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誤報(1)のエントリーは11月26日付けです。最初から読む方はカレンダーで11月までたどって26日をクリックすると誤報(1),(2)のエントリーに入れます。あとは順々に日にちをクリックしていってください。

(モデルにさせていただいた誤報事件に関しての2chの過去ログ保存していたものアップしました
医者板の過去ログ→こちら
ニュース速報+板の過去ログ→→こちら
この事件の理解の参考となれば幸いです。当時の記事などが引用されている部位もありますのでm3掲示板も閉鎖された今、資料として貴重なものとして保存してあります。)
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春風(141)
 私はあわてて悟の病室に向かった。ドアをノックして病室
に入ると病室内にいたご家族の目がすべてこちらを向いた。
 私は軽く会釈すると病室に入った。ご家族がベットの脇から
はなれ私が入るスペースをつくった。私はゆっくりと悟のベット
の傍に向かった。心電図のモニターのQRS波はのびてきており、
いまにも波形は消失しそうであった。詩織が言った。「どんな
感じでしょうか?」「そうですね.....。血圧もでないですし
心拍数も落ちてきていますので......。時間の問題だと思い
ます.....。」「そうですか.....。」詩織は少しため息をつく
とつぶやくように言った。実際もう数分か数十分で心停止に
なるだろう.....。ベットサイドからはしばらく離れられない
だろう....。私はそう思いながら悟の傍に立っていた。だれも
が無言だった。やがてアラーム音がなり、モニターが心拍が
完全に停止したことを示した。あちこちからうめき声に似た
嗚咽がもれる。私は2,3分様子をみて心拍が再開しないのを
確認して聴診器を胸にあて、瞳孔の散大を確認した。頚部の
脈拍をふれないのを確認してから時計で時刻を確認した。
 「よくがんばられましたが4月○日午後11時52分死亡確認と
させていただきます。本当にお疲れ様でした。」私は静かに
そういうと深々と頭を下げた。「全く、親より先に逝ってしま
うなんて、この親不孝ものが!」司郎がうめくように言った。
司郎の頬には大粒の涙がこぼれていた。「色々ご迷惑をかけ
ました。本当に有難うございました。」詩織はそう言って
頭を下げた。「しばらくお別れの時間がいるでしょう。
我々外にでていますので処置させていただいてよろしく
なりましたら声をかけてください。」私はそういうと頭を
下げて病室を出た。後にした病室からは「悟.....。どうし
て.....。」という叫び声に似た敏子の声が漏れてきた。
 重い足取りでナースステーションに向かい、死亡診断書を
取り出して記入を始めているとPHSが鳴った。「先生、今
よろしいですか....。」「うん、今患者さんを看取ったと
ころだから、もう少しすればいけると思うけど....。」
「これから救急車がきます。嘔吐と腹痛の方です。」「そう。
あとどれくらいで来ますかね?」「△△町からですから
多分20分くらいだと思います。」「わかりました。到着した
らすぐ連絡ください。」私はそういうと溜息をついて電話
を切った。

