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春風(6)
 診察室の椅子に彼女が座ると医師は言った。「篠崎さん。
非常に申し上げにくいことですが…..。超音波でみさせて
いただいたところ、胎児の心臓の拍動が全く認められない
のです。非常に残念ですが、胎児は死んでいる状態だと
思います…..。」 彼女はにわかには目の前の医師がいって
いることが理解できなかった。「胎児の心臓が拍動して
いないって、一体どういうことですか?」彼女は頭の中が
真っ白になっていくのが感じられた。
「普通は胎児死亡すると子宮から排出されるのですが、
死んでいる状態で胎児が子宮に留まっている状態です。
いわゆる稽留流産といわれる状態です。」「けいりゅう…
りゅうざん….」「そのままとどまるようであれば死亡した
胎児を出すために掻爬する必要があります......。」

 彼女は半ば呆然として病院の会計をすませていた。医
師の言葉が頭の中に渦巻いていた。「1週間後にまたいら
してください。それで胎児の大きさがかわらず、心臓の
動きも見られなければまず間違いないとおもいます。ご
家族の方にも来ていただいて必要なら掻爬術の説明をさ
せていただきますので......。」
 信じられなかった。信じたくもなかった。やっとの思
いで授かった最初の子供のはずであった。自分も嬉しか
った。夫も喜んでくれた。夫がうれしそうに「男の子かな、
女の子かな?ぼくはできればかわいい女の子がいいな。詩
織みたいなね….。」と言っていたのが思い出された。友人
にも義父、義母にも祝いの言葉をかけてもらっていた矢先
である。どうやって伝えよう……。どうやって伝えたら
いいの…..。どうして…..。無理はしていないつもりだっ
た。冷やさないように気をつけていたし、仕事も控えめに
していたつもりだったのに…..。なぜ….。なぜなの..。
 考えがまとまらなかった。帰りのバスの中で涙が自然に
こぼれてきた。目の前の小学生くらいの女の子が彼女に
話しかけた。「おばちゃん。どうして泣いているの?」
 彼女ははっとして答えた。「なんでもないのよ。大丈
夫。気にしないでいいのよ。有難う。」彼女はハンカチを
取り出し涙を拭って少女に答えた。

(次回につづく)
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