あと10分位で到着すると思います
けど…。輸血はどうします……。」「うん…..。一応、DNAR
(Do Not Attempt Resuscitation:蘇生処置は行わない)という
ことにはなっているんだけど、このまま輸血しないでみるの
もな……。クロスマッチが終わるまではまだかかるだろう
からご家族が到着したら相談してみるよ。」「採血の指示は
電話ではもらいませんでしたけど……。」「うん、もしご家族
がこれ以上の治療を望まないということなら余計な検査を
しなくてもと思ってね。保留にしたんだ。出血傾向は強く
なってきているし、皮膚の内出血もひどくなってきているし
これ以上針を刺すものちょっと気が引けてね….。起こって
いることは上部消化管からのなんらかの原因による出血な
のははっきりしているし、それによって起こっている出血
性ショックなのは明白だしね…..。肝臓の機能も大分おち
てきているし、血小板の数も減って、凝固能も落ちてきて
いて出血傾向にはあったから……。」「じゃあ、胃チューブ
もいいですか?」「この状態で正直、僕は、胃洗浄も上部
消化管内視鏡もしたくはないけどね……。でもこの状態を
家族がみて検査や治療を希望すればするけど……。30分以
上家族が到着するのにかかるなら緊急避難的にやったと思
うけど、10分ならご家族の希望も聞けると思うから…….。
今はとりあえず急速輸液と昇圧剤でしのげると思うから、
家族が望めばそれ以上の治療をするけど……。Yさんも
頑張ったし、これ以上の治療は正直、患者さんがかわいそ
うだと思うよ……。でも決めるのはご家族だから……..。
とりあえずプレドパ7mlに上げておくから、昇圧剤の速度
の指示はまた書いておきます…..。」「わかりました。」看護
師は答えた。

(次回につづく)
【2006/02/12 22:06】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(0) |
雪中花(77)
 その日の深夜2時頃、寝ていた私の携帯が鳴った。少し
寝ぼけていた私は一瞬、目覚まし時計がなっているのかと
思って時計のスイッチを押したが音は鳴り続けていた。はっ
として携帯が鳴っているのに気付き携帯をとった。すこし
ボーっとした状態で私は携帯のスイッチを入れた。「もしもし
nakanoですが…….。」 少し慌てた看護師の声が聞こえた。
「先生、夜分すいません。Yさんが今吐血しまして、結構な
量なんです。血圧も急に低下してきていて、今、上が60台
なんですけど…….。」「わかりました。ご家族呼んでくれた?」
「これから呼びますけど。」「側管からラクテックの500mlを
全開で落としてもらって、プレドパ600を時間5ml/hrで開始
してください。MAP400、一応2本取り寄せてもらって検査
技師さん呼んで、クロスしてもらってくれるように連絡して
もらっていいかな?」「わかりました。」「僕もすぐ行きます
ので…..。」電話を切ると横で寝ていた妻が言った。「呼ばれた
の…..。」「ああ、患者さんが急変してね。すぐいかなくちゃ
ならないんだ。」「そう……。朝までに帰れそう?」「多分ちょ
っと無理そうな感じだよ。そのまま通常勤務になってしまい
そうな感じだね。」「わかったわ。気をつけていってきてね。」
 慌しく着替えて、私は家を出た。外は細かい雪が舞っていた。
 私は白い息を吐きながら、急いで自転車を病院に向けて走ら
せた……。

 同じ頃、自宅で休んでいた彼女の夫はけたたましく鳴る電話
の音で目を覚ました。時計を見ると午前2時を回ったところ
だった。「なんだ一体、この時間に……。非常識な…..。」彼は
少し不機嫌に起きだし、電話機の側に向かうと受話器を取った。
「もしもし、Yですけど。」「夜分すいません。Yさん。こちら
S総合病院の看護師のMというものですけど。奥さんのこと
で。今、突然吐血されまして、状態が急に悪くなってきている
んです。この時間で申し訳ありませんがすぐこちらに来ていた
だけませんでしょうか?」彼は一瞬耳を疑った。「えっ、吐血
ですって…..。」「そうなんです。すぐ来ていただきたいんです
が…….。」「わかりました。すぐ行きます。20分位でいけると
思いますので。」「他の家族の方にも連絡していただいていいで
すか?」「ええ、もちろん。わかりました。」彼は少し混乱しな
がら返事をして受話器を置いた。

