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帰れない老人達(2)
 リハビリもすすみ食事も摂取できるようになりそろそろ退院
をと考え、家族と退院の相談をしようと話しあいの場をつくっ
た。「術後の経過は概ね良好でした。幸いにも大きな合併症
もなく経過しました。状態もいいので退院の方向で準備をすす
めたいのですが。」と話すがいなや「退院は困ります。」奥さん
から開口一番に強い口調で発言した。「それはどういうことで
すか?」「先生は主人を追い出すおつもりですか?家でもう
主人の世話はできません。私も体が弱ってきてるし、色々ヘ
ルパーなど入ってもらってみてきましたけどもう見切れない
です。」一瞬愕然とした。若かった私は感情を押し殺しなるべく
穏やかな口調で言った「それはどういうことでしょう。私たち
は出来るかぎりの事をしてご主人を良くしようと頑張ってき
ました。手術も決して安全ではなく薄氷を踏む思いで経過を
見守ってきたんです。その努力が実ってもうそろそろ家に帰
ってもいいくらい良くなったというご報告をさせていただい
たつもりです。私は良くなってよかったとご家族の方にも喜
んでもらえるものと思っていました。それが開口一番困りま
すとはどういう事ですか?ご主人はお荷物で家に連れ帰るつ
もりはないという事はどういう事ですか?それならばどうし
て本人も嫌がった手術をしたんですか?本当はご主人が手術
で亡くなった方がよかったと言う事ですか?それならば我々
のいままでの努力は全く余計な事だったということですか?
それはあまりにも我々に対して失礼ではないですか?」奥さ
んは慌てて答えた。「すいません。もちろん主人を良くして
いただいたことに関しては感謝しています。でも家に連れて
いくのは無理です....。」
 結局、長期療養施設の空きを待って転院予定となった。
その間、可能であったはずだが外出や外泊で一度も家に彼は
帰る事はなかった。転院前、回診で回ってきた私に彼は優し
くささやいた。
「先生、家に帰りたかったよ。でも家の連中はもう俺の
世話を焼くのは嫌なんだよ。だから帰れない。でも俺の年金は
欲しいんだ。だから俺に死んでもらったら困るんだよ。だから
おれもどうでもいいやと思ってさ。もう手術もいいや、このま
ま死ねるんならって思ってた。先生には助けてもらったけど
自分自身複雑な心境ではあるんだ。でも先生は一生懸命やって
くれた。だから感謝はしてる。」そして彼は無言で転院して
いったのである。
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はじめまして。
私の父も最近肺気腫にて入院し、お陰さまで1週間ほどで退院しました。
退院してくれた時の喜びは、何ものにも代えがたく感じました。
この記事を読んで、余りにも虚しく、人の心の闇を見たような気になりました。
確かに、様々な事情が各ご家庭にはあるでしょう。
しかし、他に何らかの手立てはなかったのでしょうか?

私は医療関係者ではありませんが、人の想いに携わる事が多々あります。
生きるという事を、もう一度考えさせられた記事でした。
ありがとうございました。
呂布奉先 | URL | 2005/09/14/Wed 17:37 [編集]
 呂布奉先さんコメント有難うございました。

>この記事を読んで、余りにも虚しく、人の心の闇を見たような気になりました。
確かに、様々な事情が各ご家庭にはあるでしょう。
しかし、他に何らかの手立てはなかったのでしょうか?

 私も呂布奉先さんと同じ思いでした。本来は患者さんの社会復帰が医療者としての喜びであるはずなのですが、一生懸命治療して退院できるまでよくしても結局家に帰れない人はたくさんいらっしゃいます。本人が帰りたくても、ご家族がうんといわなくては家に帰ることはできませんし、退院をあからさまに渋る家族のいらっしゃるのも事実です。そのたびに思うのが、まさに他に何か手段はなかったのだろうかという疑問です...。

 呂布奉先さん貴重なコメント有難うございました。これからも当ブログを覗きにいらしてください。 
nakano | URL | 2005/09/14/Wed 21:50 [編集]
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