(次回につづく)
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【2006/10/29 16:55】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(140)
 その夜は結構忙しい夜であった。救急外来には患者が絶え間なく
訪れ、合間に救急車の対応に追われるという状態で夕食をとる暇も
なかった。2人目の緊急入院を入れた後、時計を見ると11時を回って
いた。PHSが鳴る。「はいもしもしnakanoですが....。」「ああ、先
生、ICUの島津です。篠崎さんですが、血圧がほとんど測定できない
状態で、脈拍も落ちてきています。こちらに来ることできますか?」
「ちょっと今、救急外来が込み合っていてすぐには...。でもできる
限り早くいきますので....。」「わかりました、よろしくお願いし
ます。」看護師の話からあまり時間はないだろうということはわか
っていた。横目で傍らに積まれたカルテの山を見る。看護師に声を
かける。「病棟でなくなりそうな方がいるんだ、少し外来止めて
大丈夫かな?」「ええっ?先生、結構患者さん待っていますし
今いかれると困るんですけど....。あと2人ほどみてもらえません
か?内科系の森本先生が今救急車対応していますので、それが一段
落したらみてもらいますから.....。」「わかりました。じゃあ
患者さん入れてください。」「お願いします。川上さん。川上俊樹
さんお入りください。」看護師が患者を外来に呼び込むと40代位
の男性が不機嫌そうに入ってきた。「川上さんですね。どうぞ椅子
にお座りください。」私がそういうと彼はドスッと椅子に座るや
いなや言った。「全く、どれくらい待たせれば気がすむんだ。1時
間半も待たせやがって。」「それはどうもすいません。救急外来
も混みあっているもので。我々も精一杯やっているんですが....。
それで今日はどんな症状でこられたか聞かせていただきたいんです
が....。」「おとといから熱と咳がでて落ち着かないんだ。」「熱
と咳ですね。おとといのいつくらいからどんな症状があったんで
すか?」「おとといの昼くらいかな少し寒気がしたんだ。だけど
仕事が終わって落ち着いていたんで様子をみていた。その日の帰り
に飲んで帰って寝て、昨日の朝は頭が痛くて2日酔いかと思って
いたんだ。それで仕事にいったんだがどうもだるかった。今日に
なってもどうもすっきりしない。」2日前からか....。今日の昼間
にかかってくれればよかったのに。私はそう思いながら言った。
「そうですか、それで今日は仕事を休んで休まれていたんです
ね。」「いや仕事に出たんだ。ちょっと熱っぽくってすっきりし
ないからな。こちらとら忙しくて昼間は病院なんか来れないんだ。
だから今、来たんだよ。あんたらみたいに暇じゃないんだ。」こ
ちらは3日病院に泊り込みである。夜飲みにいく暇などないのだ
が.......。瀕死の患者の傍にすぐにでも行きたいのに......。
まあそんなことを考えていてはこの仕事はやっていられない..
..。大体そんな話を聞いてくれそうな人ではない...。「そうで
すかわかりました。それでは診察させていただきますね。」私は
彼ののどと肺の聴診を行った。のどの発赤が少しあるくらいで熱
も37度の前半である。感冒でいいだろう。私は言った。「風邪
でよさそうですね。風邪薬と咳止め出しておきますので。」「先
生。点滴してもらえないか?」「でも食事も食べられている方は
あんまり意味がないと思いますけど。」「いいんだ。やると楽に
なるんだよ。」点滴自体はほとんど栄養はない。5%ブドウ糖液
だから500mlでも100kcal、ジュース1本飲めればそれ以上のカ
ロリーが入る。脱水症状がなければ医学的な意味は少ない。だが
それを説明しても納得が得られる患者さんではなさそうだった。
「ともかく早くよくなんないといけないんだ。点滴してもらわな
いと困るんだよ!」彼は不機嫌そうに少し大きな声で言った。私
のPHSが鳴る。私は一言すいませんと言ってPHSを取る。「まった
く、診察の途中で電話かよ!なんて医者だ!」彼は廊下まで響く
ような声で言った。「もしもし、nakanoですが....。」「先生、
篠崎さん。脈拍30台で、かなり波形も変わってきています。すぐ
来てください。」「わかりました。」私はそういうとPHSの電源
を切った。彼を説得する時間もないし点滴しなければ事態は収
拾がつかないことははっきりしていた。医学的に意味はなくても
害にならないのなら仕方がないだろう。私は言った。「わかりま
した。点滴しますので。」「最初からそういえばいいのに、この
くそ医者が...。」彼は捨て台詞を残して入り口のドアを勢いよ
く閉めると部屋を出て行った。一方的に人の話をきかずにどなり
散らす患者はたまにいるが、疲労の蓄積した身にはちときつかっ
た。私は看護師に言った。「すまない、病棟で一人患者さんがな
くなりそうなんだ。病棟からせかす電話がかかってきたんだ。行
っていいかな。」看護師は言った。「わかりました。」私は席を
たつと急いで悟の病室に向かった。

(次回につづく)
【2006/10/28 23:39】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(139)
午後6時半すぎに友代と和夫は赤ちゃんをつれて病院に到着
した。夜間の入り口の当直事務に悟の病室番号を確認して
悟の病室に向かった。個室の病室のドアをノックして部屋に
入ると、病室にいた詩織と敏子、司郎はドアの方を振り返った。
 「どうもご無沙汰しています。」和夫は司郎の方を向いて
言った。「どうも大変な状態になってしまって........。
わざわざきていただいて申し訳ありません。」司郎は軽く頭を
下げて言った。「いえいえ、もっと早くこれたならよかった
のですが、なにぶん赤ん坊もいるものでなかなか来るのがむず
かしくて.....。それで悟君の状態はどんな感じなんですか?」
「事故後の手術のあとは比較的落ち着いていたので安心して
いたんですけど、手術してしばらくして肺梗塞というのをやって
からはもう意識も戻らない状態です。色々機械をつなげて治療
してもらっていますけど血圧の上がらないし、尿もでなくなって
きているっていうことで今日、明日くらいが山だっていうこと
です。」「そうですか......。」和夫は少し驚いて言った。
「かなり状態が悪いとは聞いていましたけど、まさかこんな
状態だとは......。」「私たちも正直なところ信じられないと
いう気持ちですね......。いつ急変があってもおかしくないと
いうことなので.......。それで、藤川さん。泊まりはどうされ
るんですか?」「赤ん坊もいるので近くのホテルに泊まる予定
にしてあります。色々道具もいりますしね。」友代は答えた。
「まさか、自分の娘との初顔合わせがこんな形になるなんて..
....。まだ名前も決めてもらっていないのに.......。」敏子
がつぶやくように言った。友代は赤ちゃんを詩織に渡した。
詩織は赤ちゃんを悟の顔のそばに近づけて言った。「悟さん。
あなたの娘よ。ようやく出会えたのよ。お願い、目を開けて...。」
 病室には家族のむせび泣く嗚咽と人工呼吸器の空気を送り込む
無機質な音が静かに響いていた。

(次回につづく)