(次回につづく)
【2006/02/11 23:47】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
雪中花(76)
 次第に彼女の意識の状態は混濁していき、はっきりと
応答できるときとできないときと波がでてきていた。
 だが次第にボーっとして応答ができないことが多くな
ってきた。それでもはっきりすると周りに気をつかって
か、つらそうな表情はみせないようにしているようだった。
 ある晩、いつものように夫は仕事を終えると彼女の病室
を訪れていた。彼女は眠っているようであった。彼はベット
の脇の椅子に腰掛けた。「ふうっ」と息をついて荷物を床頭台
の上に置いて彼女の方を見た。日々、彼女が弱っていってい
るのは彼の目にも明らかであった。ぼんやりと妻の顔をなが
めていると彼女が目を覚ました。すこしボーっとした目つき
で彼女は彼を見つめた。しばらくして彼女は彼に言った。
「あなた…….。来てたのね。」彼は言った。「ああ、いまついた
ところだ…..。」「そう…..。」彼女はつぶやくように言った。
「今日はまだ調子がいいようだな。いつもよりはっきりして
いる感じがするね。」彼女は少し黙ってから言った。「今、
夢を見ていたの。よく思い出せなかったけど、家族でどこか
旅行にいく夢だったわ…..。でも目がさめて現実に引きもど
された感じ…..。いっそのこと目が覚めなければよかったの
にね…..。また目が覚めてしまった……..。」彼女は力なく
夫に微笑んだ。彼は言った。「お前がいなくなったら俺は
どうしていいかわからないよ……。馬鹿なことはいわない
でくれ……。替わってやれるなら替わってやりたい位だ…。」
「もう、私はいいのよ。あなた…..。寿命なのよ。だれの
せいでもないわ……。あなたと息子、そして会社の皆に
ささえてもらって自分の力以上の事ができたと思ってる。
あなたに会えて幸せだった。本当よ…..。感謝しているわ…。」
「なにを訳をわからないことを言っているんだ……。会社の
みんなもお前を待っているんだ…….。そんなこというんじゃ
ない…..。」「なにを言っているの……。こうなることはずっと
前からわかっていたことじゃない…….。本当にもういいのよ
……..。」彼女は少し涙を浮かべて目を閉じた。彼は彼女の
手をしっかりとにぎったあと立ち上がった。「それじゃ俺
いくから…….。」彼女は彼を見つめていった。「あなた。愛して
いるわ…….。」彼は答えた。「俺もだ。お前は俺にはもったい
ないいい女だよ。」「有難う。」彼女は答えた。「それじゃまた
明日くるから……。」「わかったわ……。」彼女が答えるのもみて
彼は病室をでた。これが彼と彼女との最後の会話になるとは
彼はまだ想像だにしていなかった。

(次回につづく)

