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春風(149)
 「わかりました。すぐいきます。」すこし朦朧としながら
私は電話を切った。眠い目をこすり重たい体を起こす。少し
ふらふらする感じがあったがそれを気にしている暇はなか
った。あわてて身なりを整えてから医局から出て霊安室に
向かう。時計を見ると6時を少し回っていた。霊安室の前
で少し私は息を整えた。静かに霊安室のドアをノックして
ドアを開けるとご家族が無言でご遺体を前に並んで
いた。ご遺体が霊安室に安置され、祭壇に火がともされ
ていた。私はご家族に一礼をした。ご家族も無言で頭を
下げた。「ご焼香させていただきます。」私は一言そう
いって霊安室の祭壇で焼香をあげ、祭壇と遺体に手をあ
わせて一礼した。先に来ていた看護師も私にしたがって
焼香をあげご家族に一礼した。私達が焼香を終えたのを
見計らって葬儀社の業者が「それではご遺体を車の方に
移動させていただきますので....。」と言った。私と
業者とご家族の手で遺体は業者のストレッチャーに乗せ
られた。ストレッチャーに乗せられたご遺体はご家族に
囲まれて車に運ばれた。寝台車の後部のハッチが閉じら
れた。一同が静かに手を合わせ車に向かって一礼した。
「それではご遺体をお預からせていただきますので...
..。」業者は私に向かって言った。「よろしくお願い
します。」と私は答えた。司郎が私の方に近づいて言
った。「本当に色々有難うございました。先生には本当
にお世話になって.....。」「いえ、そんなことないで
す。本当はなんとか助けたかったんですが...。力及ばず
で.....。」「いえ、一生懸命やっていただいて本当に
感謝しています。本当に有難うございました......。」
 司郎はそういうと私に深々と頭を下げた。

 私は寝台車が病院の裏門をでていくのを頭を下げて
見送った。緊急手術からここ数日の必死の努力にもかか
わらず患者さんは亡くなってしまった。ご家族の悲しみ
に比べれは比ではないが、無力さと悔しさが少なからず
私の胸に渦巻き空しい思いが心をよぎった。

(次回につづく)

帰りが遅くなり日にちが変わっての更新になりました。
物語もそろそろ終盤になります。引き続きよろしくお願い
します。
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