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春風(145)
その後も私は救急外来と救急車の対応に追われて
いた。時計は午前1時半を回っていた。もう病理解
剖は始まっている時間だった。この感じだと病理解
剖には入れないかもしれないな...。川口先生に申し
訳ないなと私はぼんやり考えていた。

 「それじゃお部屋に運ばせていただきますので。」
看護師の鳥海はそういって解剖室のドアの前で悟の
家族にお辞儀をした。「よろしくお願いします。」ご
家族は深々と頭を下げた。「それでは待合室でお待ち
ください。」鳥海はそういって遺体を部屋に運び入れた。
 家族の前でドアが静かに閉じられた。詩織たちは重
々しい足取りで待合室に向かった。敏子が司郎にささ
やくように言った。「薄情な嫁だよ。涙ひとつこぼさ
ず解剖してくれなどど言って.....。」司郎はたしなめ
るように言った。「詩織さんも考えのあっての事だ。
余計なことをいうんじゃない。急なことだったし、本当
に悟の死が避けられないことだったことを確認したいん
だろう。お前もつらいことはよくわかるが、幼子を抱え
て生活がかかっている詩織さんが一番つらいんだ。彼女
の好きなようにさせてやるのが我々の務めだろう。いい
か、いままでの経過はどうあれ、我々の息子が突然の死
という形で詩織さんと藤川の家に迷惑をかけてしまって
いるということを忘れるな。」「あなたも薄情ね。悟は
私がお腹を痛めて産んだ子なのよ.....。」「馬鹿!つ
らいのはお前だけじゃないんだということをしっかり
考えろと言っているんだ。私だって、胸が締め付けられ
る思いだ.....。全くあの親不孝ものが......。」司郎
の声は震えてかすれそうであった。

 解剖台の上に横たわった悟の遺体を前に川口は技師と
一緒に立っていた。川口は言った。「ご遺体に対して
黙祷....。」1分弱の黙祷の後、川口は言った。「午前
1時47分、篠崎悟氏の病理解剖を始めます......。」

(次回につづく)
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