 どうも今日は帰りが遅くなってしまいました。明日は当直で
更新はお休みします。土曜日の続きを楽しみにしていてください。
【2006/02/09 23:56】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(4) |
雪中花(75)
 彼女の病状はよくなることはなかった。両側の胸に挿入
されたトロッカーカテーテルと尿道カテーテル、中心静脈
カテーテルなどの管類で彼女は体を動かすこともままなら
なくなっていた。しかしながら、痛み止めは充分に使って
苦痛は取られており、呼吸苦もなくなっていた。彼女の意識
はしっかりしており、家族の人々や知り合いのお見舞いにも
しっかり応答していた。私が回診で回っていくときにも
黄疸は日、一日ひどくはなっていたが比較的穏やかな表情
で応答していた。そんなある日、私が回診で彼女の病室を
訪れた。私は彼女に声をかけた。「どうも、Yさん。どうです
か調子は…….。」彼女は言った。「とくに変わったことはない
です。息ぐるしいのは大分取れましたけど、体を動かすと
管が入っているところが痛みますね。あとは体中が痒いの
がつらいです。」全身の黄疸が強くなってきており彼女は
全身の掻痒感にも悩まされていた。止掻水や軟膏などで
対応していたが甲かははかばかしくはなかった。私は言った。
「わかりました。」私は彼女の胸の聴診を行い、腹部の診察
を行った。彼女のお腹は腹水で張っており、全身がむくんで
いた。私が診察を終えると彼女は言った。「先生。今回は私
さすがに駄目みたいですね…..。」私は言った。「かなり状況
は厳しいのは確かですが、内科的な治療でやれるかぎりは
させていただいていますので……..。」「先生が一生懸命
やっていても、日々、状態は悪くなっているのは私にも
わかります。病気も病気ですし、病気そのものに対しての
治療は出来なくなっている状態ですものね….。多分そんな
には時間は残されていないだろうということもなんとなく
わかってはいるつもりですよ………。」「Yさん…….。」
「別にもう仕方ないことはわかってはいるんですよ。あと
は苦しさだけとってくれればいいですから……..。」少しの
沈黙が流れた。私は言った。「痛いことや苦しい状況があれ
ばできるかぎり対応しますので……。」彼女は黄疸で黄色
がかった眼で私を見て言った。「先生。宜しくお願いします。
どうも有難う。」彼女はしっかりした声で私に言った。

(次回につづく)

 昨日も少し遅くなって更新ができませんでした。でも一時
の仕事の忙しさは少し峠を越えてきた気がします。
【2006/02/08 23:18】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(74)
 私は彼女の夫を面談室に呼び寄せると彼女の病状に
ついて話を始めた。「どうもご苦労さまです。奥様の
病状についてなのですが…..。状況としてはあまりいい
状態とはいえない状況です。両方の胸水の排出量はへら
ない状態ですし、肝臓の機能も日々悪化してきています。
病気の進行に関しては抑える手立てもなく、内科的な
治療で経過をみていますが……。」彼女の夫はつぶやくよう
に言った。「そうですか…….。」「いずれにしても肝臓の
機能の低下が著しく黄疸も強くなってきていますので
状況としてはかなり厳しくなってきています。血圧と
尿量は維持されていますので、まだ少し時間はありとは
思いますが、多分ここ数日~数週間の間での急変が十分
にありえる状態です。」彼女の夫はうつむきながら私の
話を黙ってきいていた。「痛み止めの薬をつかって痛み
のコントロールはなんとかついていますのでこのまま
様子をみることになります。急変時のことなんですが
……。」「ええ。」「このような癌の末期の患者さんに関
しては急変時には蘇生処置、つまり人工呼吸器の装着
や心臓マッサージなどはおこなわないのですが…….。
それは患者さんに苦痛を与えるだけですので….。奥様
の場合もそれでよるしいでしょうか?」彼は静かに顔を
上げると私の顔を見つめた。「先生。おっしゃっている
ことがよくわからないのですが……。」震えるような声
だった。「Yさん。奥様の状態が急変したときにどうす
るかをお聞きしたいんです。私としてはこのような病状
の患者さんはあまり意味のない蘇生術を行うよりは自然
に経過をみさせていただいたほうがよいとおもうのです
が………。」彼は少し黙り込んだ。重苦しい空気が面談室
を覆った。「先生。もう妻は充分がんばってくれたと思う。
苦しくないようにしてくれればそれでいいから……..。
なあ先生。やっぱり駄目なんだな……..。でもどうしよう
もないんだよな……….。」私は少し間をおいて答えた。
「Yさん…..。申し訳ないんですが…….。本当になんと
申し上げてよいか……。」かれはうなずきながら言った。「わかっ
てるよ先生。わかってる。先生もよくやってくれた。
でも来るのが遅すぎたんだよな…..。どうしようもない
って前からわかっていたんだから……。本当に.....。
大変な状況で申し訳ないんだが、ともかく妻をよろしく
お願いします........。」彼は震える声で搾り出すように
そう私に言うと一礼をして面談室を退出した。

