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春風(141)
 私はあわてて悟の病室に向かった。ドアをノックして病室
に入ると病室内にいたご家族の目がすべてこちらを向いた。
 私は軽く会釈すると病室に入った。ご家族がベットの脇から
はなれ私が入るスペースをつくった。私はゆっくりと悟のベット
の傍に向かった。心電図のモニターのQRS波はのびてきており、
いまにも波形は消失しそうであった。詩織が言った。「どんな
感じでしょうか?」「そうですね.....。血圧もでないですし
心拍数も落ちてきていますので......。時間の問題だと思い
ます.....。」「そうですか.....。」詩織は少しため息をつく
とつぶやくように言った。実際もう数分か数十分で心停止に
なるだろう.....。ベットサイドからはしばらく離れられない
だろう....。私はそう思いながら悟の傍に立っていた。だれも
が無言だった。やがてアラーム音がなり、モニターが心拍が
完全に停止したことを示した。あちこちからうめき声に似た
嗚咽がもれる。私は2,3分様子をみて心拍が再開しないのを
確認して聴診器を胸にあて、瞳孔の散大を確認した。頚部の
脈拍をふれないのを確認してから時計で時刻を確認した。
 「よくがんばられましたが4月○日午後11時52分死亡確認と
させていただきます。本当にお疲れ様でした。」私は静かに
そういうと深々と頭を下げた。「全く、親より先に逝ってしま
うなんて、この親不孝ものが!」司郎がうめくように言った。
司郎の頬には大粒の涙がこぼれていた。「色々ご迷惑をかけ
ました。本当に有難うございました。」詩織はそう言って
頭を下げた。「しばらくお別れの時間がいるでしょう。
我々外にでていますので処置させていただいてよろしく
なりましたら声をかけてください。」私はそういうと頭を
下げて病室を出た。後にした病室からは「悟.....。どうし
て.....。」という叫び声に似た敏子の声が漏れてきた。
 重い足取りでナースステーションに向かい、死亡診断書を
取り出して記入を始めているとPHSが鳴った。「先生、今
よろしいですか....。」「うん、今患者さんを看取ったと
ころだから、もう少しすればいけると思うけど....。」
「これから救急車がきます。嘔吐と腹痛の方です。」「そう。
あとどれくらいで来ますかね?」「△△町からですから
多分20分くらいだと思います。」「わかりました。到着した
らすぐ連絡ください。」私はそういうと溜息をついて電話
を切った。

(次回につづく)
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