 また家のパソコンがクラッシュしてしまい。仕事に追われて
治す気にもなれず放置していました。今日はあきらめて病院で
使っている自分のパソコンを家に持って帰ってきて更新です。
 週末にシステム入れ替えなくちゃだめでしょうか......。
 6年目のロートルでハードディスクがもう寿命なのかしら..。
 一応、MOで大事なデータはバックアップしていたので被害は
最小限ですが....。奥さんに頼んで安いので買い替えを検討
中です。2,3日はノートパソコン持ち運ぶことになりそうです。
 仕事とプライベートのパソコンは別にしているのでプライ
ベートのメールはもう放置ですが、家にいるときはブログの
更新だけに使用することにするつもりです。なんとも.....。
【2006/10/26 23:00】 春風 | トラックバック(0) | コメント(3) |
春風(138)
 説明が終わり、面談室をでると3人は悟の病室に向かった。
 部屋につくと3人は看護師が用意した椅子に座った。司郎は
つぶやくように言った。「今日は泊り込む形になりそうだな
.....。藤川の家には連絡をとったのかな、詩織さん。」詩織
は司郎の方をみて答えた。「ええ、病院から連絡があったと
きに.....。多分、そろそろこちらに着くんではないかと
思います。赤ちゃんも連れてきてくれるっていってました。」
「そうか.....。結局、まだ悟は娘をみないままこんな状態
になってしまったってことか......。」「ええ.....。」詩織
は答えた。「藤川の家の人がつくまでにもってくれればいいけ
ど.....。」敏子は言った。「ああそうだね......。」司郎は
答えた。

 私は説明を終えてカルテをナースステーションにもどすと
他の病棟業務に向かった。5時からは当直業務になり救急外来
から離れられなくなる可能性が高い。それまでに今日中に
片付けなくてはならない仕事は片付けておきたかった。悟の
状態は悪く、多分今晩中ではないかと考えていた。忙しい
時間帯でなければいいのだが.....。大体、救急外来は6時から
11時ごろまでが混む、その後は大抵は来院数はまばらになる。
だが救急車がいつとびこんでくるかも解らないし、緊急手術
になる患者さんが来てしまった場合は手がはなせなくなって
しまう可能性もある。「だが、今日が当直でよかったかもしれ
ない。何かあれば、よっぽどの緊急事態でなければすぐ患者
さんのところにいけるんだから.....。」私はそう考えて外科
病棟に向かった。担当患者さんの顔を一通りみて、カルテに
必要な指示を出しているときに院内PHSが鳴る。「はい、nakano
ですが.....。」「救急外来、山下です。今、救急外来に3名
ほど患者さんがいらっしゃってます。発熱の方と腹痛の方、
あと手を切ったという方ですね。外来に下りてきていただけ
ますか?」「はいわかりました。すぐ行きます。」私は院内
PHSの通話を切ると椅子を立ち上がった。時計は午後5時10分を
指していた。こうして私の病院での3回目の夜が始まった。

(次回につづく)

 今日は休めたので、子供の相手ができてよかったです。
 10月ももう後半ですね。早いものです。
【2006/10/22 21:46】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(137)
 「それで、申し上げにくいことなのですが......。」私は
続けた。「一応確認しておきたいのですが、急変時は心臓
マッサージはどうしましょうか?多分、今、昇圧剤などで
ずっとがんばってきているので心停止した場合はまず心臓
の動きがもどることはないと思います....。心臓マッサージ
をしても肋骨を折ったり、患者さんを痛めつけるだけの結果
になってしまう可能性が高いのです。できれば次に心停止
してしまった場合は心臓マッサージなどの処置はいいと
おもうのですが........。」司郎は言った。「先生。もう
何をやっても見込みはないんだろう......。」私は一瞬答
えるのに戸惑った。少し考えて「ええ....。正直なところ
多分可能性は低いと思います。」司郎は私の顔をじっとみ
てしばらく黙っていた。沈黙が面談室を覆った。司郎が
静かに口を開く。「先生はいろいろ頑張ってくれている
とは思うが、ここ数日は急に状態が悪くなっているのが我々
素人からみても明らかですよね......。今の悟の状態は正
直、正視に耐えないですよ.....。あんなにむくみもひどく
なってまるで別人だ.......。もう悟も充分頑張ったんだ。
一回は心臓止まった状態だったんだから、それから3日間
持ったんだから.......。もう充分でしょう、先生....。」
司郎の声は震えていた。最愛の息子の死を受け入れるのは
非常につらいことである。だがここ数日の悟の姿をみて彼
はそれを受け入れなくてはならないことだと認識していた。
「もう.....充分悟は頑張ったんだ.....。これ以上はもう
いいです.....。」敏子は言った。「あなた....。」「なあ
もういいだろう....。これ以上は悟がかわいそうだ.....。
あとは静かにみていてあげれば充分じゃないか.......。」
司郎は自分に言い聞かせるように天井を見上げて言った。
「私にはとても耐えられないわ.....。なんで私より先に
悟がしななくちゃならないの?できれば代わってあげたい
.........。」泣き崩れる敏子に司郎は言った。「もういう
な.....。俺だって......断腸の思いだ.....。それに詩織
さんだって私たち以上につらいんだから.......。」司郎の
頬には一筋の涙が流れていた。詩織は両膝に両手を置き肩
を震わせながらうつむいたまま黙っていた。後から後から
あふれ出る涙を止めることができなかった。

(次回につづく)