(次回につづく)
【2006/02/06 22:31】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(73)
 彼女の呼吸状態は改善したがトロッカーからの排液は1日
600~700mlほどありそれが減少することはなかった。食事
摂取や飲水もままならない状況であり、私は彼女の補液を中心
静脈カテーテルにて行なうことにした。右肩の鎖骨下静脈から
カテーテルを挿入しここから上大静脈にカテーテルの先端を留
置して高カロリーの輸液を行なえるようにした。それで状態は
少し小康状態となったが肝機能の低下にともない黄疸は次第に
強くなってきており、肝不全に対しての治療も行ないながら経過
をみていた。そうこうしているうちに点滴を比較的しぼっていた
にもかかわらず左にも胸水がたまってきた。
 彼女はまた咳と呼吸苦に悩まされることになった。左にもトロ
ッカーカテーテルを挿入すれば症状は多少おちつくかもしれな
いが両側から持続吸引器で吸引するとなると患者さんは全く
ベットからうごけなくなってしまう可能性があった。私は両側
のトロッカーカテーテルの挿入はためらっていた。しかし呼吸
苦に悩まされていた彼女は挿入を要求するようになった。「先生
どうしてもこの息が苦しいのがたまらないの。左にも管を入れて
くれないかしら….。」「でもYさん。左に管をいれたら両側から
機械につながれて全くベットから動けなくなってしまいますよ。」
「それでもいいのでなんとかしてください…..。」私は彼女の夫と
相談した。夫は言った。「結構、左の重苦しい感じと息苦しさが
つらくてたまらないようなんで、本人も希望していますので先生
入れていただけませんか…..。」私は夫の話も聞いて彼女の希望通り
左からもトロッカーカテーテルを挿入した。ベットからは起き上
がれる状態でなくなり、排尿もままならない状況となり、彼女は
尿道カテーテルを挿入された。彼女は呼吸苦からは解放されたが
ベットから動けない状況になってしまっていた。しかしながら
苦痛から開放された彼女はむしろ少し元気になり「先生、大分
楽になりました。有難うございました。」と健気に回診にまわって
きた私に声をかけてくれるようになっていた。
 黄疸も日に日に強くなってきており彼女の病状は悪化の一途を
たどっていた。私は彼女の夫に対して現状の病状につきお話する
ことにした。

(次回につづく)

【2006/02/05 18:07】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(72)
 入院の指示を出し彼女を入院させた私は外来を終えた
後、病棟に上がり彼女の右の胸水を抜くためにトロッカー
カテーテルを挿入した。胸水の排出で彼女の呼吸状態は
改善した。点滴と同時に利尿剤を使用し少しでもむくみ
の改善をはかろうとした。彼女の処置を終え、午後の小
さな手術に向かった。

