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芝桜の咲く丘(3)
 最後の会話をしてから里子の意識はもどることはなかった。吉男も仕事が忙しかったがなんとか時間をつくって、1日1度は病院にくるようにはしていた。話しかけても答えてくれることがない妻の傍にじっと座り、2言、3言話しかけては押し黙った。40年近く連れ添ってきたというのに、いったいどれ位の時間、妻と話し合うことができたのだろう。いっしょに居られる時間は当たり前であると思いこんでいたことの自分の愚かしさを吉男は口惜しく感じた。妻が病気になり手術を受けることを知ったのは病院から呼び出しを受けた時であった。医師に里子に秘密で吉男は面談室に迎えられた。「奥様の腫瘍は右の卵巣からのもので、お腹のリンパ節に広範に広がっています。肝転移もあり正直かなり厳しい状況です……..。」という突然の医師からの話を吉男はにわかには信じられなかった。その後の医師の説明のことはよく覚えていない。混乱する頭の中で吉男はつぶやくように医師に言った。「あの….。妻はこのことは……。」吉男の問いに医師は言った。「事実をほとんど理解していらっしゃいます。病気の状態から治療、その後の見込みまでご自分でも色々勉強されていらっしゃるようですから……。私に 先生、私が助かる見込みはあまりなさそうですね…..。でも、できるだけ長く生きていたいんです。私がいなくなると主人は独りになってしまいますからと。おっしゃったんです。最初はご主人に内緒で手術して欲しいとおっしゃってました。さすがにそれは病院側としてはできませんとお話しましたけど….。」「私に内緒で……。」「ええ、あなたを悲しませたくない、心配させたくないということでした…..。」

 いったい私は妻になにをしてあげられたというのだろう……。里子の手をにぎりながら吉男は考えていた。モニタのアラームの音とともにモニタの心拍数を示す値が0を示した。
 担当医は静かに頸部で脈拍の喪失と瞳孔の散大を確認し、吉男に向かって告げた。「よくがんばられましたが……。午後3時15分、死亡確認とさせていただきます。旦那さまも御苦労様でした…….。」吉男は黙って医者の方を向き里子の手をにぎったまま軽く会釈した。
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久しぶりの更新待ち遠しかったです。これからも色いろなお話を待っています。どうか書き続けて下さい。
| URL | 2009/04/13/Mon 16:49 [編集]
ありがとうございます
 どうも、忙しさにかまけてなかなかブログの更新ができない状態がつづいていました。少し状態が落ち着いてきたので改めてまた書いてみることにしました。少しの方でも再開を待ってくださる人がいらっしゃることに感謝しています。ご期待に沿えるよう、無理のないように更新をしていきたいと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。
nakano | URL | 2009/04/13/Mon 23:14 [編集]
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