 11月の中旬に広島でまた学会があってまた準備に追われて
います。なかなかブログの更新きついですが、ぼちぼち続け
られるように頑張っています。
【2006/10/21 23:52】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(136)
 詩織は敏子たちといっしょに面談室に看護師に案内され
入った。私は入ってきた詩織たちに軽く会釈をすると
3人に椅子をすすめた。3人はかるくお辞儀をすると椅子に
ついた。3人が椅子についたところで私は話を始めた。「篠
崎さんの状態ですが、ごらんのとおりで状態としては非常
に悪い状態です。血圧も低下したままですし、尿量もほと
んど出ない状態になっています。肝不全によるものと思わ
れますがみてのとおり黄疸も日々ひどくなってきています。
 多分、状態としてはここ数日、いや今日、明日が山かも
しれません。」その言葉は3人にとっては予想していたもの
であったが改めて言われるとショックな事であったのだろ
う。面談室に重たい空気がたちこめた。しばらくして敏子
は「ううっ」と嗚咽をもらし、詩織は両膝にのせた拳を震
わせていた。司郎は目を潤ませながら言った。「先生。や
っぱり、駄目かね......。助からんかね.....。」感情を
精一杯押し殺して冷静さを保とうとしているようであった。
 大丈夫です。なんとか助けられると思いますと言える事
ができたならどんなにかいいだろう....。だが篠崎さんの
状態は素人がみても絶望的な状態であることは明らかであ
った。「残念ながら......。回復される可能性はほとんど
ないと考えていただかないといけません.......。今でも
いつ心臓が停止してもおかしくない状態ですから......。
正直なところ時間の問題だと思います......。」私は静か
に答えた。敏子がむせび泣く。詩織の頬にも涙が流れていた。
「嘘ですよね......。先生、嘘だっていってください....。
悟は初めての子供の顔もまだ見ていないんですよ。まだまだ
やらなくちゃならないことがあるんです。こんな馬鹿な事
があってたまるもんですか....。先生....。」敏子が机に
つっぷしながら叫んだ。「お母さん......。申し訳ないんで
すが.....。本当に私も残念なんですが.....。」司郎が言
った.「おい、お前、しっかりしろ。先生にそんなこと言っ
たってどうしようもないだろう。先生、こいつが取り乱して
しまって、すいません。」「いえ、それはいいのですが...。
いずれにしても状態としてはいつ急変してもおかしくない
状態ですから.....。ご家族には付き添っていただいた方が
いいと思います。何かあれば対応いたしますので......。」
私がそういうと司郎は深々と頭を下げて言った。「色々、
迷惑かけてすまないですが、よろしくお願いします....。」

(次回につづく)

 おとといの当直はかなり忙しくて昨日はかなりグロッキー気味
でした。この週末は少しゆっくり過ごしたいところです。
【2006/10/20 23:52】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(135)
 4時半ころに手術を終えた私は、手術患者のご家族
にお話を終え、患者さんをICUに送っていった。術後の
処置を終えると悟のところにいくことにした。朝の状態
も決していい状態ではなく、正直なところ手術中に急変
の報告がこないか心配していた。ともかくどんな状態か
様子をみないと....。私はそう考えていた。ナースス
テーションで悟の重症記録の温度板を確認する。血圧は
低いままで尿量もほとんどでなくなってきていた。ナー
スステーションにあるモニタにうつしだされる血圧の値
も上が60~70台であった。この感じでは多分、今日、明
日だろう。私はそう考えながら悟の病室に向かった。病
室のドアをノックして入る。病室には奥様とご本人のご
両親がいた。彼らは少し緊張した面持ちで私の方に視線
をむけた。私は無言で軽く会釈すると悟の傍にいき、診
察を行った。手首の部分の橈骨動脈はほとんど触れない
状態であった。「先生、どんな感じでしょうか?」奥様
が聞いてきた。私は少し考えてから「そうですね。あま
りいい状態であるとはいえないですね.....。」とつぶや
くように答えた。ご家族もいらっしゃることだしお話を
しておいた方がいいだろう。私はそう考えると言った。
「今、ちょっと説明の準備をしてから病状についてお話
したいと思うので待っていただいてよろしいでしょうか
?」私がそういうと奥様は言った。「わかりました。よ
ろしくお願いします。」私は軽く会釈すると悟の病室を
でて、病状説明するための準備をするためにナースステ
ーションに向かった。

(次回につづく)