 手術を終え、彼女の病室に向かい、トロッカーカテーテル
からの排液を確認し、彼女の胸の聴診を行った。私は彼女
に向かっていった。「胸の水は大分抜けて胸の音もだいぶ
よくなったようですね。呼吸も楽になったのではないです
か?」彼女は言った。「そうですね。呼吸はだいぶ楽になり
ました。管を入れたところはいたいですけどね….。」「そう
ですか…..。あまり痛いようでしたら痛み止めつかっても
らうようにしますので。」「ええ、わかりました。」「今日の
ところはこれで様子をみさせていただこうと思っています。」
「わかりました。でも先生、今後はどうです。この胸の管は
いずれは抜くことができるのですか?」「なかなか難しいか
もしれません。利尿剤で胸水がコントロールできればいいの
ですが、管を抜いてまた胸水がたまるようであればまた呼吸
苦がでてしまう可能性もありますし…..。」「そうですか….。」
「いずれにしても治療の効果もみていかないとなんともいえ
ないですね……。」私はもうこのトロッカーは抜くことができ
ない可能性が高いだろうと思っていたが言葉を濁した。「きっと
この胸の管がぬけないと家には帰れないですよね…….。」彼女
はつぶやくように言った。「家での管理は難しいかもしれま
せんね…..。でも胸水の量が減ってくれば抜くこともできる
かもしれませんから…..。」彼女は少し黙ってから黄疸が強く
なった眼で私を見ながら笑顔をつくっていった。「そうですね。
余計なこと考えていたって状態がよくなるわけではないです
しね……。」「ええ、そう思います。また状況みながら病状に
ついて説明が必要とおもわれたら説明させていただきます
ので…….。」私はそう言って彼女に一礼をして病室をでた。

(次回につづく)

 どうもここのところ忙しくでとびとびの更新になってしまい
ました。すいません。先週末がほとんど休めない状況だったの
で今週は体が重たくて仕方なかったです。明日は一応拘束番で
ないので少しゆっくりして体を休めたいと思います…..。ブログ
も更新しますのでよろしくお願いしますね。
【2006/02/04 23:11】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(2) |
雪中花(71)
 採血の結果と胸のレントゲンの結果がもどってきた。
 採血の結果では肝臓の酵素も上昇しており黄疸もすすんで
いる状態であった。肝臓の転移巣が増大してきている影響と
おもわれた。胸の写真でも右側の胸水が貯留してきていた。
 多分呼吸苦もこれによるものだろう。呼吸苦は胸水を排液
すればとれるかもしれないが、肝臓の機能がこれだけ悪く
なっているのはいかんともしがたい。回復は難しいだろうと
私は考えていた。採血の結果とレントゲン写真を見つめながら
私は彼女と夫を診察室に呼び寄せた。診察室に呼び戻された
彼女と夫に私は言った。「採血の結果はあまり好ましいもので
はありません。肝臓の転移によるものでしょう。肝臓の酵素
もかなり上昇してきています。黄疸の数値であるビリルビンの
値も上昇してきています。右胸にも水がたまってきていますし
呼吸苦はこの影響でしょう。やはり入院してもらってこれら
の治療を行ったほうがよいとおもいますが…….。」夫は言った。
「なあ、先生もああいっているんだ。入院したほうがよくない
かい?」彼女はじっと自分の胸のレントゲンをみつめながら
言った。「先生。入院すればなんとかなるというものでもない
んではないんではないかしら…..。病状としてはかなり厳しい
状態ですよね…..。」「それでもいくばくかは今の状態を良く
することができるかもしれません。」「なあ、俺も入院しても
らった方が安心だよ。家にいてなにかあっても誰もいないし
な……。」彼女は少し考えていた。少し重苦しい雰囲気が診察
室に漂った。しばらくして彼女は言った。「仕方ないかね。
それじゃまたお世話になりますかね……..。」夫はほっとした
口調でいった。「そうさ、そのほうがいいよ。それで良かっ
たよ。」 夫の言葉を聞きながら彼女はふーっとため息をつ
いた。私は言った。それでは入院で手続きとりますから…..。
少し待合室でお待ちください。看護師に案内させますので。」
「わかりました。」彼女は呟くように答え、少し寂しそうな
目つきで夫を見つめていた。
 
(次回につづく)

昨日は夜間に呼び出しがあって更新できませんでした。
 今日は少し早く帰ってこれたので早々に更新しておきました。
 外来でもインフルエンザはやってきました。皆さんもおきお
つけください。
【2006/02/02 23:27】 雪中花 | トラックバック(0) | コメント(3) |
藪医者の独り言


ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。


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