 明日は当直のためブログの更新はお休みになります。
 今日も更新遅くなってしまいました。
【2006/10/17 23:54】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(134)
 詩織は病院にとまりこめるように荷物をまとめて2時
すぎに病院についた。移された個室の場所は聞かないと
わからない。詩織は今まで通り、ICUのインターフォン
でICUの看護師に聞くことにした。インターフォンを押す
とまもなくICUの中の看護師が返答した。「はい、どちら
様でしょうか?」「すいません。こちらは篠崎悟の妻で
すが、篠崎が病室を移ったと連絡があってきたのですが
どちらの病室になりますか?」「少々お待ちください。
今、ご案内いたします。」看護師はそういってインター
フォンを切った。中のドアが開いて看護師が詩織の方に
近づいてきた。「篠崎さんですね。こちらの病室になり
ます。」看護師に案内されて詩織は悟が移された個室の
病室に向かった。「それではこちらです。どうぞお入り
下さい。」看護師に言われて詩織は悟の病室に入った。
 悟が様々な機械に囲まれ、管に繋がれてベットに横た
わっているのはICUの時とかわらなかった。ただ日をおう
ごとに黄疸がつよくなり、むくみもあることから外観は
別人になっていくようだった。昨日とくらべても黄色味
はますますましてきてしまっているのがわかった。血圧
のモニタも80台であった。「いつでも急変がありうる
状態なのでご家族の方は付き添っていただいた方がいいと
思います。夜間、泊まることになるでしょうから、ポータ
ブルのベットは用意いたしますので.....。」「わかりま
した。有難うございます。」詩織がそう答えると看護師は
一礼をして部屋を出た。多分、他の仕事に戻ったのだろう。
 詩織はふーっと溜息をつくと椅子に座った。正直なところ
日々、衰弱しているように見える悟の姿をみているのはつ
らかった。だがこのような時につきそうのが自分の務めな
のである。たとえ可能性がほどんどないにせよ、まだ助か
る可能性を信じてつきそうしかないのだから....。詩織は
自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

(次回につづく)
【2006/10/16 23:57】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(133)
 「詩織ちゃん。大変だとおもうけど、まずは病院で悟
さんに付き添ってあげないと。母さんも父さんといっしょ
に病院にいくから.....。悟さんの状態も悪いとなると
私達もいかなくちゃならないし、赤ちゃんも連れて行か
ないといけないわね....。」友代は言った。「まだ連れて
いくのは少し心配だけど.....。」詩織は友代の言葉を
聞いて気持ちを少しでも抑えようと一息ついて言った。
「ごめんなさい、お母さん。赤ちゃんもここ3日間まか
せきりになってしまって....。でも私からみてもここ
数日はやっぱり状態悪いのがわかるの....。もう別人に
なってしまっていて.....。先生達が一生懸命やってく
れているのはよくわかるのよ。でも皮膚も黄色になって
きたし、血圧も上がってこないみたいだし....。先生の
話からも自分自身の中で少しずつは覚悟を決めなくちゃ
いけないんだろうってことはわかってはきているつもり
なの....。でも赤ちゃんともあえないまま、名前を一緒
につけてあげるはずだったのにそれもできないままに
悟さんが亡くなってしまわなくてはならないかもしれな
いということがどうしても信じたくないし、信じられな
いの.....。」友代は静かに言った。「ともかく母さん
も病院の近くにホテルとっていくから.....。詩織ちゃん。
どんなことがあっても母さんは詩織のそばにいるから。
父さんもいるし、万一の事があってもあなたを独りには
絶対しないから。安心して。ともかく今、泣いている
暇はないでしょう。はやく悟さんのところにいってあげ
て。あなたは妻であり、母親なのよ。あなたがしっかり
しなくちゃどうにもならないわ.......。大丈夫、あなた
ならどんなことがあっても大丈夫だから。母さん信じて
いるから........。」友代の言葉に詩織は涙がとまらなく
なるのがわかった。にわかにはどう答えていいのかわから
ず言葉を失っていた。詩織はしばらくしてなんとか気持ち
を落ち着けると言った。「母さん。本当にごめんない..
...。悟さんがこんな状態だからこそ私がしっかりしな
いといけないのに.....。気をつけてこっちにきてね。
赤ちゃんお願いします。それで.....母さん本当に有難う.....。
おかげでなんとか頑張れそうな気がします。」
詩織はしっかりとして口調で友代につげると受話器を置
いた。

(次回につづく)

 どうも学会のごたごたと帰ってからの仕事での忙しさ
から数日更新が途絶えてしまいました。ご心配かけたの
ではないかと思いますがなんとかやっています。発表も
無事に終わってとりあえずよかったです。しかし北海道
は遠いですね。千歳空港から札幌までもかかるし、札幌
駅のJRから地下鉄への連絡が遠くて.....。でも天気は
悪くなかったのでよかったです。昨日の夜も緊急手術で
呼び出しあってまだお疲れモードですが、また明日から
仕事がはじまります。気を引き締めていきたいと思い
ます。
【2006/10/15 23:03】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(132)
 詩織は敏子に電話で病院からの連絡を伝えたあと藤川の
実家に連絡を入れた。電話をかけるとまもなく友代が出た。
「もしもし、藤川ですが...。」「もしもし、お母さん。
詩織です。」「あら詩織ちゃん。どうしたの....。」「あの
ね、お母さん.....。」詩織は友代の声を聞いたとたんに声
がでなくなった。涙が突然あふれ出てきたのがわかった。
今まで気が張っていたのがぷつんと切れた、そんな感じだ
った。突然無言になった詩織に友代は訝しがった。そして
ピンときた。多分、悟が具合が悪いのだろう......。友代
は娘の言葉から状況を察した。「どうしたの詩織ちゃん。
悟さんに何かあったのね。そうなのね。」一向に泣きじゃ
くる詩織に友代は言った。「悟さん。どうなの。状態あま
りよくないの?落ち着いて。母さんがついてるから。」
 友代の言葉に促されて詩織は少し涙声で言った。「お母
さん....。あのね.....。事故のあとの手術のあと悟さん、
肺塞栓を起こしたのは伝えたわよね。」「ええ、一旦は心
臓が止まったけどまた持ち直したっていうところは聞いて
いるわ。」「そのあと、吐血してなんでも胃か十二指腸に
潰瘍ができているんじゃないかって....。それで胃カメラ
で出血はとめてもらったんだけど、どうも血圧が上がって
こないらしくて....。悟さん。私からみてもだんだん皮膚
が黄色くなってきていて、むくみもひどいの...。
 たくさん管つけられて身動きできなくてあんなになって
しまって.....。それで今までは集中治療室で治療していた
んだけど、状態も不安定だし、家族に付き添ってもらった
方がいいから部屋を移してくれるっていうの......。ねえ
母さん、これってもう先生達も駄目だって思ってるって
ことなのかしら.....。私、私.....。なんで、なんでなの
よ......。どうしようもないことだってあることもわかる
わ....。でもどうして悟さんが.....。今だに信じられない
し、どうしていいかわからなくなってしまって....。」
「詩織ちゃん..。」友代は詩織にかける言葉を失っていた。

(次回につづく)

 それでは明日札幌に向かいます。無事に学会発表が終了
しますように祈りつつ....。
【2006/10/10 23:47】 春風 | トラックバック(0) | コメント(2) |
春風(131)
 昼前に詩織の電話が鳴った。「もしもし篠崎ですが...。」
「失礼します。こちらM総合病院のICU病棟の島崎と申します。
篠崎詩織さんでよろしいですか?」「ええ。」「篠崎悟さん
ですけど、部屋を個室に移っていただくことになりました。
 状態があまりいい状態ではないのでご家族にもつきそって
いただいた方がいいかもしれません。」「それは......。ど
ういうことでしょうか?」「ご存知のように不安定な状態が
つづいていますので、ご家族にも付き添っていただいた方が
いいだろうということだと思います。詳しいことはまた先生
からお話はあると思いますが.....。先生も午後は手術に
入られるので、お話は夜になってしまう可能性はあります
が....。」詩織は少し考えてから言った。「わかりました。
すぐ病院にいった方がいいのでしょうか?」「病室をうつる
のは多分1時半くらいになると思います。それ以降なら患者さ
んに付き添うことができるようにすることができると思い
ます。」「わかりました。時間をみて病院の方に伺います。」
詩織はそういうと電話を切った。
 朝、先生にあったときもあまり思わしくなさそうな雰囲気だった
し、状態が悪くなっているのだろう....。考えたくはないが....。
 個室に移して家族が付き添えるようにするというのはどういう
ことだろう?かなり状態が厳しいということなのだろうか....。
 だが考えていても仕方がない。篠崎の実家に連絡してから病院
に向かわないと....。第一、こんな感じで家で待っているのは心理
的にもつらい、まだ悟の傍にいることができた方がいいかもしれ
ない......。詩織はそう考えると篠崎の実家に電話をするために
受話器をとった。まもなく敏子が出る。「もしもし、篠崎ですが
....。」「もしもし、こちら詩織ですが。」「ああ。詩織さん。
なにかあったの。」「今、病院から電話があって、悟さん病室を
個室に移すっていうことなんです。」「病室を個室へ?」「ええ
1時半くらいに部屋を移すということで....。そのあとは家族が
付き添えるようにしてくれるっていうことです。看護師さんの
話では家族が付き添ってくれたほうがいいだろうっていうこと
でした.......。」「そう.....。」敏子はため息をついて答えた。

(次回につづく)

 10月12日に学会の発表があるので10月11日の夕方出発します。
 明日は学会の準備と不在の間の事務処理で帰り遅くなるので
更新は厳しいかもしれません。13日には外来があるので12日の
夜には帰ってきますが....。今日は北朝鮮の核実験でニュースは
これ一色ですね。このごろは国内も国外もややきな臭くていや
ですね....。
【2006/10/09 22:21】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(130)
 外来を終え、手術前に私はICU病棟に悟の様子を見に行
った。昇圧剤を最大量まで使っていたが今朝方より血圧も
低下してきていた。輸血も引き続き行っていたが、尿量が
ほとんど出なくなってきていた。このままいけば今日、明日
かもしれない印象があった。少し悩んでから私は意を決して
ICUの婦長のところに向かった。「婦長さん。いいかしら。」
婦長は私の方を振り返って言った。「なんでしょう。nakano
先生」「篠崎さんなんだけど....。多分このままだと今日
明日のような感じなんだ.....。」「ええ.....。」「できれ
ば個室に移してもらえたらその方がいいと思うんだけど..。」
 婦長は少し黙ってから私の顔を見ていった。「わかりまし
た。なんとか午後ベット移動しておきますよ。ご家族への
部屋移動の説明は私からでいいんですか?」「ええ、午後は
私は手術に入ってしまうので、お願いしたいんですけど。」
「ベット移動の時に人工呼吸器をはずすのでアンビューバ
ックで押していかなくてはならないんですけどどうしま
すか?」「午後は島田先生が手が空いていると思うので
彼をよんでもらえますか?私からは言っておきますので。」
「わかりました。」「個室に移ったら、ご家族には付き
添ってもらうように言ってもらっていいですか?」「わか
りました。」婦長は答えた。

 私はICUを出ると島田に連絡をとった。「もしもし、島田
ですけど...。」「もしもし、nakanoだけど。先生、今いい
かしら?」「ああ、大丈夫だよ、用件はなんだい?」「先生
申しわけないんだが、篠崎さんちょっと状態が悪くて、今日
明日くらいの状態なんだ。今、ICUにいるんだが、家族につ
きそってもらうのに今日の午後にHCUの個室に移すことに
したんだけど、午後、僕は手術があるもので、先生、すま
ないんだけど部屋移動の時についてもらいたいんだ。」
 島田は少し考えてから言った。「わかった。移動の時は
連絡がくるんだね。」「ああ、ICUの婦長には言っておいた
から....。」「わかった。」「恩にきるよ。有難う。」私
はそういって院内PHSの通話を切った。

(次回につづく)
【2006/10/08 22:19】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(129)
 ICUの看護師が私に話しかけた。「先生。篠崎さんなんで
すけど.....。」私は問いかけに「ええ。」と答えた。看護師
は言った。「篠崎さん。状態としては回復の見込みは厳しい
と考えた方がいいんですよね....。」看護師は少し気をつかい
ながら言った。「まあ、なんとか頑張っていますけど、正直
なところそうでしょうね.....。」「今、PCPSも回している
しなかなか大変ですけど、個室にそろそろ移した方がいいの
ではないかって話がでているんですよ....。」看護師はつま
りこういいたかったのだった。もう篠崎さんに助かる見込み
はないと考えた方がいいのならICU病室ではなく個室で看取り
の方向にすることを考えた方がいいのではないかということ
であった。「ここではご家族も付き添うことができないで
すし.....。なかなかかわいそうな状況になってきてますし
......。」看護師のいうことにも一理あった。たしかにICU
の病室では家族の付き添いはできない。最低限の面会をする
だけで、待つのは待合室になる。個室に入れば、家族が付
き添えるし、状況によっては泊り込むこともできる。見込
みがないのなら別れの時間をつくってあげるのも大切なこ
とではあるのだ。だが話のもっていきようでは家族が医者
にさじを投げられたとも取られかれない可能性もあった。
「少し考えさせてもらえませんか?」私は言った。「若い
方だし....。まだ頑張ってあげたいところではあるの
で.....。」看護師は言った。「わかりました。一応先生
考えておいてください。」私は静かにうなずいた。

 詩織は毎朝、悟の見舞いにきていた。この病院は面談時間
帯に関してはそんなにうるさくなかったのでいつも朝に顔を
出すようにしていた。だが病院に通っているうちに8時半ごろ
は看護師の申し送りの時間で見舞いにいくにはあまりいい時
間ではないことがなんとなくわかったので8時前後に顔を出す
ようにしていた。今日も8時前に彼女はICU病棟に向かって
いた。廊下を歩いていると彼女はnakanoに行き会った。「お
はようございます。」彼女はnakanoに会釈した。「どうも
おはようございます。」と彼は会釈をした。「あの、先生
忙しいところ申しわけないんですが.....。」nakanoは足を
止めて彼女の方を向いた。「あの。篠崎悟の家内なんです
けど....。主人の状態はどうなんでしょうか?」nakanoは
少し困惑した顔をした。正直なところ状態はあまりよくな
かった。それを話すのはもっと落ち着いたところでした方
がよかった。立ち話できる話でもないとnakanoは考えてい
た。「正直なところあまりいい状態ではありません.....。
今日の採血のデータでは肝障害がすすんできています。
 状態は非常に厳しいですが......。いずれにしてもまた
詳しい話をちかいうちにさせてください。また連絡いたし
ますので.........。」「そうですか.....。」そういって
彼女は引き下がった。nakanoはまた軽く会釈してその場を
去っていった。やっぱり厳しいことにはかわりないのね.
.....。彼女はそう考えて深い溜息をついた。

(次回につづく)
【2006/10/06 23:48】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(128)
ICUにいき、昨日の手術の患者さんのところに向かった。
 こちらの患者さんは状態落ち着いており、手術の創も
問題はなさそうだった。採血のデータも落ち着いており
私は看護師に今日の外科病棟への転棟を指示した。ほっ
と一息ついたあと、悟のベットサイドにむかう。悟の重
症記の録温度板をみると血圧は90台を維持しており、昇
圧剤を使用しているものの小康状態ではあった。胃のチ
ューブからの排液はそんなに多くはなく、今のところ胃
からの出血は落ち着いているようだった。腹部の手術創
もこれといった変化はなかった。尿量も維持されており
全体的には落ち着いている感じであった。しかしながら
呼吸状態や循環状態が目に見えて改善しているわけでは
なかった。むしろ今回の出血によって、全身状態は出血
前よりも確実に落ちている印象があった。今日の採血の
データも好ましいものはなかった。肝、胆道系の酵素が
軒並み上昇している。ビリルビンも上昇しており、それ
を裏付けるように尿もビリルビン尿で黄疸による皮膚の
黄染もみとめられた。血圧の低下によるショック肝か.
...。あるいは大量の輸血にともなう肝障害か.....。また
血小板数が低下してきており10万を切ってきていた。DIC
(汎血管内凝固症候群)も起こしているかもしれない.
.....。DICが進行すると出血がとまりにくくなり再出血
を起こす可能性がある。私はエフオーワイ2000mg/日を
持続で開始することにして追加のオーダーを出した。
 データは状態が一層悪くなったことをはっきり
と裏付けていた。状態は決して楽観できるものではな
く厳しいことにはかわりはなかったのである。「きび
しいな......。」私は採血のデータをみながらつぶや
いた。「なんとか持ち直して欲しいところだけど....。」
 だが願いも虚しく悟の病状が持ち直すことはなかったの
である。

(次回につづく)
【2006/10/04 23:16】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
春風(127)
悟の病状は厳しかったが内視鏡をおこなったあとは悪いながら
状態は落ち着いていた。しかしながら急変は充分におこりうる状
態になった。それを確認してから私は今日の手術のやりかけてい
た手術標本の整理に戻った。すでに手術室の電気は消えていた。
 私は当直事務に手術室の鍵を借りて手術室に入り、やりかけて
いた標本整理にかかった。標本整理を終え、手術記録を書きおわ
ったときには午前2時をまわっていた。少しふらふらの体で医局
に向かう。家に帰って、戻ってくる通勤時間がもったいなかった。
 すでに2日家に帰っていない。下着も替えていない状態である。
 晩ご飯も食べそびれた.....。だが明日はまた通常勤務だ。小
さい手術も入っている。しかも当直日。下着は丸3日間替えられ
ないことは確定していた。だがもうそんなことはどうでも良か
った。激しい睡魔で意識が飛んでしまいそうだった。ともかく
横にならないと.....。5分、10分でも長く.....。夜間になにか
あって病棟に呼び出されたら出てくる時間がもったいないし..
..。私はその様なことを考えながら医局のソファーに横になった。
視界がぐるぐる回る感覚におそわれる。知らぬ間に私は眠りに
入っていた。

 目を覚ましたのは7時少し前だった。起きたときに一瞬自分が
どこにいるかわからなかった。「そうだ.....、昨日は篠崎さん
が急変して病院に泊まったんだった.....。」少しして私は状況
を把握した。体が重い....。もしかして呼び出されたの気がつか
なかったってことないよな。私は院内PHSの着信履歴を確認して
呼び出しがこの間なかったのを確認してほっと息をついた。今日
は8時から来週の手術の術前カンファレンスがある日だった。その
まま午前中は外来に出て、午後から手術なので病棟にいけるのは
8時までの間だ。それまでに病棟の患者さんの状態を確認しに回診
にまわらなくてはならない。まずは篠崎さんと、昨日の手術患者
さんをいの一番に見に行かなくては......。わたしは飛び起きる
と急いで身支度を整え、ICU病棟に向かった。

(次回につづく)
【2006/10/02 22:53】 春風 | トラックバック(0) | コメント(2) |
春風(126)
 「ともかく胃の潰瘍が落ち着くまで抗凝固療法は一旦
中止にします。状態が落ち着けばまたヘパリンを再開で
きると思いますので.....。いずれにしても状態は厳しい
ですが、いままで続いていた命にかかわる出血は止めら
れたのでまずはよかったと考えています。あのまま出血
が止まらなければまず数時間で助からなかったでしょう
から....。ともかくやれるだけのことはやっています
ので.....。なんとか望みを捨てないで頑張ってみたいと
考えています.....。」司郎は言った。「わかりました。
ともかくよろしくお願いします.....。」

 面談室を出た3人は半ば呆然としていた。ICUでは付き
添えない彼らは家族の控え室に黙ったまま座り込んだ。
詩織は頭の中が真っ白になっていた。ここ数日の出来事が
信じられなかった。つらい妊娠期間と出産を終えたあとに
どうしてこんな苦難が訪れると予想できただろうか。全く、
神も仏もあったものではない。いや神などいるはずがない
のだ。もしいたのならこんな私を放っておくはずがない..
...。ぶつけどころのない怒りとどうしようもない無力感に
詩織は襲われていた。敏子がつぶやくように言った。「悟
は....やっぱり駄目かもしれないわね.......。」敏子の
言葉に司郎はさとすように言った。「そんなこというな。
本人も先生も頑張っているんだから。だがここ数日の状況
をみると覚悟はしておく必要はありそうだな。」敏子は言
った。「手術して、あんなにあちこちに管をつけられて
ベットに縛り付けられて。たくさんの機械に囲まれていて
......。私は傍でみているのもつらいですよ.....。一体
なんでこんなことに.....。」「もういうな。ともかく今
はなんとか回復してくれることを祈って待つしかないんだ
から.....。」司郎の言葉に詩織は思った。そうよ。悟さん
も頑張っているんだから.....。悟さんが私と子供を置いて
逝ってしまうなんてことはあるわけないわ.....。絶対大丈
夫よ.....。詩織は自分にいいきかせるように心の中で必死
につぶやいていた。

(次回につづく)
【2006/10/01 17:44】 春風 | トラックバック(0) | コメント(0) |
藪医者の独り言


ここに記載されたエピソードは著者の体験をもとに構成したフィクションです。 このページはリンクフリーです。気に入ったら適当にリンクを貼っていただいて結構です。


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